70 / 97
70:ある雨の日の放課後に(8)
しおりを挟む
「あたしは何も特別じゃない! あんたと同じ凡人なの! 少しでも日向くんの気を引きたくて嘘をついてたの! 馬鹿みたいでしょう、たったそれだけの理由であたしは五年も演技をし続けた! 笑いたければ笑いなさいよ!」
呆然と彼女の台詞を聞きながら、思い出す。
悠紀くんは「同じクラスになった初等部五年生のとき、授業中に山神さまが教室に突入してきても神谷さんは動じなかった」と言っていた。
あれは、見えない演技をしていたからではなく、本当に見えていなかったのだ。
よく思い出せ――始業式の日、屋上で突風が吹いたとき、彼女も驚いていなかったか?
山神さまの仕業だとわかっていたなら、驚く必要はなかったはずだ。
「……笑わないよ。笑えるわけがない。だって、神谷さんはそれくらい悠紀くんのことが好きだったんでしょう? 一時ならともかく、五年も嘘をつき続けるなんて凄いよ。途中で辛くなることもあったでしょう。もう止めたいと思ったでしょう。それでも神谷さんは嘘を貫き通した。本当に……悠紀くんのことが好きだったんだね」
自分を好きになってほしい、それが嘘をついた動機ではあるのだろう。
でも、一方で、神谷さんは人には見えないものを見て、同じ学園の生徒たちから変人扱いされ、孤独に苛まれている悠紀くんを慰めようとしたのではないだろうか。
ここにあなたを理解する味方がいる、だからあなたは独りではない。
好き勝手に囁く人間の言葉に振り回されて悲しむ必要はないと伝えたかったのではないのだろうか。
「……何よ。わかったような口を利かないでよ」
神谷さんはハンカチを引っ張り出し、目元を拭った。
「うん。ごめん。ねえ、神谷さん。あやかしが見えるその人の名前を教えて。その人に助力を乞いたい」
悠長に話している時間はない。
神谷さんの心境に思いを馳せ、感傷に浸っている場合でもなかった。
「勘違いしてるみたいだけど、その人にあやかしを見る力なんてないわ。その人が見えるのは……触れた対象の過去だもの」
勝手に情報を開示するのは憚れるのか、神谷さんは言いづらそうにそう言った。
触れた対象の過去を読み取れる……?
「……まさか。その人って」
頭の中で全てが繋がり、私は愕然と尋ねた。
「そう。保坂くんよ」
神谷さんの口から明答を得た瞬間、私は踵を返して階段を上った。
神谷さんも無言で後をついてくる。
急いで教室に戻ると、保坂くんは教室の一角で相変わらず女子とお喋りしていた。
この人、文化祭準備のためっていうより、可愛い女子と喋るために居残ってるよね?
「話の邪魔してごめんね。保坂くん、ちょっと来てほしい」
足早に近づいて話しかける。
「――ああ、やっぱり。来ると思った」
保坂くんは顔を上げて私を認め、その唇に笑みを浮かべた。
呆然と彼女の台詞を聞きながら、思い出す。
悠紀くんは「同じクラスになった初等部五年生のとき、授業中に山神さまが教室に突入してきても神谷さんは動じなかった」と言っていた。
あれは、見えない演技をしていたからではなく、本当に見えていなかったのだ。
よく思い出せ――始業式の日、屋上で突風が吹いたとき、彼女も驚いていなかったか?
山神さまの仕業だとわかっていたなら、驚く必要はなかったはずだ。
「……笑わないよ。笑えるわけがない。だって、神谷さんはそれくらい悠紀くんのことが好きだったんでしょう? 一時ならともかく、五年も嘘をつき続けるなんて凄いよ。途中で辛くなることもあったでしょう。もう止めたいと思ったでしょう。それでも神谷さんは嘘を貫き通した。本当に……悠紀くんのことが好きだったんだね」
自分を好きになってほしい、それが嘘をついた動機ではあるのだろう。
でも、一方で、神谷さんは人には見えないものを見て、同じ学園の生徒たちから変人扱いされ、孤独に苛まれている悠紀くんを慰めようとしたのではないだろうか。
ここにあなたを理解する味方がいる、だからあなたは独りではない。
好き勝手に囁く人間の言葉に振り回されて悲しむ必要はないと伝えたかったのではないのだろうか。
「……何よ。わかったような口を利かないでよ」
神谷さんはハンカチを引っ張り出し、目元を拭った。
「うん。ごめん。ねえ、神谷さん。あやかしが見えるその人の名前を教えて。その人に助力を乞いたい」
悠長に話している時間はない。
神谷さんの心境に思いを馳せ、感傷に浸っている場合でもなかった。
「勘違いしてるみたいだけど、その人にあやかしを見る力なんてないわ。その人が見えるのは……触れた対象の過去だもの」
勝手に情報を開示するのは憚れるのか、神谷さんは言いづらそうにそう言った。
触れた対象の過去を読み取れる……?
「……まさか。その人って」
頭の中で全てが繋がり、私は愕然と尋ねた。
「そう。保坂くんよ」
神谷さんの口から明答を得た瞬間、私は踵を返して階段を上った。
神谷さんも無言で後をついてくる。
急いで教室に戻ると、保坂くんは教室の一角で相変わらず女子とお喋りしていた。
この人、文化祭準備のためっていうより、可愛い女子と喋るために居残ってるよね?
「話の邪魔してごめんね。保坂くん、ちょっと来てほしい」
足早に近づいて話しかける。
「――ああ、やっぱり。来ると思った」
保坂くんは顔を上げて私を認め、その唇に笑みを浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる