こじらせ悪役ループ中、異国の皇子に甘く口説かれる

ひがらく

文字の大きさ
4 / 61

×××周目 2

しおりを挟む


「ヴァレンス先生。こんばんは!」

 ふわりとした亜麻色の髪に、大きな瞳。小柄で可愛らしい笑顔を向けてくる少年。
 彼はこの物語の主人公でもあり、いずれ聖女として覚醒するカナト・シリルだ。
 
「こんばんは、カナト。楽しんでますか?」
「うん。ぼく、こんなに大きなパーティはじめてて、少し浮かれちゃってるんだ!」

 一年生の時からカナトだけには優しく接したせいもあって、こうして話しかけてきてくれるほどに好感度は高い。
 
「はめを外さない程度に、節度を持って楽しんでくださいね」
「はぁい」

 そのとき、元気に返事をするカナトの隣から鋭い視線が飛んできた。そちらに顔を向けると、幼馴染の彼がいる。金髪で整った顔立ち、透き通る青い瞳の青年。明らかに不機嫌そうな表情で近寄りがたい雰囲気だが、それは俺だけに対してだろう。
 
「テオも楽しんでいるようですね」
 
 俺が声をかけても金髪の青年は言葉を返さず、黙って視線をそらす。
 
「こらテオ、先生を無視しない!」
「……ふん」

 ふいっと顔まで逸らされてしまった。
 彼に嫌われることはもはや恒例だ。カナトに近づけば必ず目の前に現れて邪魔をされる。笑顔を向けても「胡散臭い」と警戒されるのもいつものこと。
 俺、ティラン・ヴァレンスはそういう男だ。
 いつも意味深な微笑みを浮かべているその姿は、見る者に怪しさと胡散臭さを強く印象付ける、らしい。

「……あれ、そういえばクロヴィスはどこにいったの?」
「あいつは理事長に挨拶しに行ったぞ。寮について聞きたいことがあるらしいな」

 聞きなれない名前に首を傾げていると、カナトが説明してくれた。
 
「東国の留学生だよ! クロヴィスっていうんだ。先週からぼくたちのクラスに転入してきて、ぼくが面倒をみてるんだけど……先生はまだ会ったことないの?」
「理事長から話は聞いていますが、まだ直接はお会いしていませんね」

 俺の担当授業は週に一度だ。先週はちょうどすれ違いだったのだろう。
 
「すごくいい人だよ! 頭も良くて、かっこいいし、優しいの!」
「でもアイツ、カナトに懐きすぎだろ。……お前はもっと自覚しろ」

 テオがカナトに顔を近づけて小声で囁く。カナトはそれに顔を真っ赤にさせて目を泳がせていた。
 このままだとふたりの世界に入ってしまうだろう。
 
「おや、教師の目の前で不純交遊はおやめくださいね」

 俺が注意すると、テオはむすっとした顔をした。
 
「そっ、そんなつもりはないってば! もうテオ! 先生も! ぼくたちそんな関係じゃないから……!」
「そうだったんですか?……でしたら」
 
 俺は慌てているカナトの顎を、すっと指先ですくって顔を近づける。

「俺にもチャンスはまだあるってことですよね? カナト」
「せ、先生……!」

 カナトの顔がさらに真っ赤に染まった。

「おい、離れろっ」
 
 テオはカナトの腰を抱いて俺から距離を取った。「ちょっとテオ!」と叫んでいるカナトを抱えて踵を返すようにして去って行ってしまう。
 
 ――……うーん。今回のループも落とせそうにないな。幼馴染の護衛が優秀すぎる。

 おそらく、気持ちも足りないのだと思う。
 カナトは可憐な少年だ。性格も優しくて、人当たりも良い。性癖がストレートな俺ですら抱けるか抱けないかで言われたら普通に抱ける。でもただそれだけだ。
 俺の恋愛感情が薄すぎるのが原因かもしれない。
 だが何度も繰り返すループの中で、誰かと恋をする気力はもう残っていなかった。精神年齢的にいうともうおじいちゃんだもんな、俺。もはや仙人の域かもしれない。
 
「休むべきなんだろうけど」
 
 摩耗したこの精神はどうやったら回復するのだろうか。ため息をつきながら、ふと窓際から庭園の方へと視線を向けると、地面に何かがきらりと光っているのが目に入る。
 
 なんとなく気になって、フードを深く被りバルコニーから外へ出る。
 雨はそれほど強くなかったため、濡れてもローブが吸ってくれるだろうと気にせずに足を進める。

 屋敷から少し離れた茂みの近く、辺りには人影はなく静かだった。

「ピアス?」
 
 光っているそれを拾い上げると、小さな赤いピアスだった。
 これはカナトのものだ。身につけることで魔力を安定させるための魔法具。かすかに彼自身の魔力が漂っている。
 
 カナトの魔力はとても甘くて、独特の性質を持つ。彼が感情的に興奮するとフェロモンのようなものを周囲に撒き散らし、魔力の強い者の性的衝動を誘発してしまう。歩く媚薬のような存在と言ってもいい。あまりにも危なすぎる性質だが、まあ、だから主人公なのだけれど。そういえば、R指定入ってる作品だったけな、この物語。
 
「それにしても、この場所で落とすなんて珍しいな」

 次に会った時に渡せばいいか、とピアスをポケットにしまう。
 とはいえ、俺がこれを持っているのは少し危険かもしれない。
 特に俺は彼の魔力に弱い。実際に以前のループで支配的な欲求が抑えきれなくなり、暴走して襲いかけたことがある。あんな思いはもうしたくない。
 
 庭園の真ん中で立ちすくんでいると、雨を吸い込んだローブが重たくなっていく。雨脚が強くなったのに気づいて、慌てて近くの小さな屋根付きの休憩所へと、雨宿りをしに入った。

「……屋敷に戻ってカナトを探すか」

 またあの賑やかな場に戻るのは気が引けたが、それが一番安全だ。
 
 そんなことを考えていると、ふいに隣に人の気配がして驚いて顔を上げる。
 隣を見上げると、いつの間にかそこに人が立っていた。

「失礼。僕も隣で雨宿りさせてもらっても、いいかな?」
 
 降りしきる雨の中でも凛と通る声。

 そこに立っていたのは、異国の青年だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

(仮)攫われて異世界

エウラ
BL
僕は何もかもがイヤになって夜の海に一人佇んでいた。 今夜は満月。 『ここではないどこかへ行きたいな』 そう呟いたとき、不意に押し寄せた波に足を取られて真っ暗な海に引きずり込まれた。 死を感じたが不思議と怖くはなかった。 『このまま、生まれ変わって誰も自分を知らない世界で生きてみたい』 そう思いながらゆらりゆらり。 そして気が付くと、そこは海辺ではなく鬱蒼と木々の生い茂った深い森の中の湖の畔。 唐突に、何の使命も意味もなく異世界転移してしまった僕は、誰一人知り合いのいない、しがらみのないこの世界で第二の人生を生きていくことになる。 ※突発的に書くのでどのくらいで終わるのか未定です。たぶん短いです。 魔法あり、近代科学っぽいモノも存在します。 いろんな種族がいて、男女とも存在し異種婚姻や同性同士の婚姻も普通。同性同士の場合は魔法薬で子供が出来ます。諸々は本文で説明予定。 ※R回はだいぶ後の予定です。もしかしたら短編じゃ終わらないかも。→ちょっと終わらないので長編に切り替えます。スミマセン。

転生したらBLゲームのホスト教師だったのでオネエ様になろうと思う

ラットピア
BL
毎日BLゲームだけが生き甲斐の社畜系腐男子凛時(りんじ)は会社(まっくろ♡)からの帰り、信号を渡る子供に突っ込んでいくトラックから子供を守るため飛び出し、トラックに衝突され、最近ハマっているBLゲームを全クリできていないことを悔やみながら目を閉じる。 次に目を覚ますとハマっていたBLゲームの攻略最低難易度のホスト教員籠目 暁(かごめ あかつき)になっていた。BLは見る派で自分がなる気はない凛時は何をとち狂ったのかオネエになることを決めた オチ決定しました〜☺️ ※印はR18です(際どいやつもつけてます) 毎日20時更新 三十話超えたら長編に移行します メインストーリー開始時 暁→28歳 教員6年目 凛時転生時 暁→19歳 大学1年生(入学当日) 訂正箇所見つけ次第訂正してます。間違い探しみたいに探してみてね⭐︎ 11/24 大変際どかったためR18に移行しました 12/3 書記くんのお名前変更しました。今は戌亥 修馬(いぬい しゅうま)くんです

学園ものに転生した悪役の男について

ひいきにみゐる
BL
タイトルの通りにございます。文才を褒められたことはないので、そういうつもりで見ていただけたらなと思います。

処理中です...