少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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63:ある雨の日の放課後に(1)

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 迎えに来たマネージャーの車に乗り、真紘さんは翌朝帰っていった。
 真紘さんは都内のコンシェルジュ付きの高級マンションで一人暮らししている。

「次に会えるのはいつかなあ……」
 車が見えなくなるまで手を振った亜紀くんは黄昏るように空を見上げ、遠い目をした。

 空は分厚い雲に覆われている。
 予報によると、今日から数日雨が続くらしい。

「8月にはドームツアーもしてたし、真紘さんはいま日本で一番忙しいアイドルだからね……いつだろうね……」
 なにせ彼は音楽番組で当たり前のように大トリを務める超人気グループのリーダーなのだ。

 いま契約してるCMは何社なんだろう。
 テレビを見てもネット動画を見ても、真紘さんをよく見かける。

「ふ。人気者の兄ちゃんを持つと辛いぜ。寂しくなったら『bird/blank』 のDVDでも見よ」
「いや、普通に電話すればいいだろ」
 呆れたように悠紀くんがツッコミを入れた。

 そんなやり取りがあった数日後。

「また雨が降ってる……段ボール集めに行けないじゃん」
 木曜日の夕方。
 窓の外を見て、装飾班の男子が嘆いた。

 文化祭準備のため、生徒たちの机はまとめて前方に寄せられている。

 広く空いたスペースで、クラスの約半分に及ぶ装飾班の生徒たちは各々散らばったり、固まったりして作業していた。

 その中には女子と談笑している保坂くんや、悠紀くんや神谷さんも含まれている。

 悠紀くんは段ボールにペンキを塗っていた。
 神谷さんはその隣でカッターを握り、手際良く段ボールを切断している。

 最初、文化祭実行委員にして装飾班のリーダー的存在でもある中島くんに「この段ボール、この大きさに切っておいて」と指示書を渡されたのは悠紀くんのほうだったのだが、カッターを握った十分後に悠紀くんは己の左手を切る流血沙汰を起こした。

 教室の前方に寄せられた机のうちの一つに座り、花菜ちゃんや円香ちゃんと雑談していた私は反射的に立ち上がった。

 でも、「きゃあ大変!」と叫んで神谷さんが悠紀くんの手を引っ張り、医者が常駐している保健室へ突進していったため、出る幕がなかった。

 左手に包帯を巻いた悠紀くんを連れて保健室から帰ってきた神谷さんは私を見て、ふふんと勝ち誇ったように笑った。

 ちなみにその後、D組の騒動を聞きつけた亜紀くんは「うちの弟は超絶不器用だから刃物は持たせないでくれ」と中島くんに直訴した。

 そんなわけで、事件が起きた水曜日から、装飾班における悠紀くんの役割は主にペンキ係となった。

 これは亜紀くんと、少々ショッキングな現場を目撃したクラスメイト一同の要請による。
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