少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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72:ある雨の日の放課後に(10)

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「どうだった?」
「原因はこの鏡」
 確信を持って、保坂くんは壁にかかっている鏡を指さした。

「日向が前を通ったとき、鏡面に夜の闇を凝縮して作り上げたような、真っ黒な仮面が浮かび上がった。笑い面、っていうのかな。三日月みたいな弧で目と口だけが描かれた、不気味な面だ。あの面と目があった瞬間、日向が消えた。多分、鏡の中に取り込まれたんだと思う」

「じゃあこの鏡をどうにかすれば……!!」
 神谷さんが両手で鏡の縁を掴んだ。

「割ったら出てくるかな!?」
 彼女の隣で拳を振り上げる。

「待て!」
 焦ったように叫び、保坂くんは私の腕を掴んで止めた。

「素手で鏡を割る気か、危ないだろ! それに良く考えろ! 本当に割っていいのか? 最悪、日向は出口を失って、永久に出られなくなるかもしれないんだぞ?」

「……止めてくれてありがとう」
 私はぞっとしながら拳を下ろした。
 それから、姿勢を正して保坂くんに向き直る。

「……なんだよ」
 居心地が悪そうに、保坂くんは身じろぎした。

「協力してくれてありがとう。すごく、すごく助かります」
 感謝を示すために、身を折って礼を述べる。

「……お前な」
 何故か保坂くんは呆れ顔。

「おれは日向に嫌がらせがしたくて、好きでもないのに付き合えとか言ったんだぞ? わかってる?」
「うん。でも、口だけで実害はなかったし。いまも私が手を怪我するんじゃないかって心配して、悠紀くんが無事戻ることを願ってくれた。それが全てでしょ?」
 私は背後で手を組み、彼と目を合わせた。

「多分ね、保坂くんはすごく優しい人。過去に何があったのかは知らないけど、その本質は変わってないんだよ」
 まっすぐに目を見つめて笑うと、保坂くんは苦い薬でも飲んだような顔をした。

「……ああ、なんか全部が馬鹿馬鹿しくなってきた」
「うん、よくわかんないけど、馬鹿なことは止めよう。なんで悠紀くんのことが嫌いなのかもわかんないけど、悠紀くんは本当にいい人だよ? 話してみたらわかるよ?」

 悠紀くんは保坂くんのことを怖がっていたけれど、ちゃんと良く話せば二人は友人になれるかもしれない。
 だとしたら、とても嬉しい。

「そんなの知っ……」
「あ、いま知ってるって言いかけた?」
「~~~だから、この話はもういいんだって! これから先どうするんだ?」
 煩わしそうに手を振って話を打ち切り、保坂くんはひたと私を見つめた。

「それは……」
 妙案が思い浮かばず、私は沈黙した。
 神谷さんも難しい顔で黙り込んでいる。

 鏡の中に入る方法――そんなの知るわけがない。
 鏡に触れても何の変化も起こらず、鏡はただ鏡らしく、私の姿を映すだけ。

 こうしてじっくり見つめていても、鏡の中に悠紀くんの姿が映ることもない。
 本当に、何の変哲もない鏡にしか見えないのだ。

「……あの子たち鏡の前で何してるの?」
「さあ。あの鏡、文化祭に使うんじゃない?」
 階段を上ってきた女子グループが不審そうに囁き合い、去っていった。

「……このままじゃ埒が明かないよね。あんまり巻き込みたくなかったけど、亜紀くんにも相談してみよう」
 私がこれから告げる内容は、亜紀くんから笑顔を奪うだろう。

 でも、もう遠慮などしていられない。
 あやかし絡みの事件に関わってきた回数なら、兄である亜紀くんが最も多いはずだ。
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