少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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62:イケメンは心までイケメンでした(2)

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「紬ちゃんは何も持ってない自分に強烈なコンプレックスを抱いているようだけど、そんなの気にしなくていいよ。紬ちゃんは随分しっかりした子だけど、まだ未成熟の子どもでしょう。自分と悠紀じゃ釣り合わないとか、余計なことを考えて気持ちにブレーキをかけるのは止めなさい。大人になるのはまだ先でいい。青春時代を送れるのはいまだけなんだから、あれこれ考えて足踏みするのはもったいないよ?」

 真紘さんは立ち上がって私の傍へ来た。
 身を屈め、座っている私の頭を優しく撫でながら言う。

「大丈夫。おれはいつでも紬ちゃんの味方だよ。応援してるから、頑張って」
 真紘さんは笑った――笑ってくれた。

「ありがとうございます」
 私は深々と頭を下げた。
 真紘さんに認めてもらえたことが本当に嬉しかった。

「それで、いつ告白するの?」
 指先で涙を拭う私を見つめてから、真紘さんは隣の椅子を引いて腰掛け、悪戯っぽく笑った。

「えっ。あ、そ、そうですね。まずは正孝さんの許可を得ませんと。全てはそこからです」
「父さんに許可を取るの? 悠紀に告白していいかって?」
 真紘さんは足を組み、不思議そうな顔をした。

「はい。ご存じの通り、私は日向家に居候させてもらっている身ですから。自分の知らないところで居候と大事な息子が恋仲になったとなれば、正孝さんは気分を害するでしょう。お世話になっている以上、筋は通さなければいけません」
「なるほど。確かにそうしたほうが好印象だろうね」
 真紘さんは納得したように頷いて、微笑んだ。

「本当に紬ちゃんは良い子だね。物事をきちんと考えられる、立派な子に育ててもらったんだね。おばあさまには感謝しないといけないね」

「はい」
 微笑み返す。

 とにかく厳しいおばあちゃんにはよく泣かされた。
 でも、友達から字や姿勢が綺麗だと褒められるのも、奏城学園の編入試験に受かるほどの基礎学力を身に着けることができたのも、全てはおばあちゃんの教育の賜物だ。

 おばあちゃんは自分が亡くなった後、孫娘が一人でも生きていけるように厳しく指導してくれたのだ。
 昔はわからなかったけれど、いまなら厳しさの裏に隠されたおばあちゃんの愛情がわかる。

 おばあちゃんは幽霊になってまで私を気にかけて、悠紀くんに私のことを頼んでくれたんだよね。

 ありがとう。
 私は心の中で亡きおばあちゃんに呟いた。

「……でも。例え正孝さんが許してくれたとしても。肝心の告白が悠紀くんに受け入れられるかどうか……」
 私は俯き、胸の前で人差し指を合わせた。

 同じ家で暮らしている以上、悠紀くんとは毎日顔を合わせるのだ。
 告白に失敗したら、当分の間はお互いに気まずい思いをしなければならない。
 私は地獄のような重い空気に耐えられるだろうか。自信がない。

「ああ、それは心配しなくていいよ。悠紀は――あ。いや。なんでもない。ごめん。忘れて」
 笑顔で何か言いかけた真紘さんは、台詞の途中でふと我に返ったように慌て、右手を振った。

「? 悠紀くんは?」
「いや本当に忘れて! 悠紀に怒られるから!!」
 さっきより激しく手を振る真紘さん。
 彼がここまで慌てるのも珍しい。

「?? わかりました」
「ありがとう。助かるよ」
 真紘さんは自分の胸を押さえ、安堵したように笑った。
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