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88:大歓迎(1)
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日曜日の午後二時過ぎ。
私と亜紀くんは日向家の玄関前で二体の石像と化していた。
「……なんだよ。そんなに驚かなくてもいいだろ」
口をあんぐりと開けている私たちの前で、玲央くんは気まずそうに目を伏せ、黒い前髪を弄った。
森永さんが運転する車に乗り、アパートまで迎えに行った悠紀くんに連れられて日向家へとやってきた玲央くんは、金髪を真っ黒に染めていた。
顔にはフレームのない眼鏡をかけ、ピアスも全て外している。
服装は襟付きの黒いシャツにジーパン。
彼は背が高く細身なので、シンプルな服も実に良く似合う。
その左手には黒い鞄。
他の荷物は今日の夕方に届く予定だ。
「いや、驚くだろ。誰かと思ったわ」
「でも、こっちのほうがいいよな」
玲央くんの隣にいる悠紀くんが笑う。
「うん。断然良いね。お帰り、玲央くん」
微笑みかけると、玲央くんは苦いものでも食べたかのような、なんとも形容し難い表情をした。
「どうしたの?」
「……いや、お帰りって。お前ら、本気でおれと一緒に暮らす気なの?」
「当たり前だろ。お前の親権者である父親から許可はもらってる。何も問題はない」
二日前の金曜日、海外にいる正孝さんは代理人を通じて玲央くんのお父さんと連絡を取ってくれた。
夜にビデオ通話を繋ぎ、結果はどうだったかと私たちが尋ねると、正孝さんは珍しく憤っていた。
――相手方は「どうぞご自由に」と言ったよ。仮にも実の息子のことなのに、ろくに私の話を聞こうともせず、心底面倒くさそうに、たった一言で終わらせたんだ。玲央くんがどこで暮らそうが興味がないんだと! 新しい家庭を持った自分に迷惑をかけなければどうでもいいんだと! 信じられない。別れる際に玲央くんには十分な額を渡したらしいが、金を渡せばそれで終わりなのか? 我が子にかける愛情はないのか? 一体玲央くんをなんだと思っているんだ。
「……そう。連絡したんだ。おれの父親だった人はなんて言ってた?」
「それは……」
悠紀くんが言い淀む。
正孝さんから聞いた話は、とても玲央くん本人は言えない。
言えるわけがない。あんな残酷な現実。
「いや、予想はつくからいいよ言わなくて。困らせてごめん」
玲央くんは笑った。陰のある笑みだった。
「やっぱりさ。おれと暮らすのは難しいと思うんだ。おれのために家族会議を開いて、家族やこの家で働く使用人全員を説得してくれたこと、本当に感謝してる。嬉しかった。その気持ちだけで十分だ。だから――」
「お前さっきから何ごちゃごちゃ言ってんの?」
へらりと笑った玲央くんの右手を亜紀くんが掴んだ。
驚いたように玲央くんが亜紀くんを見る。
「お前はこの家で暮らす。これはもう決定事項だから、いまさらお前が何て言おうと無駄なんだよ。ほら、紬ちゃんが『お帰り』って言ったぞ。言うべき言葉があるだろ」
「……。……ただいま」
「よろしい」
亜紀くんは満足そうに頷き、玲央くんの手を引いて家の中へと入っていく。
私と悠紀くんも玄関の鍵を締め、彼らの後に続いた。
私と亜紀くんは日向家の玄関前で二体の石像と化していた。
「……なんだよ。そんなに驚かなくてもいいだろ」
口をあんぐりと開けている私たちの前で、玲央くんは気まずそうに目を伏せ、黒い前髪を弄った。
森永さんが運転する車に乗り、アパートまで迎えに行った悠紀くんに連れられて日向家へとやってきた玲央くんは、金髪を真っ黒に染めていた。
顔にはフレームのない眼鏡をかけ、ピアスも全て外している。
服装は襟付きの黒いシャツにジーパン。
彼は背が高く細身なので、シンプルな服も実に良く似合う。
その左手には黒い鞄。
他の荷物は今日の夕方に届く予定だ。
「いや、驚くだろ。誰かと思ったわ」
「でも、こっちのほうがいいよな」
玲央くんの隣にいる悠紀くんが笑う。
「うん。断然良いね。お帰り、玲央くん」
微笑みかけると、玲央くんは苦いものでも食べたかのような、なんとも形容し難い表情をした。
「どうしたの?」
「……いや、お帰りって。お前ら、本気でおれと一緒に暮らす気なの?」
「当たり前だろ。お前の親権者である父親から許可はもらってる。何も問題はない」
二日前の金曜日、海外にいる正孝さんは代理人を通じて玲央くんのお父さんと連絡を取ってくれた。
夜にビデオ通話を繋ぎ、結果はどうだったかと私たちが尋ねると、正孝さんは珍しく憤っていた。
――相手方は「どうぞご自由に」と言ったよ。仮にも実の息子のことなのに、ろくに私の話を聞こうともせず、心底面倒くさそうに、たった一言で終わらせたんだ。玲央くんがどこで暮らそうが興味がないんだと! 新しい家庭を持った自分に迷惑をかけなければどうでもいいんだと! 信じられない。別れる際に玲央くんには十分な額を渡したらしいが、金を渡せばそれで終わりなのか? 我が子にかける愛情はないのか? 一体玲央くんをなんだと思っているんだ。
「……そう。連絡したんだ。おれの父親だった人はなんて言ってた?」
「それは……」
悠紀くんが言い淀む。
正孝さんから聞いた話は、とても玲央くん本人は言えない。
言えるわけがない。あんな残酷な現実。
「いや、予想はつくからいいよ言わなくて。困らせてごめん」
玲央くんは笑った。陰のある笑みだった。
「やっぱりさ。おれと暮らすのは難しいと思うんだ。おれのために家族会議を開いて、家族やこの家で働く使用人全員を説得してくれたこと、本当に感謝してる。嬉しかった。その気持ちだけで十分だ。だから――」
「お前さっきから何ごちゃごちゃ言ってんの?」
へらりと笑った玲央くんの右手を亜紀くんが掴んだ。
驚いたように玲央くんが亜紀くんを見る。
「お前はこの家で暮らす。これはもう決定事項だから、いまさらお前が何て言おうと無駄なんだよ。ほら、紬ちゃんが『お帰り』って言ったぞ。言うべき言葉があるだろ」
「……。……ただいま」
「よろしい」
亜紀くんは満足そうに頷き、玲央くんの手を引いて家の中へと入っていく。
私と悠紀くんも玄関の鍵を締め、彼らの後に続いた。
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