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67:ある雨の日の放課後に(5)
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「悠紀くんは西階段を使うことについて、何も言わなかった? 反対しなかったの?」
「使いたくないとか言ってたけど……それがなんだよ」
塚原くんは怯んだように口ごもったものの、すぐに強い眼差しで見返してきた。
「行きはあいつの我儘に付き合って、東階段から行ったよ? でも、帰りは重い段ボールを運んでるんだぜ? なんでわざわざ遠回りしなきゃいけねーんだよ。理由を聞いても、とにかく通りたくないって、そればっかりで、意味わかんねーし。だから――」
「悠紀くんがいなくなったのは、どのあたり?」
言い訳じみた台詞を遮って問う。
「一階と二階の間にある踊り場だけど……」
「わかった。教えてくれてありがとう。神谷さん、ちょっと来て」
私は塚原くんから視線を外し、当惑したように突っ立っていた神谷さんの腕を掴んで引っ張った。
彼女を連れて西階段へ向かう。
悠紀くんに関する不吉な予言を聞いてから、私も近づくことを止めた西階段へ。
「ちょっと、なんなのよ」
神谷さんは煩わしそうに私の腕を振り払った。
彼女が立ち止まったため、仕方なく私も止まって振り返る。
「納得のいく説明をしなさいよ。日向くんがいなくなったって、どういうこと。あんた妙に塚原に突っかかってたけど、何か知ってるの?」
西階段前の廊下で、神谷さんは腰に手を当てた。
大きな方眼紙を抱えて階段から上ってきた女子二人組が、談笑しながら私たちの横を通り過ぎていく。
「具体的にそれが何かはわからないけれど、とにかく不吉なことが起きそうだから、西階段は使うな。悠紀くんは山神さまにそう言われてたの。私が知ってるのはそれだけ。神谷さんこそ、他に何か知っている情報はない? 山神さまに何か聞いてない?」
「……聞いてないわよ」
神谷さんは下唇を噛んで拳を握った。
「何なのよ。あたしは何も聞いてない。なんで、いっつも、あんたばっかり……」
「いまそんなことどうでもいいでしょう? 悠紀くんが危ないかもしれないの、いなくなっちゃったんだよ? 緊急事態なんだよ?」
焦燥感に駆られて、私はもう一度彼女の腕を掴んだ。
「ねえ、一緒に来て。悠紀くんを助けられるのは神谷さんしかいないんだよ。神谷さんなら現場を見れば何かわかるかもしれない。私が行ったって何も見えない、私じゃどうにもできないの。だからお願い――」
「――うるさいわね! 気安く触らないで!」
神谷さんはさっきより乱暴に私の腕を振り払った。
まるで親の仇でも見るような目で神谷さんは私を睨み、まくしたてた。
「なんであたしがあんたなんかのお願いを聞いてやらなきゃいけないのよ! あたしはね、あんたがこの世で一番嫌いなの! あんたがお願いするって言うならあたしはその願いを聞かない。決めた。ええ、たったいま決めたわ」
口紅も塗っていないのに赤く艶やかな唇、その片端が上がった。
「あたしはあんたに嫌がらせをする。あんたが嫌いだからという理由で、西階段には行かない。本当に日向くんが好きって言うなら、愛の奇跡のひとつでも起こしてみせなさいよ。頑張って自分ひとりの力で日向くんを助けなさい」
「…………何それ。なんなの?」
私は混乱の余り泣きそうだった。
講堂のほうから流れてくる軽音楽の陽気な音楽も、近くの教室から聞こえてくる笑い声も、窓の外で降る雨音も、どこか遠い国の出来事のようだ。
「使いたくないとか言ってたけど……それがなんだよ」
塚原くんは怯んだように口ごもったものの、すぐに強い眼差しで見返してきた。
「行きはあいつの我儘に付き合って、東階段から行ったよ? でも、帰りは重い段ボールを運んでるんだぜ? なんでわざわざ遠回りしなきゃいけねーんだよ。理由を聞いても、とにかく通りたくないって、そればっかりで、意味わかんねーし。だから――」
「悠紀くんがいなくなったのは、どのあたり?」
言い訳じみた台詞を遮って問う。
「一階と二階の間にある踊り場だけど……」
「わかった。教えてくれてありがとう。神谷さん、ちょっと来て」
私は塚原くんから視線を外し、当惑したように突っ立っていた神谷さんの腕を掴んで引っ張った。
彼女を連れて西階段へ向かう。
悠紀くんに関する不吉な予言を聞いてから、私も近づくことを止めた西階段へ。
「ちょっと、なんなのよ」
神谷さんは煩わしそうに私の腕を振り払った。
彼女が立ち止まったため、仕方なく私も止まって振り返る。
「納得のいく説明をしなさいよ。日向くんがいなくなったって、どういうこと。あんた妙に塚原に突っかかってたけど、何か知ってるの?」
西階段前の廊下で、神谷さんは腰に手を当てた。
大きな方眼紙を抱えて階段から上ってきた女子二人組が、談笑しながら私たちの横を通り過ぎていく。
「具体的にそれが何かはわからないけれど、とにかく不吉なことが起きそうだから、西階段は使うな。悠紀くんは山神さまにそう言われてたの。私が知ってるのはそれだけ。神谷さんこそ、他に何か知っている情報はない? 山神さまに何か聞いてない?」
「……聞いてないわよ」
神谷さんは下唇を噛んで拳を握った。
「何なのよ。あたしは何も聞いてない。なんで、いっつも、あんたばっかり……」
「いまそんなことどうでもいいでしょう? 悠紀くんが危ないかもしれないの、いなくなっちゃったんだよ? 緊急事態なんだよ?」
焦燥感に駆られて、私はもう一度彼女の腕を掴んだ。
「ねえ、一緒に来て。悠紀くんを助けられるのは神谷さんしかいないんだよ。神谷さんなら現場を見れば何かわかるかもしれない。私が行ったって何も見えない、私じゃどうにもできないの。だからお願い――」
「――うるさいわね! 気安く触らないで!」
神谷さんはさっきより乱暴に私の腕を振り払った。
まるで親の仇でも見るような目で神谷さんは私を睨み、まくしたてた。
「なんであたしがあんたなんかのお願いを聞いてやらなきゃいけないのよ! あたしはね、あんたがこの世で一番嫌いなの! あんたがお願いするって言うならあたしはその願いを聞かない。決めた。ええ、たったいま決めたわ」
口紅も塗っていないのに赤く艶やかな唇、その片端が上がった。
「あたしはあんたに嫌がらせをする。あんたが嫌いだからという理由で、西階段には行かない。本当に日向くんが好きって言うなら、愛の奇跡のひとつでも起こしてみせなさいよ。頑張って自分ひとりの力で日向くんを助けなさい」
「…………何それ。なんなの?」
私は混乱の余り泣きそうだった。
講堂のほうから流れてくる軽音楽の陽気な音楽も、近くの教室から聞こえてくる笑い声も、窓の外で降る雨音も、どこか遠い国の出来事のようだ。
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