少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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 夜九時過ぎ。
 入浴を終えて動きやすいシャツとハーフパンツに着替え、大広間で双子とまったりテレビを見ていると、開けっ放しの扉から玲央くんが入ってきた。

「なあ、風呂から上がったらドライヤーがなくなってたんだけ……ど……?」
「いらっしゃい」
 首に水色のタオルを引っ掛け、黒髪を濡らした玲央くんが動きを止めたのは、亜紀くんがソファから立ち上がってにっこり笑ったせいだろう。

 亜紀くんは右手にドライヤーを、左手にドライヤーから伸びるコードを持っている。
 コードは壁のコンセントに接続済み。準備万端だ。

「……やっぱ自然乾燥させるからいい」
 一目で状況を把握した玲央くんが引き返そうとする。

「まあまあ。優しいおにーちゃんが髪を乾かしてやるから座って」
 亜紀くんは獲物を捕らえる蛇のような速さで玲央くんの腕を捕まえ、ソファへ強制連行した。

「いいって! お前な、どこの世界に同級生に髪を乾かしてもらう男子高校生がいるんだよ!?」
「へー、おにーちゃんの言うことが聞けないのかあ。追い出そうかな」
「いくらなんでもそれは横暴だろ!?」
「いいからつべこべ言わずに座れ」
 にこにこしながら命令口調で言い、亜紀くんがソファを手のひら全体で叩く。
 有無を言わさぬ笑顔だ。圧が凄い。

「…………」
 玲央くんは絶望したような表情を浮かべてソファに腰を下ろした。

「はーい、一名様ごあんなーい」
 亜紀くんはドライヤーのスイッチを入れ、楽しそうに玲央くんの髪を掻き上げながら温風を浴びせ始めた。
 玲央くんは項垂れてなされるがままだ。

「かゆいところはございませんかー」
「それはシャンプーのときに言う台詞だろ……別にねえよ」
 ふてくされたような調子で玲央くんが言う。
 でも、本当に嫌なら亜紀くんに何を言われても逃げているだろう。

 拗ねたような表情はただの照れ隠しだと判断し、ソファの端からその様子を見ていた私は小さく笑った。

「紬。ちょっと話そう」
 ドライヤーの音がうるさくてほとんど何も聞こえなくなったテレビを悠紀くんが消し、持っていたリモコンをテーブルに置いて立ち上がった。

「? うん」
 悠紀くんは大広間を出て廊下を進み、食堂の扉を開けて電気をつけ、適当な椅子に座った。
 後ろ手に扉を閉めてから、椅子を引いて彼の隣に座る。

「どうしたの?」
「たまには二人で話したいなと思っただけ。亜紀が玲央の髪を乾かすのを見て、紬がうちに来たときのことを思い出した」
「ふふ、懐かしいね。私もああやって亜紀くんに髪を乾かしてもらったな」

 日向家に来た日の夜、お風呂から上がったら髪を乾かさずに大広間に来てと言われて行ってみたら、ドライヤーを持った亜紀くんが待ち構えていたのだ。
 亜紀くんは私に話しかけながら、丁寧に私の長い髪を乾かしてくれた。

「同い年の男の子に髪を乾かしてもらうなんて初めてだったから、びっくりしたし緊張したけど、優しく頭を撫でてもらえると、大切にしてもらえそうだなーって思って安心したの。きっと玲央くんもいま同じ気持ちでいるんだろうな。これまでずっと辛かった分、本当に幸せになってほしいな」

 玲央くんが家にやってきた直後、私たちはお手伝いさんにパンケーキと飲み物を出してもらい、玲央くんの歓迎会を開いた。
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