少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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69:ある雨の日の放課後に(7)

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「いい加減にしてよ!! どっちがより悠紀くんが好きかなんて本っ当に、マジで、心の底からどうっでもいい!! この議論自体が時間の無駄!!」
 ばんっ、と力任せに右手で壁を叩く。

「な……」
 神谷さんはぎょっとしたように目を剥き、一歩引いた。

「私は悠紀くんが心配なの、それだけなの!! とにかく来て!!」
 私はじんじんする右手を握り込み、左手で神谷さんの腕を掴んだ。

「なっ――ちょっと、痛いってば!!」

 抵抗されても簡単には振りほどけないよう、私は神谷さんの華奢な腕を握り潰さんばかりに強く掴み、西階段を下りて行った。

 一階と二階の間にある踊り場に着く。

 踊り場の壁には『創立百周年記念品』と書かれた鏡がある。
 茶色の木枠にはめ込まれた、長方形の鏡だ。

 東階段にも全く同じものが全く同じ位置に飾られていた。
 ここで消えたというなら、最も怪しく思えるのはこの鏡だけれど、原因が鏡とは限らない。

 疑いを持って見回すと、雨の雫が幾筋も垂れた窓、白い壁、天井、蛍光灯、足元の階段――目に映る全てが怪しく思える。

「神谷さん。何か感じる?」
 鏡の前で、私は神谷さんの腕を解放して振り返った。
 くっきりと私の手の痕が刻まれた腕を摩り、神谷さんは恨めしげに私を見ている。

「ねえ。強引に連れてきたのは謝るから、教えて。どこかにあやかしはいない? 神谷さんの目で見て、何か怪しい個所はない?」
「……知らないわよ」
 神谷さんはそっぽ向いて、吐き捨てるように言った。

「神谷さん――」
「ああもう、うるさいわね! 聞かれたって、わかるわけないでしょ!? あたしはっ……」
 神谷さんは一瞬、痛みに耐えるような顔をしてから叫んだ。

「あたしは、本当は! !!」

「………………え?」
 言葉の意味を掴み損ねて、私は呆然としてしまった。
 神谷さんは雨に耐える花のように俯いて固く拳を握っている。

「見えないって……そんなわけないでしょう。変な嘘言わないで。私、悠紀くんに聞いてるんだよ? 神谷さんは悠紀くんが見たあやかしの容姿や特徴をそっくりそのまま言い当てた。山神さまがたまに欠伸したり、悠紀くんを見て尻尾を振ることだって知ってるんでしょう? 悠紀くんは、この世界で神谷さんだけが唯一自分と同じものを見て、『特別』である辛さや悲しみを理解してくれる人なんだって、嬉しそうに――」

「だから! 見えるのはあたしじゃないの! あたしは人から聞いた情報を使って、あやかしが見えるふりをしてただけ!」
 耐えきれなくなったように神谷さんは叫んだ。
 長い睫毛に縁取られた大きな目にうっすらと涙が浮かんでいる。
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