こじらせ悪役ループ中、異国の皇子に甘く口説かれる

ひがらく

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旧校舎 2

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 扉をガタガタと揺さぶってみたがびくともしない。古びた鉄扉は軋む音だけを響かせ、どうしたって開かないぞと抗議しているようだった。
 それに扉の隙間から感じるのはわずかな精霊の気配。これは人為的な施錠ではない。なにかの気まぐれで、俺たちも閉じ込められてしまったらしい。

「困ったな。……先生、さすがに説明してくれる?」

 ここまで巻き込んでしまったのなら、彼のいうとおり説明責任はある。だがどう伝えるべきかしばらく思案して、一番説得力のあるものを選んだ。
 
「……朝、カナトの姿をこのあたりで見かけたんです。でも授業に出席していなかったので、もしかしてここにいるのではないかと思いまして」
「えっ、どうしてそれを先に言ってくれなかったんだ? 教えてくれたら僕も手伝ったのに」
「ただの推測でしたから」
「推測でもカナトが行方不明かもしれないのなら、ひとりで解決しようとするよりはいいと思うけど」
「それは、」

 そこから先は言い訳が出てこなかった。
 何を言っても嘘に嘘を重ねるだけになりそうで、結局黙り込むという、らしくない選択をしてしまった。
 嘘を吐くこと自体には慣れているはずなのに、今までにない状況に置かれているせいか、頭が少し混乱しているのかもしれない。
 だが口を閉ざしたままの俺に、クロヴィスはそれ以上追及してこなかった。
 
「とにかく、カナトはここにいるんだね?」
「……おそらく。テオも授業にいませんでしたから、一緒にいるかもしれません。それに旧校舎自体が妙な魔力に覆われているので、中に閉じ込められている可能性は高いです」
「じゃあ、急いで探そう」

 素直に俺の話を信じてくれるのだろうか。
 聡明な彼なら、俺が言い淀んだことも気付いているはずなのに、あえて触れてこないのはどうしてだろう。
 なんだか少し、胸の奥がざわついた気がした。



 
「すごい古い校舎なんだね」
 
 湿った板張りの床を踏むたび、古びた木がぎしぎしと鳴る。二人分の足音がやけに大きく響いていた。
 
「数十年ほど前のものと聞いています。老朽化しているので足元にはくれぐれも注意してください」

 灯りはなく、俺たちの足音だけが支配する空間。奥へ進むにつれ外光は薄れ、廊下は闇に沈んでいった。曇ったガラス窓には激しい雨が叩きつけている。まだ当分やみそうにない。

「こんなに古いのなら、どうして解体しないんだ? 魔物が住み着いたりしたら危険だよ。新校舎とも結構近いし」
「さあ、俺にもわかりません。噂では、学園側が隠したい秘密があるのだとか、かつての聖獣が封印されているとか、いろいろとありますね」
「へぇ、伝承みたいなものか」
「怪談話もありますよ。夜な夜な女のすすり泣きが聞こえるとか、男の雄叫びが響くとか。足のない子どもの姿が現れるとか、ありがちなやつです」
「先生は怖いもの平気?」
「自分の目で確かめられないものは信じない性質なので」
「でも実際目にすると、先生は怖がりそうだよね」

 偏見だ。
 怪談話は苦手な方だが、ちょっとやそっとではもう驚かない。ただし、たまに部屋にカサコソやって来る小さな黒い悪魔だけは別だ。あれには今でも悲鳴を上げてしまう。
 
「君こそどうなんです。怖がりそうにないですが」
「僕は直感を信じるタイプだからね。見えなくても“いる”と感じたら信じるし、逆に怖いとも思わない。それに幽霊とか精霊とかも、案外怖くないよ」

 どんな人生を送れば、幽霊も精霊も「案外怖くない」で済ませられるのか。知れば知るほどクロヴィス・リアンという青年が分からなくなっていく。

 話しながら進むうち、半開きの扉が目に留まった。

「教室、ですかね」
 
 扉を押し開けると、しめった空気が肌にまとわりついた。中は古びた魔術実験室のようだった。
 年季の入った机と椅子が規則正しく並び、その奥には木製の戸棚。中にはかつて魔法薬や実験道具が収められていたであろう、人ひとりは入りそうな空間がぽっかりと口を開けている。

「……ねぇ、先生。ひとつだけ聞いてもいいかな」
「なんですか」

 視線を向けずに答える。床に残った真新しい足跡が目に入ったからだ。これほどはっきり残るのはつい最近誰かが通った証拠。カナトたちかもしれない。
 しゃがみこんでそれを観察していると、背後から質問の続きが飛んできた。
 
「どうしてカナトが好きなんだ?」

 顔だけで後ろを振り返る。
 クロヴィスは腰に片手をあて、首を傾げながらこちらを見ていた。表情は穏やかだが、その瞳はまっすぐだ。おそらくそれは、何かを探るような視線。

「なぜ今、そんなことを聞くんです?」
「気になったから。だってヴァレンス先生って色恋沙汰にはまったく興味がなさそうな顔してるのに、カナトだけ態度が違うよね」
「……好きであることに、理由はありませんよ」
「理由がないなんてことはありえないよ。そんなに魅力的ってこと?」
 
 俺の答えにクロヴィスは納得していない様子だった。こんな曖昧な答えでは、その辺の噂好きの女子生徒のように上手く丸め込まれてくれないのだろう。
 そっちは俺と〈番〉になりたい理由を「先生が好きだから」の一言で済ませたくせに。
 思わずため息が漏れる。

「彼は優秀な生徒です。誰でも分け隔てなく優しく接しますし、愛らしい姿は庇護欲を生みます。それに、魔力も申し分ない」
「魔力なら、僕の方がカナトより優れていると思うけど」
「……ですが不安定なのでしょう」
「ある一定の条件下だけでだよ。僕はこの学園の誰よりも強いよ」

 そんなこと、生徒記録簿には書かれていなかったぞ。
 
「それに、カナトの可愛らしさには確かに劣るけど、容姿には自信ある方だよ。なにより先生を世界で一番幸せにできるのは、僕だけだ」

 薄い唇が形良く弧を描いた。
 クロヴィスの整った顔立ちと自信に満ち溢れる気高さは、同性から見ても魅了的だ。もし俺がまだ思春期の生徒だったのなら、プロポーズと受け取りかねないその言葉を聞いてどきどきしていただろう。
 だが、長い年月で摩耗した俺の精神はわずかに揺れたものの、激しい波が立つほどではない。

「はぁ……クロヴィス、そういう言葉は俺ではなく」

 ……――ギィッ。
 突然、教室の扉を開く音が聞こえた。

 それと同時に、腕をぐっと掴まれた。
 驚く間もなく、強い力で身体ごと引き寄せられる。背中が戸棚の扉にぶつかり、その勢いのまま中へ押し込まれた。

「なにを、むぐっ」

 口元を手で塞がれる。耳元で「しっ」とクロヴィスの吐息がかかった。

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