少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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68:ある雨の日の放課後に(6)

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「私が嫌いならそれでいいよ。でも、悠紀くんを助けない、っていうのは違うでしょう? 神谷さんは悠紀くんのことが好きなんでしょう? 休憩時間の度に悠紀くんの席に行って、話しかけて、一緒にご飯を食べて、嬉しそうに笑って――本当に、悠紀くんのことを愛してるんでしょう? それなのに、なんで私への嫌がらせに悠紀くんを使おうとするの? いまこの瞬間、悠紀くんがどこかで苦しんでるかもしれないのに。どうして悠紀くんの救出より私への嫌がらせを優先するの」
 言いながらも、愚問だとわかっていた。
 そんなの、彼女の態度を見れば瞭然なのに。

 ああ、私の馬鹿。大馬鹿者。
 私はさっきの対応を心底から悔いた。

 悠紀くんに何も聞いていないと悲しむ神谷さんに、私は一刻も早く悠紀くんを助けたいと焦るあまり、「いまそんなことどうでもいい」と切り捨てた。

 神谷さんの感情を無視して自分の都合を優先した。

 だから神谷さんは怒って、へそを曲げてしまったんだ。
 もし神谷さんの協力を得られず、万が一手遅れになってしまったら、全部私の責任だ――。

「……ごめんなさい。私が悪かった。謝るから。私にできることなら何でもする。だから、どうかお願いします。悠紀くんを助けてください」
 私は身を折って、深々と頭を下げた。

 長い沈黙があった。
 喧噪や雨音に交じって、何あれ、どうしたんだ。そんな声が聞こえた。

 聞き覚えのあるその声は、クラスメイトの田村くんと渡辺くんの声だった。
 恐らく階段に散らばった段ボールを回収し終わって教室に戻るところだったのだろう。

 彼らの声と足音が遠ざかるのと同時に、段ボールが擦れ合うような小さな音も聞こえなくなった。

「……本当に、何でもするのね?」
「うん」
 顔を上げて答える。
 すると、神谷さんの顔が喜悦に歪んだ。

「なら、日向くんとの同居を解消して。この学校も退学してよ。日向くんの前から消えて」
「わかった」
 即答する私を、神谷さんは怪訝そうに見つめた。

「……本気で言ってる?」
「うん。望み通り、私は悠紀くんの家から出ていく。学校もやめる。二度と悠紀くんには近づかない。あと他に何か要求はある? 何でも言って」
 私は一歩神谷さんに近づいた。

「……特にない。日向くんの前から消えてくれたらそれでいい。でも、本当にそうするつもり?」
「うん。悠紀くんのためならなんでもするよ。彼は灰色だった毎日に色をくれた。何よりも大事で、大切な恩人なの。彼のためなら死んでもいい」
 目を逸らすことなく断言する。
 私の本気が伝わったらしく、神谷さんは唇を引き結び、俯いた。

「……何よ。それじゃまるで、あんたのほうが日向くんのことを好きみたいじゃない……」

「ああああああもう!!!」
 私はとうとうキレて喚いた。
『良い子』の仮面を心のゴミ箱に叩きつけ、神谷さんを睨む。
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