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66:ある雨の日の放課後に(4)
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「ただいまー」
作業しながら女子同士の恋愛談義に花を咲かせていると、教室の後方から声がした。
振り返れば、段ボールを抱えた中島くんたちが戻ってきている。
「おお、お帰りー。凄い量だな」
「お疲れ様!」
教室で待機していた装飾班のメンバーが中島くんたちの近くに集まる。
切断した段ボールを揃え、その大きさごとに違う場所に積んでいた神谷さんも立ち上がり、出迎えの姿勢を取った。
言うまでもなく、神谷さんが一番出迎えたいのは悠紀くんだ。
その証拠に、彼女はちらちらと廊下を気にしていた。
「ああ。疲れた」
二人で抱えていた段ボールの山を床に置いて、中島くんは額に浮かんだ汗を拭った。
中島くんのペアとなって段ボールを運んできた男子も床に座り、足を投げ出す。
「塚原くんと日向くんは?」
装飾班の女子が尋ねた。
「もうすぐ帰ってくるだろ」
中島くんがそう言った直後、誰かが廊下を走ってきた。
「なあ、日向がいなくなったんだけど! 戻ってきてない!?」
息を弾ませて教室に飛び込んできたのは塚原くんだった。
クラスにいたほとんどの生徒の視線が彼に集まる。
「いや、まだ戻って来てないけど」
「いなくなったって、どういうこと?」
中島くんが否定し、神谷さんが続く言葉を引き継いで塚原くんに詰め寄った。
「いや、だから、いなくなったんだよ! 階段上ってたら、いきなり消えた! 教室に戻ってきてないっていうなら、どこ行ったんだ?」
「え、じゃあ段ボールどうしたの。階段に置いたまま?」
「仕方ないだろ、一人で運べる量じゃねーし」
「おい、それはまずいだろ。田村、渡辺、回収しに行ってくれる?」
「ああ、了解」
まだ会話は続いているけれど、耳に入ってこない。
悠紀くんがいなくなった。
階段で。階段――?
冷たい手で背筋を撫でられるような悪寒を覚え、校内の地図を頭に思い浮かべる。
彼らは食堂に段ボールを取りに行った。
食堂と教室を結ぶ最短コースにあるのは東階段ではない。
山神さまに近づいてはならないと警告されている、西階段のほうだ――まさか!?
瞬間、私は椅子を蹴って立ち上がった。
大きな音を立てて椅子が倒れ、教室にいた全員が一斉に私を見る。
「何?」
「どうしたの?」
数十にも及ぶ視線の集中砲火に晒された。
普段なら萎縮してしまっただろうけど、どうでもいい。構わない。
針で突いた親指の痛みも、もう何も感じない。
「紬?」
円香ちゃんや花菜ちゃんが心配そうに私を見ている。
それにも反応できない。
頭の中にあるのは悠紀くんのことだけ。
どうか、ああどうか、お願いだから、どうか――。
私はいまどんな顔をしているのだろう。
わからないけれど、私が塚原くんに近づくと、彼の周りにいた生徒たちは気圧されたように横へ退いた。
塚原くんの真正面に立ち、硬い声で聞く。
「塚原くん。食堂からは、西階段を使って戻ってきたの?」
「え……ああ。そうだけど」
「――――」
深い深い眩暈を覚えた。
踏みしめていたはずの床の感触が消え、足元がぐらつく。
できればこのまま倒れてしまいたい。
気絶して、全ては悪夢だったのだと笑い、何もなかったことにしてしまいたい。
その衝動に抗いながら、私は質問を続けた。
作業しながら女子同士の恋愛談義に花を咲かせていると、教室の後方から声がした。
振り返れば、段ボールを抱えた中島くんたちが戻ってきている。
「おお、お帰りー。凄い量だな」
「お疲れ様!」
教室で待機していた装飾班のメンバーが中島くんたちの近くに集まる。
切断した段ボールを揃え、その大きさごとに違う場所に積んでいた神谷さんも立ち上がり、出迎えの姿勢を取った。
言うまでもなく、神谷さんが一番出迎えたいのは悠紀くんだ。
その証拠に、彼女はちらちらと廊下を気にしていた。
「ああ。疲れた」
二人で抱えていた段ボールの山を床に置いて、中島くんは額に浮かんだ汗を拭った。
中島くんのペアとなって段ボールを運んできた男子も床に座り、足を投げ出す。
「塚原くんと日向くんは?」
装飾班の女子が尋ねた。
「もうすぐ帰ってくるだろ」
中島くんがそう言った直後、誰かが廊下を走ってきた。
「なあ、日向がいなくなったんだけど! 戻ってきてない!?」
息を弾ませて教室に飛び込んできたのは塚原くんだった。
クラスにいたほとんどの生徒の視線が彼に集まる。
「いや、まだ戻って来てないけど」
「いなくなったって、どういうこと?」
中島くんが否定し、神谷さんが続く言葉を引き継いで塚原くんに詰め寄った。
「いや、だから、いなくなったんだよ! 階段上ってたら、いきなり消えた! 教室に戻ってきてないっていうなら、どこ行ったんだ?」
「え、じゃあ段ボールどうしたの。階段に置いたまま?」
「仕方ないだろ、一人で運べる量じゃねーし」
「おい、それはまずいだろ。田村、渡辺、回収しに行ってくれる?」
「ああ、了解」
まだ会話は続いているけれど、耳に入ってこない。
悠紀くんがいなくなった。
階段で。階段――?
冷たい手で背筋を撫でられるような悪寒を覚え、校内の地図を頭に思い浮かべる。
彼らは食堂に段ボールを取りに行った。
食堂と教室を結ぶ最短コースにあるのは東階段ではない。
山神さまに近づいてはならないと警告されている、西階段のほうだ――まさか!?
瞬間、私は椅子を蹴って立ち上がった。
大きな音を立てて椅子が倒れ、教室にいた全員が一斉に私を見る。
「何?」
「どうしたの?」
数十にも及ぶ視線の集中砲火に晒された。
普段なら萎縮してしまっただろうけど、どうでもいい。構わない。
針で突いた親指の痛みも、もう何も感じない。
「紬?」
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それにも反応できない。
頭の中にあるのは悠紀くんのことだけ。
どうか、ああどうか、お願いだから、どうか――。
私はいまどんな顔をしているのだろう。
わからないけれど、私が塚原くんに近づくと、彼の周りにいた生徒たちは気圧されたように横へ退いた。
塚原くんの真正面に立ち、硬い声で聞く。
「塚原くん。食堂からは、西階段を使って戻ってきたの?」
「え……ああ。そうだけど」
「――――」
深い深い眩暈を覚えた。
踏みしめていたはずの床の感触が消え、足元がぐらつく。
できればこのまま倒れてしまいたい。
気絶して、全ては悪夢だったのだと笑い、何もなかったことにしてしまいたい。
その衝動に抗いながら、私は質問を続けた。
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