無明剣零

青鳥翔

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魔法学

空間魔法の覚醒

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 「あ、当たった!!」

 カヤはいつものように佐助に稽古をつけてもらっていた。佐助はひたすら残身を行い、カヤの攻撃を回避していたが初期の頃に比べて避けるのが難しくなっていた。カヤのハチマキを見ようとしても、カヤは一瞬でその位置から消える。かといって後ろに回ろうとすると、木刀が飛んでくる。カヤの成長スピードはえげつないものだった。そして今日、カヤの振るった木刀が初めて佐助の肘に当たったのだ。

 「カヤ様。上達が早く、そして魔力のコントロールがうまくなっています。気を抜いたらやられていた。とても凄い事です。」

 「ありがとうございます!」

 カヤは初めて当たった事に喜んでいた。すると佐助が「本気を出します。」と一言言い、木刀を構えたのだ。その瞬間威圧的なオーラが道場内を駆け巡る。佐助はただ立っているだけであるというのに、全く隙のない状態へと移行していたのだ。

 「私は世界最速のライフルの弾丸でさえ簡単に避け、斬る事が出来ます。勿論カヤ様に本気の一撃を与えるつもりはないですが、気を抜かないでください。本気を出した私に勝てる者は大和の国にはいませんでした。ですが空間魔法を自在に操る事が出来るようになったカヤ様なら私の攻撃を読めるはずです。ではサインさん、よろしくお願い致します。」

 ただの木刀であるのにも関わらず本物の殺意が込められたその木刀は、カヤを恐怖に陥れるほどのものだった。しかし、カヤはそれでも続行したいと言い、サインは稽古の始まりの合図を送る。そして稽古が始まった。するとカヤは異変に気づく。

 「えっ…?」

 カヤが少し目線を下にやると、腹に木刀の先が当たっていたのだ。決して気を抜いていなかったカヤだったがそのあまりにも一瞬の出来事にただ驚いていた。

 「カヤ様。これが大和最強と言われた男の一撃です。読めましたか?」

 「い、いえ…。」

 たった一撃で死を覚悟したカヤ。戦場がこんなに危険な物だったのかと改めて感じていた。すると佐助は元の位置に戻り、また構える。

 「カヤ様。空間魔法をこの部屋全体に広げて目を閉じて下さい。」

 「…はい。」

 カヤは目を閉じる。すると、真っ暗闇であるのにも関わらず、サインたちの位置ももちろん、佐助の木刀の揺らぎまで察知出来たのだ。カヤは驚いていたが、佐助は空間認識に長けているため、カヤの潜在能力をある程度分かっていた。それが故にそう助言したのだ。

 「その状態を維持したまま目を開けて下さい。」

 「はい。」

 カヤが目を開けるとコウモリの超音波のように部屋全体から波が伝わってくる。人の息遣い、部屋を舞う埃の微妙な動き、そして木刀の揺らぎ。なにもかもが察知出来た。

 「これは一体…。」

 「これこそが残身の応用技、”絶身”です。残身は強靭な精神力、相手が殺意を持つ事、刀を体の一部にすると初めて身につく技だと1か月前に言いましたね。それをさらに極めると、まるで電波が自分自身に飛んでくるような感覚を引き起こすのです。この状態に入った者の周囲は全く隙がない。私のような魔法なき者でも出来る技であるので、カヤ様はさらにその上を行くはずです。ではサインさん、合図をよろしくお願い致します。」

 サインたちは驚いていた。カヤは集中していて気づいていないが、カヤの周囲には波動が宿り、周りの空気がうねっている。これは覚醒の手掛かりになると踏んだサインはゴズにハイスピードカメラをまわすよう頼み、始めの合図をした。

 その瞬間佐助はとてつもないスピードでカヤに距離をつめる。しかしカヤには佐助が遅く見えていた。まるで、数十秒の長い時を過ごしているのかのようだった。

 『おかしいな。なんでも分かる。佐助さんの一撃、私の頭を狙っている。』

 カヤは直感し、体を左に捻り、佐助の一撃を避けた。しかしそれに気づいた佐助は第二撃を薙ぎ払おうとする。その空気の揺らぎを察知したカヤは一瞬にしてその場から消え、佐助の真上へと出現し、脳天に木刀を当てようとした。

 「おっと!危ない!!」

 佐助は間一髪で木刀の柄でカヤの攻撃を受け止めた。それに気づいたカヤは術を解く。そしてカヤの周りに纏わりついていた波動が消えた。

 「ゴズ、撮れたか…?」

 「撮ったが、録画時間0.5秒もいってない…。佐助の声は聞こえたが本当に戦っていたのか…?」

 サインたちはその一瞬の攻防にただ茫然としていた。はやすぎて全く見えなかったのだ。すると佐助が元の位置まで歩き、「ありがとうございました。」と言った。

 「えっと、その、私今一瞬の出来事が凄く長く感じた気がしたんです。佐助さん、これは一体…。」

 「人は極限状態の時走馬灯が見えます。カヤ様は今本当に私に殺されると感じたのです。この”絶身”という技は、その極限状態を引き出す技。限界を超えた動きを可能とし、周りの動きが遅くみえるのです。それに加えてカヤ様は魔法が使える。この技とカヤ様の緻密な空間魔法技術はマッチしているみたいですね。」

 絶身。それは生身の人間が生み出せる最大級の技だった。しかし次の瞬間佐助がふらつき、足をついた。

 「佐助さん!大丈夫!?」

 サインたちが駆け寄る。すると佐助はカヤの魔法について語りだした。

 「カヤ様の絶身は強力な波動を放っていました。私はそれほどの波動を経験した事がない。カヤ様の間合いに入った瞬間波動により三半規管が耐えられなかったのです。それほど強力な技になるとは思いもしませんでした。」

 息切れを起こしながら喋る佐助。サインたちは佐助を寝室へと運んでいたが、カヤはそれに対し恐怖心を覚えていた。

 ・・・

 その日の夜。三半規管をやられた佐助は目を覚ます事はなく、カヤは心配していた。

 「カヤちゃん。君の空間魔法は凄いけど、やっぱり生身の人間にはきついものなんだね。でもこれも経験。これから毎日技を磨いていこう。このままいけば、10か月後の試練も無事に終わるはず。」

 「カノンさん。私、人を傷つける魔法は嫌だ。佐助さんの言っていた通り絶身は強力な技だったし、1秒にも満たない時間であれほどはやく動けると思わなかった。でも敵であってもあんな倒し方したくないよ…。」

 カヤはすっかり落ち込んでしまった。佐助に身体的ダメージを与えてしまった事。それだけが頭の中にあり、忘れたくても離れなかった。するとカノンはあえて厳しい事を言った。それはイズで起きている事だった。

 「カヤちゃん。イズでは奴隷制度が認められている国だっていう事は知っているよね?なぜ奴隷制度が始まったのかというと、隣にある小国グザがイズを植民地化したから。イズの国民は歴史的に見て体が頑丈な種族なの。それを狙ったグザの最高指導者がイズの全てを奪った。食べ物も町も暮らしも人権も…。そんな悪い事をしたグザの長を前にしてもその技を使いたくないの?」

 「それは…。でも血が飛ぶのは見たくない…。」

 ここまで落ち込んでいるカヤを見た事がなかったカノンは少し悩み、ある提案をする。それはカヤの力を見せつけるだけで誰も倒さないというもの。

 「そんな事が可能なの…?」

 「可能。圧倒的な権威を持っている国を屈する為には、食糧と民を奪う事。いわゆる兵糧攻めってやつ。グザは国土の8割が砂漠で出来た国。カヤちゃんの空間魔法を使えば食糧を簡単に奪えるよ。攻撃に使わず、ものをすくう魔法を覚えよう。本当に命の危機が及んだ時に手刀でトンッよ。」

 カノンは空間魔法の可能性を広げようと鼓舞した。その話を聞いていたカヤは心が救われたのか涙が止まらなくなる。

 「わわっ!ごめん!!泣かせるつもりなかった!」

 「いや嬉しいの。私は打たれ弱いところがあるから、カノンさんみたいに親身に寄り添ってくれる人がいて嬉しい。ありがとう、カノンさん。」

 カノンは少し驚いていたが心を持ち直したカヤに寄り添い、頭を撫でた。
 
 

 
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