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序章
英雄譚 〜隠〜
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ーーー
それは、まさしく地獄の門が開いたかのような時代であった。
人の営みは、
特に、辺境の集落に住む多くの者たちにとって、もはや祈りと叫びの合間に細々と繋がれるだけの••••••
••••無力な、風前の灯火に過ぎなかった。
鬼――かつて山野に棲む異形とされていた存在は、一時期を境に、突如として組織化され、群れをなし、武装し、理を破って人の領域へ侵蝕を開始した。
鬼共は、無慈悲に牙をむき、ただ力のみを振るい、略奪した。
人にとってそれは、なす術がなく、正に悪意ある災害であった。
多くの集落は地図から消え、人々は、2つの城塞都市すら放棄して撤退しなければなかった。
辺境周辺は、もはや戦場と集落の境界がなくなり、全てが鬼の餌場と化していた。
辺境集落群では、避難することさえできず、
家に籠り鬼が来ないことを祈ることしかできなかった。
国は、精鋭を数百名の規模で、鬼討伐の為の軍を編成した。
勝利を確信する程の規模で人の軍が鬼の砦に向かったが••••••••••••その山から生きて帰って来た者は、1人としていなかった。
山林における鬼の群は、人の軍を戦いの相手とすらしなかったのだ。
そこでは、通常の鬼でさえ、刀と弓と鎧で完全武装した百の兵をもってしても、1体討つことが敵わない程に、それほどまでの怪物。
そして、それが千を超える集団となって一つの島に巣くう、鬼の巣窟。
それが『鬼ヶ島』だった。
近づく者すらいない為、地図には、正確な位置や形すら描かれぬその島は、空に黒雲を呼び、海を赤く染める魔の領域と謂れていた。
さらに、その千の鬼の中に、常の鬼を遥かに凌ぐ「大鬼」がいる。その数は全体の一割――だが、一体が現れれば、戦の趨勢が一瞬で決するほどの力を持つ。
身の丈が三メートルから五メートルに達する異形。
鉄塊と表現するしかない程の棍棒を振るい、城門を一撃で砕き、人を虫のごとく踏み潰す。
だが、全ての元凶は、ただ一つ。鬼の王。
その存在は伝承にすら曖昧で、武装した数十の大鬼ですら、相手とならないと謂う。
その姿を見た者は、例外なく死に絶えたとされる。
いかに鍛えられた武装兵団であろうとも、いかに巧妙な戦術を駆使しようとも、人の身では鬼の王には通じぬ。
鬼王が討たれることは絶対にない――
人の身で、山を崩すことができないように。
それが、万人の人の世界共通認識、理であった。
だが暗黒に黎明の光が一筋。
どこから現れたのかも分からぬ、一人の男がいた。
その男は、当初から今にも落ちそうな辺境集落群において、鬼の群れを1人で一掃するほどの武力と戦術を持っていた。
国との交渉にも臨み、海千山千の王侯貴族等と対等以上に渡り合い、王城や城塞都市の防備にのみ当てられていた国軍との連携も果たす事ができた。
自らは、1人で戦端に立ち戦い、国軍には物資の補給、集落群の避難等を任せ、国軍が鬼に遭遇した際の撤退戦術等、対応要領すら考案した実践に運用させた。
この男の登場を境界として、人の世界において鬼による犠牲者は、激減した。
その後、彼は、隣国との交渉にも一役買い、三人の仲間と共に、鬼ヶ島へと渡った。
四人は、誰も帰ることのないとされる島へ。
千の鬼を薙ぎ払い、百の大鬼を屠り•••••
そして、ついには王へと至る。
彼らが残したのは、静寂の鬼ヶ島と、沈黙する鬼王の亡骸。
人々は、その日を「鬼哭終焉の日」と呼ぶようになった。
英雄たちの凱旋を、その偉業を、
人々は讃え、貴族たちでさえ、大いに称賛した。
かつてこの世に地獄が溢れたとき、
それを打ち払った、英雄の物語•••••••
今、その英雄譚が語り継がれることはない•••••
それは、まさしく地獄の門が開いたかのような時代であった。
人の営みは、
特に、辺境の集落に住む多くの者たちにとって、もはや祈りと叫びの合間に細々と繋がれるだけの••••••
••••無力な、風前の灯火に過ぎなかった。
鬼――かつて山野に棲む異形とされていた存在は、一時期を境に、突如として組織化され、群れをなし、武装し、理を破って人の領域へ侵蝕を開始した。
鬼共は、無慈悲に牙をむき、ただ力のみを振るい、略奪した。
人にとってそれは、なす術がなく、正に悪意ある災害であった。
多くの集落は地図から消え、人々は、2つの城塞都市すら放棄して撤退しなければなかった。
辺境周辺は、もはや戦場と集落の境界がなくなり、全てが鬼の餌場と化していた。
辺境集落群では、避難することさえできず、
家に籠り鬼が来ないことを祈ることしかできなかった。
国は、精鋭を数百名の規模で、鬼討伐の為の軍を編成した。
勝利を確信する程の規模で人の軍が鬼の砦に向かったが••••••••••••その山から生きて帰って来た者は、1人としていなかった。
山林における鬼の群は、人の軍を戦いの相手とすらしなかったのだ。
そこでは、通常の鬼でさえ、刀と弓と鎧で完全武装した百の兵をもってしても、1体討つことが敵わない程に、それほどまでの怪物。
そして、それが千を超える集団となって一つの島に巣くう、鬼の巣窟。
それが『鬼ヶ島』だった。
近づく者すらいない為、地図には、正確な位置や形すら描かれぬその島は、空に黒雲を呼び、海を赤く染める魔の領域と謂れていた。
さらに、その千の鬼の中に、常の鬼を遥かに凌ぐ「大鬼」がいる。その数は全体の一割――だが、一体が現れれば、戦の趨勢が一瞬で決するほどの力を持つ。
身の丈が三メートルから五メートルに達する異形。
鉄塊と表現するしかない程の棍棒を振るい、城門を一撃で砕き、人を虫のごとく踏み潰す。
だが、全ての元凶は、ただ一つ。鬼の王。
その存在は伝承にすら曖昧で、武装した数十の大鬼ですら、相手とならないと謂う。
その姿を見た者は、例外なく死に絶えたとされる。
いかに鍛えられた武装兵団であろうとも、いかに巧妙な戦術を駆使しようとも、人の身では鬼の王には通じぬ。
鬼王が討たれることは絶対にない――
人の身で、山を崩すことができないように。
それが、万人の人の世界共通認識、理であった。
だが暗黒に黎明の光が一筋。
どこから現れたのかも分からぬ、一人の男がいた。
その男は、当初から今にも落ちそうな辺境集落群において、鬼の群れを1人で一掃するほどの武力と戦術を持っていた。
国との交渉にも臨み、海千山千の王侯貴族等と対等以上に渡り合い、王城や城塞都市の防備にのみ当てられていた国軍との連携も果たす事ができた。
自らは、1人で戦端に立ち戦い、国軍には物資の補給、集落群の避難等を任せ、国軍が鬼に遭遇した際の撤退戦術等、対応要領すら考案した実践に運用させた。
この男の登場を境界として、人の世界において鬼による犠牲者は、激減した。
その後、彼は、隣国との交渉にも一役買い、三人の仲間と共に、鬼ヶ島へと渡った。
四人は、誰も帰ることのないとされる島へ。
千の鬼を薙ぎ払い、百の大鬼を屠り•••••
そして、ついには王へと至る。
彼らが残したのは、静寂の鬼ヶ島と、沈黙する鬼王の亡骸。
人々は、その日を「鬼哭終焉の日」と呼ぶようになった。
英雄たちの凱旋を、その偉業を、
人々は讃え、貴族たちでさえ、大いに称賛した。
かつてこの世に地獄が溢れたとき、
それを打ち払った、英雄の物語•••••••
今、その英雄譚が語り継がれることはない•••••
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