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タイムリミット
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15歳の誕生日の朝に戻されていない。
ということは〈番〉の契約は結ばれなかったのだろう。
そもそも身体を重ねるだけで〈番〉が成立するなんて、そんな単純なものではない。身体を繋げる前に、ちょっとした契約のような儀式が必要なんだ。でなければ、今頃この恋多き学園では次々と〈番〉が成立しているはずだ。
クロヴィスは知らなかったようだけれど、今回もそれに命を救われたかもしれない。
あのまま気絶してしまったようで、そのまま寝てしまったらしい。
自室のベッドの上で目を覚ましたときには、すでに翌日の昼になっていた。授業がないおかげで助かったが、全身の気だるさは拭えなかった。
ベッドから起き上がると、いつものナイトウェアに着替えていた。後始末はクロヴィスがやってくれたのだろう。どこまでも紳士的な振る舞いに、怒りたくても隙がない。
起きたとき、クロヴィスの姿がなくてよかった。
この時間帯なら、きっと授業を受けているのだろう。彼のことだから、いつものように傍にいると思っていたが、もしかしたらクロヴィスも顔を合わせるのは少し気まずいのかもしれない。
あれは完全に、タガが外れて暴走していたからな。
俺も結局、それに乗ってしまったわけで。人のことはいえないし、酷いことをいって彼を怒らせてしまったのは俺のせいだ。でもまさかあそこまで暴走するとは思わなかったんだ。だが反省はしているが、後悔はしていない。
けれど起きたら不思議と頭はすっきりとしていて、思いのほか冷静で助かっている。
だが姿見にはひどい顔をした自分の姿が目に入る。髪は乱れ、泣いたせいか目元は赤くなっていて、出ている肌という肌にはキスの痕が残っている。首にもくっきりと歯型が残っていた。
何をしたのか、されたのか、全てを物語っている姿に腹の奥がまたきゅっと熱くなる。
身体は少しだけ軋むけれど、最初の時のような重だるい負担はなかった。きっと、優しくされたんだろう。かなりしつこかったけれど。
というか、俺がまた抱かれる方って、なんでだ。
クロヴィスの方が背も高くて美丈夫なのはわかる。隣に立つと背が低い方は俺だし。でも俺だってこの国では背は高い方だ。体もカナトほど小柄で華奢ではない。ごく普通の大人の男だ。抱かれる側という選択肢が今までになかったので、頭が混乱している。
でも一番、腑に落ちないのは。
「なんで、あんなに気持ちがいい、って思った……?」
理性すら飛ばすほどの快感。
最初の夜も感じていたが、触れられているところ全てが性感帯になったように、泣きながら喘ぐことしかできなかった。
味わったことのない未知の快感に驚いて、怖くて、どうしようもなかったのに。クロヴィスに優しく手懐けられてあやされて、最後の方は気持ちいいことしか考えられなかった。
しかもクロヴィスはああいう時、いつも以上に言葉が砕けてすごく甘くなる。まるで駄々をこねる子どもを宥めるみたいに、優しく言い聞かせてくる。
それを思い出すたび身体が震える。ぶり返してくる熱を振り払うように、頭を振って深呼吸をした。
〈番〉ならともかく、男同士で何も準備のされないまま体を重ねることは大抵痛みを伴うはずだ。それなのにクロヴィスのあの瞳と目が合った瞬間、身体に変化が起きた。それは最初も、昨日もだ。あきらかにおかしすぎる。
クロヴィスはきっと、俺に何かを隠している。
それに、彼がどうして俺に執着しているのかも、まだはっきりとしない。
東国の皇子がわざわざこの国に留学しにきて、ただの教師を〈番〉にしたいだなんて。好きだからとか、そんな曖昧な答えでは信じきれないし、納得できない。
しかもヴァレンス家には裏がある。よくない噂が流れているのも、彼の情報網なら調べればすぐにわかるだろう。
そんな俺をどうして。
「……でも、もう終わりだ」
これ以上、クロヴィスの存在に惑わされるわけにはいかない。今ならまだ、あの温もりを手放せる。
俺はもう覚悟を決めているんだ。
物語は終幕へと向かっている。
タイムリミットは、もうすぐそこまで迫っていた。
* * *
その日の夜、密かにまとめていた資料を持ち出し、カナトとテオの部屋に訪れた。
カナトはしばらく絶対安静のため授業を休んでいるらしく、ルームメイトのテオに看病されているとのことだった。
扉の前で一呼吸置き、ノックする。
暫くすると、少し警戒した様子のテオが、開いた扉の隙間から顔をのぞかせた。
訪れたのが俺だとわかると、驚いた表情を見せつつもそのまま扉を開けてくれた。
「こんばんは、テオ。あれからすぐ様子を見に行けなくてすみませんでした」
「……別に、事情はクロヴィスから聞いてる」
いったい、彼はどこまで話したのだろうか。
ヴァレンス先生を抱き潰してしまったから、しばらく会うのは無理だよ。とか? 頭が痛くなってくるな、それは。いやいや、さすがにそれはないだろう。
「それでカナトの調子はどうです?」
「……落ち着いている」
「そうですか。心配していたので良かったです。しっかりと休ませてくださいね」
「ああ」
「君も体調は大丈夫ですか?」
「……問題ない」
いつものように返答は言葉短めだが、テオの視線はあからさまに泳いでいた。何か言いたげに何度も口を開いているが、言い出せないような、珍しい表情。
だが意を決したように、視線をこちらに向ける。
「……あのとき、お前のせいにして、悪かった」
その言葉に、目を瞬かせて驚く。テオが俺に謝ることなんて今までで一度もなかったというのに。
あの資料室で何があったのか、カナトやクロヴィスに聞いたのだろうか。だが自発的に俺とこうして目を合わせ、謝罪の口をするなんて、はじめてのことで素直に驚いてしまった。
「俺なら平気です。それに、君もよく耐えた方ですよ。あそこで事故が起こらなくて本当に良かった」
微笑むと、テオはまたすっと視線を逸らした。
今までとは違う態度だ。嫌悪というより、どこかそわそわしている。もしかすると、俺に対して罪悪感があるのかもしれない。
警戒心の薄れた野良猫を見ているようで、思わず微笑ましくなる。けれど、俺がここに来た本題はカナトのことだけではないんだ。大事なことを話さなくてはならない。
「実はテオ、今日はこれを君に渡しにきたんです」
腕の中に抱えていた書類の束を全て差し出す。
テオは怪訝そうな顔でそれを受け取ったが、何枚かの書類に目を滑らせると、はっとした表情をする。
「お前、これは……」
その瞳には、信じられないという色が浮かんでいる。
「君なら忖度なしで、これをどう使うか判断できると思いまして。あとは、お任せしますね」
俺は、この物語を終わらせなくてはいけないんだ。
ということは〈番〉の契約は結ばれなかったのだろう。
そもそも身体を重ねるだけで〈番〉が成立するなんて、そんな単純なものではない。身体を繋げる前に、ちょっとした契約のような儀式が必要なんだ。でなければ、今頃この恋多き学園では次々と〈番〉が成立しているはずだ。
クロヴィスは知らなかったようだけれど、今回もそれに命を救われたかもしれない。
あのまま気絶してしまったようで、そのまま寝てしまったらしい。
自室のベッドの上で目を覚ましたときには、すでに翌日の昼になっていた。授業がないおかげで助かったが、全身の気だるさは拭えなかった。
ベッドから起き上がると、いつものナイトウェアに着替えていた。後始末はクロヴィスがやってくれたのだろう。どこまでも紳士的な振る舞いに、怒りたくても隙がない。
起きたとき、クロヴィスの姿がなくてよかった。
この時間帯なら、きっと授業を受けているのだろう。彼のことだから、いつものように傍にいると思っていたが、もしかしたらクロヴィスも顔を合わせるのは少し気まずいのかもしれない。
あれは完全に、タガが外れて暴走していたからな。
俺も結局、それに乗ってしまったわけで。人のことはいえないし、酷いことをいって彼を怒らせてしまったのは俺のせいだ。でもまさかあそこまで暴走するとは思わなかったんだ。だが反省はしているが、後悔はしていない。
けれど起きたら不思議と頭はすっきりとしていて、思いのほか冷静で助かっている。
だが姿見にはひどい顔をした自分の姿が目に入る。髪は乱れ、泣いたせいか目元は赤くなっていて、出ている肌という肌にはキスの痕が残っている。首にもくっきりと歯型が残っていた。
何をしたのか、されたのか、全てを物語っている姿に腹の奥がまたきゅっと熱くなる。
身体は少しだけ軋むけれど、最初の時のような重だるい負担はなかった。きっと、優しくされたんだろう。かなりしつこかったけれど。
というか、俺がまた抱かれる方って、なんでだ。
クロヴィスの方が背も高くて美丈夫なのはわかる。隣に立つと背が低い方は俺だし。でも俺だってこの国では背は高い方だ。体もカナトほど小柄で華奢ではない。ごく普通の大人の男だ。抱かれる側という選択肢が今までになかったので、頭が混乱している。
でも一番、腑に落ちないのは。
「なんで、あんなに気持ちがいい、って思った……?」
理性すら飛ばすほどの快感。
最初の夜も感じていたが、触れられているところ全てが性感帯になったように、泣きながら喘ぐことしかできなかった。
味わったことのない未知の快感に驚いて、怖くて、どうしようもなかったのに。クロヴィスに優しく手懐けられてあやされて、最後の方は気持ちいいことしか考えられなかった。
しかもクロヴィスはああいう時、いつも以上に言葉が砕けてすごく甘くなる。まるで駄々をこねる子どもを宥めるみたいに、優しく言い聞かせてくる。
それを思い出すたび身体が震える。ぶり返してくる熱を振り払うように、頭を振って深呼吸をした。
〈番〉ならともかく、男同士で何も準備のされないまま体を重ねることは大抵痛みを伴うはずだ。それなのにクロヴィスのあの瞳と目が合った瞬間、身体に変化が起きた。それは最初も、昨日もだ。あきらかにおかしすぎる。
クロヴィスはきっと、俺に何かを隠している。
それに、彼がどうして俺に執着しているのかも、まだはっきりとしない。
東国の皇子がわざわざこの国に留学しにきて、ただの教師を〈番〉にしたいだなんて。好きだからとか、そんな曖昧な答えでは信じきれないし、納得できない。
しかもヴァレンス家には裏がある。よくない噂が流れているのも、彼の情報網なら調べればすぐにわかるだろう。
そんな俺をどうして。
「……でも、もう終わりだ」
これ以上、クロヴィスの存在に惑わされるわけにはいかない。今ならまだ、あの温もりを手放せる。
俺はもう覚悟を決めているんだ。
物語は終幕へと向かっている。
タイムリミットは、もうすぐそこまで迫っていた。
* * *
その日の夜、密かにまとめていた資料を持ち出し、カナトとテオの部屋に訪れた。
カナトはしばらく絶対安静のため授業を休んでいるらしく、ルームメイトのテオに看病されているとのことだった。
扉の前で一呼吸置き、ノックする。
暫くすると、少し警戒した様子のテオが、開いた扉の隙間から顔をのぞかせた。
訪れたのが俺だとわかると、驚いた表情を見せつつもそのまま扉を開けてくれた。
「こんばんは、テオ。あれからすぐ様子を見に行けなくてすみませんでした」
「……別に、事情はクロヴィスから聞いてる」
いったい、彼はどこまで話したのだろうか。
ヴァレンス先生を抱き潰してしまったから、しばらく会うのは無理だよ。とか? 頭が痛くなってくるな、それは。いやいや、さすがにそれはないだろう。
「それでカナトの調子はどうです?」
「……落ち着いている」
「そうですか。心配していたので良かったです。しっかりと休ませてくださいね」
「ああ」
「君も体調は大丈夫ですか?」
「……問題ない」
いつものように返答は言葉短めだが、テオの視線はあからさまに泳いでいた。何か言いたげに何度も口を開いているが、言い出せないような、珍しい表情。
だが意を決したように、視線をこちらに向ける。
「……あのとき、お前のせいにして、悪かった」
その言葉に、目を瞬かせて驚く。テオが俺に謝ることなんて今までで一度もなかったというのに。
あの資料室で何があったのか、カナトやクロヴィスに聞いたのだろうか。だが自発的に俺とこうして目を合わせ、謝罪の口をするなんて、はじめてのことで素直に驚いてしまった。
「俺なら平気です。それに、君もよく耐えた方ですよ。あそこで事故が起こらなくて本当に良かった」
微笑むと、テオはまたすっと視線を逸らした。
今までとは違う態度だ。嫌悪というより、どこかそわそわしている。もしかすると、俺に対して罪悪感があるのかもしれない。
警戒心の薄れた野良猫を見ているようで、思わず微笑ましくなる。けれど、俺がここに来た本題はカナトのことだけではないんだ。大事なことを話さなくてはならない。
「実はテオ、今日はこれを君に渡しにきたんです」
腕の中に抱えていた書類の束を全て差し出す。
テオは怪訝そうな顔でそれを受け取ったが、何枚かの書類に目を滑らせると、はっとした表情をする。
「お前、これは……」
その瞳には、信じられないという色が浮かんでいる。
「君なら忖度なしで、これをどう使うか判断できると思いまして。あとは、お任せしますね」
俺は、この物語を終わらせなくてはいけないんだ。
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