24 / 61
野外学習の夜 2
しおりを挟む
見知った顔に緊張が一気に解け、踏ん張っていた足の力が抜けそうになる。
探していた姿を見つけ安心したのも束の間、俺は眉をひそめた。
「なんです、その恰好は……」
クロヴィスは、全身ずぶ濡れだった。
制服は水を吸って重たく体に張り付き、長い髪の先からはぽたり、ぽたりと水滴が落ちている。
その姿のまま、クロヴィスは小さく苦笑した。まるで自分の情けない格好を誤魔化すように。
「カナトとテオと一緒にいたんだけど、三人で川に落ちて流されてしまってね。二人ともはぐれたんだ」
クロヴィスがいうには、そのままひとりで森の中を彷徨い歩いていたのだという。コテージへと戻るつもりが、ぐるぐると森の中を歩いてるだけで途方に暮れていた、と。
何かに阻まれ森から出られないことだけは気付いていたようで、悪戯好きの精霊の仕業で明日の朝には戻れるだろうという推測を伝えると、すんなりと事態を受け入れてくれた。あの旧校舎の出来事があったのも、説得力が増したのかもしれない。
昼間はまだ日差しがあったが、夜の森はかなり冷える。冷え切った空気の中で、濡れたままのクロヴィスの体温は確実に奪われていくだろう。
彼が濡れた姿を見るのは、これで三度目だ。水難の相でも出ているんじゃないだろうか。
「クロヴィス、脱いでください」
「えっ、積極的だね」
「違います。そのままだと風邪をひくでしょう。乾かすために焚き火を起こすので、これでも着ていてください」
さっとローブを脱ぎ、彼に差し出す。
俺のローブは少し大きい。クロヴィスの体格だとちょうどいいだろう。
「でもそれじゃあ先生も寒いだろう」
「何を馬鹿なことをいってるんですか。目の前にずぶ濡れの生徒がいるのに放っておくほど、教師をやめた覚えはありません。それに、君は水に濡れると駄目なんでしょう」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
肌に張り付いて濡れた制服を、クロヴィスは少し手間取りながら脱いだ。その下から現れた細身の体は、無駄のない筋肉がしなやかに浮かび上がっている。
するりと解かれた長い髪は水滴を落としながら、肩に落ちる。銀に近い髪は水に濡れることで青みが増し、ランタンの光に照らされていっそう輝いていた。
後ろ姿だけを見れば女性のように繊細で、中性的な雰囲気さえある。喋らなければ、目を奪うほどの美しい存在に見える。本当に、喋らなければ、だ。
じっと見つめていたことに気がついて、慌てて視線を逸らす。人の着替えを凝視するなんて失礼だ。頭では分かっているのに、目が勝手に追ってしまっていた。
「もっと見ていてよかったのに。……全部、脱ごうか?」
視線を向けていたことは、やはり気づかれていたらしい。
クロヴィスは悪戯っぽく笑って、濡れた前髪をかき上げる。その細められた瞳の視線から逃げるように、俺は周囲を見回して乾いた枝や葉を集めはじめた。
「はやくローブを羽織ってください。それだと露出狂ですよ」
「酷いな。喜んで裸になるのは先生の前だけでだよ」
「変態ですか」
「ああ、先生限定の、変態かもね」
「……悪趣味ですね。いいからはやくローブを着てください。水に濡れたままだと辛いでしょう」
集めた木にランタンの灯を少し移し、炎を作る。ぱち、と火がつき、湿った空気を押しのけるように橙の明かりが周囲に広がっていく。
制服はある程度水気を絞ってから遠火にかけ、水分を飛ばす。焦げたら後で弁償すればいい。今は命が最優先だ。
ようやくローブを羽織ったクロヴィスも、火のそばに座らせる。炎に照らされた横顔はまだ色を失っていた。
「水に濡れる、というよりも、体温が下がると、なんだ。上手く力が出せなくなる」
そういって、クロヴィスは手をぎゅっと握ったり開いたりしていた。真っ白い指先はかすかに震えている。
獣人族の中でも種族によって体質は違う。ある一定の条件下で魔力が不安定になるといっていたクロヴィスのそれは、寒さに弱いのかもしれない。
くしゅん、と小さなくしゃみが聞こえた。やはり寒いのだろう、顔色もあまりよくない。
俺は焚火の前に足を抱えて座ったまま、膝に埋めていた顔を横に向ける。
ぱちりと、目があった。
「……寒いですか?」
「大丈夫。……といいたいところなんだけど、少し寒い。でも耐えられないことはないよ」
心配させないように笑っているのだろうが、体は魔力が不安定になるほどに冷えきっているだろう。先ほどの飄々とした調子も消え、軽口を叩けないほど弱々しい。
教師としての正解の行動はもうやった。身体を温めるために焚き火を起こし、ローブも貸した。あとはこの森から出るために朝を待つだけ。それ以上のことは業務範囲外だ。
彼が東国の皇子と知ってから、なおさら距離をとるべきだと思った。あまりにも俺とは不釣り合いすぎる。住む世界も、国も違う。年齢も、種族も違う。性別だって同じだ。あまりにもちぐはぐすぎる存在同士。
でも距離を取ろうとすればするほど、逆に近付いてしまっている気がする。
それがよくないと、本能ではわかっているのに。
俺は小さく息を吐いて、立ち上がった。
そしてクロヴィスの前まで歩いて、見下ろす。
「……ヴァレンス先生?」
「失礼します」
膝をついて身を屈ませ、羽織っているローブの裾を軽く持ち上げて、クロヴィスの足の間へと身体を滑り込ませた。
突然の行動に、クロヴィスが「え」と小さく息を呑む声がする。その驚きの視線を避けるように、膝と膝のあいだに腰をおさめて座る。背中にぴったりとひっついた胸板から、冷たい体温が伝わってきた。かなり冷え切っていたようだ。
「今夜だけです。風邪をひいて倒れても困りますから」
顔だけ後ろを振り向いてそういうと、驚いた表情がふわりと溶けた。
「……ありがとう、先生。……あったかい」
腕が腹に回って、ぎゅうっと抱きしめられる。
体温が本当に低い。熱を奪われていく感覚にひんやりと身震いしたが、嫌な感じはしなかった。これで少しでも体温が戻ればいいんだけど。
クロヴィスは首筋に顔を埋めて、擦り寄ってくる。
「……ひとつ、聞いても良いですか」
「質問だなんて珍しいね、なに?」
「どうしてこの国に留学しようと思ったのですか? この国は技術も魔術も、どこにでもある水準のものです。それに東国から遠い国です。帰省するのも一苦労でしょう」
ここから東国までは、船でも陸路でも数週間はかかる。そんな遠く離れた土地を留学先に選んだのは、どうしてなのか。ずっと疑問に思っていた。
「先生に会うため、って言ったら?」
少しだけ、そう言われるんじゃないかと思っていた。思わずため息がこぼれる。
「真面目に答えてください」
「真面目に答えてるんだけどな」
くすくすと笑う吐息が首筋にかかって、くすぐったい。
「そうだね。もっと真面目に答えるなら……〈ツガイ〉を探しに来た、かな。僕の一族は成人したら魂の伴侶でもある〈ツガイ〉を探しに行くんだ」
伴侶探し。なんだ、学園の他の生徒たちと同じような理由だったのか。
「でも僕の〈ツガイ〉は素直じゃなくて、なかなか頷いてくれないんだ」
「きっと人違いなんでしょう。もっと他に若くて献身的で可愛らしい女性がいるはずです。はやく気付くべきですね」
「年齢とか、男とか女とか、関係ないよ」
腹に回された腕に力がこもる。そのまま耳の裏に、そっと唇が触れた。軽く音をたてた口付けに、くすぐったさとぞくりとする震えが背筋に走る。甘い空気に流されそうになって、慌てて話題を逸らす。
「む、昔ですが、東国なら俺も訪れたことがあります」
「……そうなんだ?」
「ええ、とても良い国でしたよ。穏やかで」
少しだけ、日本に似ていた。四季折々の季節があり、食事も文化も人となりも、謙虚で協調性があって、とても居心地がよかったのを覚えている。
「どうして東国に?」
「旅行も兼ねた留学みたいなものです。……ある学院で教師の真似事をさせてもらいました。当時は東国の言語は少しだけ話せましたし、ちょうど年少クラスに空きがあって……獣人族の子どもがあんなに愛らしいとは、正直驚きましたね」
繰り返されるループに嫌気がさして、勢いで国外に家出したんだ。そのまま逃亡するのもいいかなと思い東国の日常会話も覚えてみたが、今はもう話せない。それにすぐに父に連れ戻されて、一年も滞在できなかった。
でも、そこで出会った小さな子どもたち。獣の耳や尻尾が付いている子が足元にまとわりつき、抱っこをせがむのだ。人間とは少し違う、まんまるな瞳。泣き笑いの感情がはっきり顔に出る子たちに、勉強を教え、絵本を読み聞かせた。今思えば教師というより保育士だったかもしれない。
それを思い出すと、自然と頬がゆるむ。
「……そういえばその中で、ひとり。すごく手のかかる子がいましてね」
ふと思い返すのは、笑顔の可愛い子ども。
初めて会ったときには人の足に隠れるような子だった。こちらを警戒するような目と態度。でも日を重ねるごとにいちばん懐いてくれた、可愛い子だった。
「でも、とても良い子でした」
「先生は……その子にまた会ってみたい?」
「そうですね、機会があるのでしたら。良い国でしたし、また訪れてみたいです」
クロヴィスの口元がわずかに上がる。自分の国を褒められたのが嬉しいのだろう。
「だったらまたおいでよ。現地の人しか知らないような場所まで僕が案内してあげる」
「……考えておきます」
それはきっと無理だろう。
俺の人生のタイムリミットは、もうすぐなのだから。
「それにしても、先生が子ども好きなんて知らなかったな。結婚して、子どもが欲しいとか考えたりしない?」
「仮にも俺はヴァレンス家の次期当主ですから、世継ぎは必要でしょうね」
「そうじゃなくて、先生自身」
「……まあ、可愛らしい子なら、考えなくもないですね」
普通に生きていたら、婚約者と結婚して子どもを授かっていただろう。小さくて可愛らしい命。それを守るために一生を捧げるのも、今の俺にとっては無理な未来だ。
「じゃあ、僕の子どもを産んでよ」
「…………は?」
探していた姿を見つけ安心したのも束の間、俺は眉をひそめた。
「なんです、その恰好は……」
クロヴィスは、全身ずぶ濡れだった。
制服は水を吸って重たく体に張り付き、長い髪の先からはぽたり、ぽたりと水滴が落ちている。
その姿のまま、クロヴィスは小さく苦笑した。まるで自分の情けない格好を誤魔化すように。
「カナトとテオと一緒にいたんだけど、三人で川に落ちて流されてしまってね。二人ともはぐれたんだ」
クロヴィスがいうには、そのままひとりで森の中を彷徨い歩いていたのだという。コテージへと戻るつもりが、ぐるぐると森の中を歩いてるだけで途方に暮れていた、と。
何かに阻まれ森から出られないことだけは気付いていたようで、悪戯好きの精霊の仕業で明日の朝には戻れるだろうという推測を伝えると、すんなりと事態を受け入れてくれた。あの旧校舎の出来事があったのも、説得力が増したのかもしれない。
昼間はまだ日差しがあったが、夜の森はかなり冷える。冷え切った空気の中で、濡れたままのクロヴィスの体温は確実に奪われていくだろう。
彼が濡れた姿を見るのは、これで三度目だ。水難の相でも出ているんじゃないだろうか。
「クロヴィス、脱いでください」
「えっ、積極的だね」
「違います。そのままだと風邪をひくでしょう。乾かすために焚き火を起こすので、これでも着ていてください」
さっとローブを脱ぎ、彼に差し出す。
俺のローブは少し大きい。クロヴィスの体格だとちょうどいいだろう。
「でもそれじゃあ先生も寒いだろう」
「何を馬鹿なことをいってるんですか。目の前にずぶ濡れの生徒がいるのに放っておくほど、教師をやめた覚えはありません。それに、君は水に濡れると駄目なんでしょう」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
肌に張り付いて濡れた制服を、クロヴィスは少し手間取りながら脱いだ。その下から現れた細身の体は、無駄のない筋肉がしなやかに浮かび上がっている。
するりと解かれた長い髪は水滴を落としながら、肩に落ちる。銀に近い髪は水に濡れることで青みが増し、ランタンの光に照らされていっそう輝いていた。
後ろ姿だけを見れば女性のように繊細で、中性的な雰囲気さえある。喋らなければ、目を奪うほどの美しい存在に見える。本当に、喋らなければ、だ。
じっと見つめていたことに気がついて、慌てて視線を逸らす。人の着替えを凝視するなんて失礼だ。頭では分かっているのに、目が勝手に追ってしまっていた。
「もっと見ていてよかったのに。……全部、脱ごうか?」
視線を向けていたことは、やはり気づかれていたらしい。
クロヴィスは悪戯っぽく笑って、濡れた前髪をかき上げる。その細められた瞳の視線から逃げるように、俺は周囲を見回して乾いた枝や葉を集めはじめた。
「はやくローブを羽織ってください。それだと露出狂ですよ」
「酷いな。喜んで裸になるのは先生の前だけでだよ」
「変態ですか」
「ああ、先生限定の、変態かもね」
「……悪趣味ですね。いいからはやくローブを着てください。水に濡れたままだと辛いでしょう」
集めた木にランタンの灯を少し移し、炎を作る。ぱち、と火がつき、湿った空気を押しのけるように橙の明かりが周囲に広がっていく。
制服はある程度水気を絞ってから遠火にかけ、水分を飛ばす。焦げたら後で弁償すればいい。今は命が最優先だ。
ようやくローブを羽織ったクロヴィスも、火のそばに座らせる。炎に照らされた横顔はまだ色を失っていた。
「水に濡れる、というよりも、体温が下がると、なんだ。上手く力が出せなくなる」
そういって、クロヴィスは手をぎゅっと握ったり開いたりしていた。真っ白い指先はかすかに震えている。
獣人族の中でも種族によって体質は違う。ある一定の条件下で魔力が不安定になるといっていたクロヴィスのそれは、寒さに弱いのかもしれない。
くしゅん、と小さなくしゃみが聞こえた。やはり寒いのだろう、顔色もあまりよくない。
俺は焚火の前に足を抱えて座ったまま、膝に埋めていた顔を横に向ける。
ぱちりと、目があった。
「……寒いですか?」
「大丈夫。……といいたいところなんだけど、少し寒い。でも耐えられないことはないよ」
心配させないように笑っているのだろうが、体は魔力が不安定になるほどに冷えきっているだろう。先ほどの飄々とした調子も消え、軽口を叩けないほど弱々しい。
教師としての正解の行動はもうやった。身体を温めるために焚き火を起こし、ローブも貸した。あとはこの森から出るために朝を待つだけ。それ以上のことは業務範囲外だ。
彼が東国の皇子と知ってから、なおさら距離をとるべきだと思った。あまりにも俺とは不釣り合いすぎる。住む世界も、国も違う。年齢も、種族も違う。性別だって同じだ。あまりにもちぐはぐすぎる存在同士。
でも距離を取ろうとすればするほど、逆に近付いてしまっている気がする。
それがよくないと、本能ではわかっているのに。
俺は小さく息を吐いて、立ち上がった。
そしてクロヴィスの前まで歩いて、見下ろす。
「……ヴァレンス先生?」
「失礼します」
膝をついて身を屈ませ、羽織っているローブの裾を軽く持ち上げて、クロヴィスの足の間へと身体を滑り込ませた。
突然の行動に、クロヴィスが「え」と小さく息を呑む声がする。その驚きの視線を避けるように、膝と膝のあいだに腰をおさめて座る。背中にぴったりとひっついた胸板から、冷たい体温が伝わってきた。かなり冷え切っていたようだ。
「今夜だけです。風邪をひいて倒れても困りますから」
顔だけ後ろを振り向いてそういうと、驚いた表情がふわりと溶けた。
「……ありがとう、先生。……あったかい」
腕が腹に回って、ぎゅうっと抱きしめられる。
体温が本当に低い。熱を奪われていく感覚にひんやりと身震いしたが、嫌な感じはしなかった。これで少しでも体温が戻ればいいんだけど。
クロヴィスは首筋に顔を埋めて、擦り寄ってくる。
「……ひとつ、聞いても良いですか」
「質問だなんて珍しいね、なに?」
「どうしてこの国に留学しようと思ったのですか? この国は技術も魔術も、どこにでもある水準のものです。それに東国から遠い国です。帰省するのも一苦労でしょう」
ここから東国までは、船でも陸路でも数週間はかかる。そんな遠く離れた土地を留学先に選んだのは、どうしてなのか。ずっと疑問に思っていた。
「先生に会うため、って言ったら?」
少しだけ、そう言われるんじゃないかと思っていた。思わずため息がこぼれる。
「真面目に答えてください」
「真面目に答えてるんだけどな」
くすくすと笑う吐息が首筋にかかって、くすぐったい。
「そうだね。もっと真面目に答えるなら……〈ツガイ〉を探しに来た、かな。僕の一族は成人したら魂の伴侶でもある〈ツガイ〉を探しに行くんだ」
伴侶探し。なんだ、学園の他の生徒たちと同じような理由だったのか。
「でも僕の〈ツガイ〉は素直じゃなくて、なかなか頷いてくれないんだ」
「きっと人違いなんでしょう。もっと他に若くて献身的で可愛らしい女性がいるはずです。はやく気付くべきですね」
「年齢とか、男とか女とか、関係ないよ」
腹に回された腕に力がこもる。そのまま耳の裏に、そっと唇が触れた。軽く音をたてた口付けに、くすぐったさとぞくりとする震えが背筋に走る。甘い空気に流されそうになって、慌てて話題を逸らす。
「む、昔ですが、東国なら俺も訪れたことがあります」
「……そうなんだ?」
「ええ、とても良い国でしたよ。穏やかで」
少しだけ、日本に似ていた。四季折々の季節があり、食事も文化も人となりも、謙虚で協調性があって、とても居心地がよかったのを覚えている。
「どうして東国に?」
「旅行も兼ねた留学みたいなものです。……ある学院で教師の真似事をさせてもらいました。当時は東国の言語は少しだけ話せましたし、ちょうど年少クラスに空きがあって……獣人族の子どもがあんなに愛らしいとは、正直驚きましたね」
繰り返されるループに嫌気がさして、勢いで国外に家出したんだ。そのまま逃亡するのもいいかなと思い東国の日常会話も覚えてみたが、今はもう話せない。それにすぐに父に連れ戻されて、一年も滞在できなかった。
でも、そこで出会った小さな子どもたち。獣の耳や尻尾が付いている子が足元にまとわりつき、抱っこをせがむのだ。人間とは少し違う、まんまるな瞳。泣き笑いの感情がはっきり顔に出る子たちに、勉強を教え、絵本を読み聞かせた。今思えば教師というより保育士だったかもしれない。
それを思い出すと、自然と頬がゆるむ。
「……そういえばその中で、ひとり。すごく手のかかる子がいましてね」
ふと思い返すのは、笑顔の可愛い子ども。
初めて会ったときには人の足に隠れるような子だった。こちらを警戒するような目と態度。でも日を重ねるごとにいちばん懐いてくれた、可愛い子だった。
「でも、とても良い子でした」
「先生は……その子にまた会ってみたい?」
「そうですね、機会があるのでしたら。良い国でしたし、また訪れてみたいです」
クロヴィスの口元がわずかに上がる。自分の国を褒められたのが嬉しいのだろう。
「だったらまたおいでよ。現地の人しか知らないような場所まで僕が案内してあげる」
「……考えておきます」
それはきっと無理だろう。
俺の人生のタイムリミットは、もうすぐなのだから。
「それにしても、先生が子ども好きなんて知らなかったな。結婚して、子どもが欲しいとか考えたりしない?」
「仮にも俺はヴァレンス家の次期当主ですから、世継ぎは必要でしょうね」
「そうじゃなくて、先生自身」
「……まあ、可愛らしい子なら、考えなくもないですね」
普通に生きていたら、婚約者と結婚して子どもを授かっていただろう。小さくて可愛らしい命。それを守るために一生を捧げるのも、今の俺にとっては無理な未来だ。
「じゃあ、僕の子どもを産んでよ」
「…………は?」
112
あなたにおすすめの小説
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
(仮)攫われて異世界
エウラ
BL
僕は何もかもがイヤになって夜の海に一人佇んでいた。
今夜は満月。
『ここではないどこかへ行きたいな』
そう呟いたとき、不意に押し寄せた波に足を取られて真っ暗な海に引きずり込まれた。
死を感じたが不思議と怖くはなかった。
『このまま、生まれ変わって誰も自分を知らない世界で生きてみたい』
そう思いながらゆらりゆらり。
そして気が付くと、そこは海辺ではなく鬱蒼と木々の生い茂った深い森の中の湖の畔。
唐突に、何の使命も意味もなく異世界転移してしまった僕は、誰一人知り合いのいない、しがらみのないこの世界で第二の人生を生きていくことになる。
※突発的に書くのでどのくらいで終わるのか未定です。たぶん短いです。
魔法あり、近代科学っぽいモノも存在します。
いろんな種族がいて、男女とも存在し異種婚姻や同性同士の婚姻も普通。同性同士の場合は魔法薬で子供が出来ます。諸々は本文で説明予定。
※R回はだいぶ後の予定です。もしかしたら短編じゃ終わらないかも。→ちょっと終わらないので長編に切り替えます。スミマセン。
転生したらBLゲームのホスト教師だったのでオネエ様になろうと思う
ラットピア
BL
毎日BLゲームだけが生き甲斐の社畜系腐男子凛時(りんじ)は会社(まっくろ♡)からの帰り、信号を渡る子供に突っ込んでいくトラックから子供を守るため飛び出し、トラックに衝突され、最近ハマっているBLゲームを全クリできていないことを悔やみながら目を閉じる。
次に目を覚ますとハマっていたBLゲームの攻略最低難易度のホスト教員籠目 暁(かごめ あかつき)になっていた。BLは見る派で自分がなる気はない凛時は何をとち狂ったのかオネエになることを決めた
オチ決定しました〜☺️
※印はR18です(際どいやつもつけてます)
毎日20時更新 三十話超えたら長編に移行します
メインストーリー開始時 暁→28歳 教員6年目
凛時転生時 暁→19歳 大学1年生(入学当日)
訂正箇所見つけ次第訂正してます。間違い探しみたいに探してみてね⭐︎
11/24 大変際どかったためR18に移行しました
12/3 書記くんのお名前変更しました。今は戌亥 修馬(いぬい しゅうま)くんです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる