少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

文字の大きさ
67 / 97

67:ある雨の日の放課後に(5)

しおりを挟む
「悠紀くんは西階段を使うことについて、何も言わなかった? 反対しなかったの?」
「使いたくないとか言ってたけど……それがなんだよ」
 塚原くんは怯んだように口ごもったものの、すぐに強い眼差しで見返してきた。

「行きはあいつの我儘に付き合って、東階段から行ったよ? でも、帰りは重い段ボールを運んでるんだぜ? なんでわざわざ遠回りしなきゃいけねーんだよ。理由を聞いても、とにかく通りたくないって、そればっかりで、意味わかんねーし。だから――」
「悠紀くんがいなくなったのは、どのあたり?」
 言い訳じみた台詞を遮って問う。

「一階と二階の間にある踊り場だけど……」
「わかった。教えてくれてありがとう。神谷さん、ちょっと来て」
 私は塚原くんから視線を外し、当惑したように突っ立っていた神谷さんの腕を掴んで引っ張った。
 彼女を連れて西階段へ向かう。

 悠紀くんに関する不吉な予言を聞いてから、私も近づくことを止めた西階段へ。

「ちょっと、なんなのよ」
 神谷さんは煩わしそうに私の腕を振り払った。
 彼女が立ち止まったため、仕方なく私も止まって振り返る。

「納得のいく説明をしなさいよ。日向くんがいなくなったって、どういうこと。あんた妙に塚原に突っかかってたけど、何か知ってるの?」

 西階段前の廊下で、神谷さんは腰に手を当てた。
 大きな方眼紙を抱えて階段から上ってきた女子二人組が、談笑しながら私たちの横を通り過ぎていく。

「具体的にそれが何かはわからないけれど、とにかく不吉なことが起きそうだから、西階段は使うな。悠紀くんは山神さまにそう言われてたの。私が知ってるのはそれだけ。神谷さんこそ、他に何か知っている情報はない? 山神さまに何か聞いてない?」
「……聞いてないわよ」
 神谷さんは下唇を噛んで拳を握った。

「何なのよ。あたしは何も聞いてない。なんで、いっつも、あんたばっかり……」
「いまそんなことどうでもいいでしょう? 悠紀くんが危ないかもしれないの、いなくなっちゃったんだよ? 緊急事態なんだよ?」
 焦燥感に駆られて、私はもう一度彼女の腕を掴んだ。

「ねえ、一緒に来て。悠紀くんを助けられるのは神谷さんしかいないんだよ。神谷さんなら現場を見れば何かわかるかもしれない。私が行ったって何も見えない、私じゃどうにもできないの。だからお願い――」

「――うるさいわね! 気安く触らないで!」
 神谷さんはさっきより乱暴に私の腕を振り払った。
 まるで親の仇でも見るような目で神谷さんは私を睨み、まくしたてた。

「なんであたしがあんたなんかのお願いを聞いてやらなきゃいけないのよ! あたしはね、あんたがこの世で一番嫌いなの! あんたがお願いするって言うならあたしはその願いを聞かない。決めた。ええ、たったいま決めたわ」
 口紅も塗っていないのに赤く艶やかな唇、その片端が上がった。

「あたしはあんたに嫌がらせをする。あんたが嫌いだからという理由で、西階段には行かない。本当に日向くんが好きって言うなら、愛の奇跡のひとつでも起こしてみせなさいよ。頑張って自分ひとりの力で日向くんを助けなさい」
「…………何それ。なんなの?」
 私は混乱の余り泣きそうだった。

 講堂のほうから流れてくる軽音楽の陽気な音楽も、近くの教室から聞こえてくる笑い声も、窓の外で降る雨音も、どこか遠い国の出来事のようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

Feel emotion ー恋なんていらない、はずなのに。年下イケメン教え子の甘い誘いにとろけて溺れる…【完結】 

remo
ライト文芸
「もう。あきらめて俺に落ちてこい」 大学付属機関で助手として働く深森ゆの。29歳。 訳あって、恋愛を遠ざけていたけれど、超絶優しい准教授 榊 創太郎に心惹かれ、教生時代の教え子 一ノ瀬 黎に振り回されて、…この春。何かが始まりそうな予感。 ⁑恋に臆病なアラサー女子×年下イケメン男子×大人エリート紳士⁂ 【完結】ありがとうございました‼

俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る

ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。 義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。 そこではじめてを経験する。 まゆは三十六年間、男性経験がなかった。 実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。 深海まゆ、一夜を共にした女性だった。 それからまゆの身が危険にさらされる。 「まゆ、お前は俺が守る」 偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。 祐志はまゆを守り切れるのか。 そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。 借金の取り立てをする工藤組若頭。 「俺の女になれ」 工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。 そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。 そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。 果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

処理中です...