少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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65:ある雨の日の放課後に(3)

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「装飾班は大変そうね。衣装係で良かった」
 当日着る人のサイズに合わせ、白い着物の丈を直している円香ちゃんが私の向かいで言った。

 有名デザイナーの母を持つ彼女は縫製がとても上手だ。

 幼い頃から家事をしていたこともあり、裁縫の腕には少々自信があったのだけれど、円香ちゃんのミシンのように正確で美しい縫い目を見て、私のささやかな自信は粉々に砕け散った。

「そうだねー。買ってきた衣装にあと少し手間を加えるだけでいいし。ねえ、円香ちゃん。こんな感じでどうかな?」
 花菜ちゃんは縫っていた黒い衣装を円香ちゃんに見せた。

「ええ、いいと思うわ。ちゃんと縫えてる」
 花菜ちゃんが縫い付けていたフード部分を軽く引っ張って、円香ちゃんは頷いた。

「良かったー。円香ちゃんがそう言うなら安心だよ。ところで紬ちゃん」
「ん?」
 メイド服を見下ろして針を動かし、顔を上げないままに答える。

「個人的には一緒の班になれて嬉しかったんだけど、紬ちゃんは日向くんと同じ装飾班にならなくて良かったのー?」
 ぷすっ。
 手元が狂って左手の親指に針が刺さり、鋭い痛みが走った。

「いたっ」
 みるみるうちに赤い球が膨らんで、一ミリ程度に大きくなったところで膨らみが止む。
 悠紀くんみたいな失敗をしてしまった……いや、彼ほどの怪我じゃないけど。

「あらら、大丈夫ー?」
「うん、大丈夫……でも、なんでいきなり、そんな」
 私はメイド服を握ったまま目を泳がせた。
 私の手の中で、メイド服の布地がくしゃくしゃになっていく。

「え? だって紬ちゃん、日向くんのことが好きなんでしょー?」
 花菜ちゃんはなにをいまさら、といわんばかりに不思議そう。
 驚いて円香ちゃんを見ると、「見てればわかるわよ」と呆れられた。

「い、いつから気づいて……」
「んー、だいぶ前から」
「私も。ほとんど初日から察してたわよ」
 まさか、二人ともにバレているとは。
 私はそんなにわかりやすい人間なのだろうか。

「同居してるならその分、他の人より長いこと一緒にいるわけで。好きになるのも自然なことだよねー。でも、神谷さんがライバルだと大変そう。私には日向くんしかいないって感じだもんねー」
 花菜ちゃんは床に片膝をついて作業中の神谷さんを見た。

「日向くん以外の人間は敵だと思い込んでる節があるわよね。話しかけるだけで睨まれるもの。徹底して他人を拒絶し、孤高を貫いてる。あれは重症よ」
 円香ちゃんが肩を竦めた。

「過去を思えば仕方ないのかもしれないけど、でもやっぱり残念ー。私、円条花蓮のファンだったから。同じクラスになれて嬉しかったし、仲良くなりたかったのになー。本人にその気がないんじゃどうしようもないよねー。まあ、言ったところで仕方ないし、話を戻すけど。日向くんに告白とかはしないのー? 思い切って行動しない限り、いつまでも神谷さんは日向くんに引っ付いたままだと思うけど、それでもいいのー?」
「それは……」
 迷ったものの、この二人になら話しても良いかと思い直し、私は小さな声で打ち明けた。

「……実は今週末に告白するつもり」
 土曜日に正孝さんとビデオ通話をする予定を取りつけた。
 そこで承諾を得ることができれば、いよいよ私は悠紀くんに告白する。

 フラれたらと思うと怖いし、不安にのたうち回るときもあるけれど、でも、勇気を出さなければ何も始まらない。

 悠紀くんに告白して良いかと尋ねたとき、真紘さんは応援すると言ってくれた。
 その後に尋ねた亜紀くんは何故か「マジで!? ついに!? とうとう!?」と大いに感激した様子だった。

「おおー!」
 このとき、花菜ちゃんが見せた反応は亜紀くんのものと良く似ていた。

「しっ! 花菜ちゃん、声が大きい!」
 私は慌てて身を乗り出し、その口を塞いだ。
 近くにいた広報班のグループが何事かという目で私たちを見てくる。
 彼女たちが前に向き直り、雑談に戻るまで待ってから、私は手を離して座り直した。

「……もう」
「ごめんー」
 胸の前で手を合わせ、私を拝んでみせる花菜ちゃん。

「でも、そうなんだー、頑張ってね。応援してるー!」
「私も」
 円香ちゃんも微笑んでくれた。

「ありがとう」
 二人に微笑み返す。
 友人までこうして応援してくれたんだから、頑張らなくっちゃ!
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