願掛けでどうにかなるものならば、とっくに好きだと言われている。

わをん

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日曜、朝。それから、月曜、朝。

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「大人になったら、結婚しようね」

 シロツメクサを編んで作られた仮初の指輪を左手の薬指に嵌められて、まっすぐ見つめられて言われたことは……。

「迎えに来るから、待っててね」

 しかし、彼は迎えに来てくれなかった。







 日曜日の早朝。
 
 午前六時。

 スズメが囀る、住宅街のなだらかなアスファルトの坂道を、ガラガラとやかましくスーツケースを引き摺っていた。

 二年の任期を終えて、今朝、国際線で帰国の途に着いた。

 爽やかな四月の朝の空の下、ふと前方を見遣ったときに、住宅地の中に自然が湧き出したような、鬱蒼とした森が目に入ってきた。

 それなりに大きな神社である。

 赴任前もこの近辺に住んでいて、正月のいつか、一人でふらりと立ち寄ったことがある。

 そうだ。詣でたその年に、彼と再会した。

 石造りの柵を横目に進みながら考えた。つまり、この神社にはそれなりの御利益があるということか? いや、彼と再会しなければ、こんな思いはしなくて済んだ……。

 静かな朝に物思う。

 神頼みか。してもしなくても同じ結果だというのなら、……しようか。一縷の望みを賭けて。

 重たい大型スーツケースは道路に面した石段の下に置いていくことにした。この国は昨日までいた国より余程安全だ……。

 石段を十段ほど上がり、静謐に包まれた神社の石鳥居の前に立ち、ふうと一息。

 どうにかしてものにしたい男がいる。いや、いた。

 石畳の境内を進む。社の屋根の下、今度は木製の階段を上がり、黒塗りの賽銭箱の前に立った。

 手持ちに札しかなったので、仕方がないと、一枚だけ賽銭箱の中に落とし込んだ。

 柏手を打った。すると、自然と心が奮い立った、気がした。手を合わせて、ひたすらに念じた。

 あの男には拒否されたままだ。しかし、どうしてか諦められない。ならば今年こそは、と誓いを立てた。

 階段を下り、通りがかった奉納所に飾られた絵馬の中の一枚から、先手必勝という天啓を得た。よし。

 明日、いの一番に彼に会いに行ってみよう。効果の程を確かめようじゃないか。

 一万円分、働いてもらうぞ!






 自社工場は新居から電車を使って三十分。ビル型の工場はとても広いので、目当ての人を見つけるまで更に一時間を要した。

 本社での上長への帰国報告、社長との面会は午後にセットされていた。その前に、現場視察と称してやってきた。

「え」

 作業中だった彼は、ここに現れるはずのない「僕」を見て、口を半開きにさせていた。

「ご無沙汰しています。 刑部おさかべさん」
「ヒイェ!  神林かんばやし君!何でここに!?」
「急遽、工場長とのミーティングが入りまして。ついでに刑部さんに会いに」
「あ、そ、そうなんだ」
「一年ぶりですね。あれ以来」

 あれ以来の、あれ。
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