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012-① 告白!
しおりを挟む食器棚からカップとソーサーを出した。
湯が沸いた。紅茶の茶葉を入れておいたポットに湯を注ぐ。
それら全て載せたトレーを持って、オズの元に戻る。
アンバーと部屋で話すときにお菓子の家で得た習慣。
「ありがとう」
オズの声はやさしくて癒されるな……。
テーブルに並べ、カップに茶を注ぐ。カップからは湯気が立ってる。
「カイは母親と二人で暮らしてたのか?」
「母さんが父さんと離婚してから、ずっと二人だった」
「そう、なんだ」
「もっとたくさん話したいことがあったのに。俺はもう二度と母さんに会えないかもしれない」
今このとき、俺は本当に生きているんだろうか。
死んで、若しくは永遠に寝ている状態で、今は夢にいるんじゃないだろうか。
動物が服を着て歩いてる、そんな不思議な世界にいたら、一度は考えるだろう。
自分がおかしくなったのかと。
夢の中で、もう戻れない世界の夢を見ながら。
「会いたい。謝りたい……。心配かけてごめんねって。これからはずっと一緒だよって、安心させてあげたい。父親似の気ままな俺が母さんをいつも振り回していた。でも、母さんは笑って許してくれたんだ」
俺はオズを見る。
「オズは……、元の世界に帰りたくないのか」
「私のことはいい。私はこの世界を受け入れている」
俺と同じでオズにだって、会いたい人がいるはずなんだ。急に大事な人と会えなくなった不条理を受け入れるなんて哀しいことだよ……。
カップに口をつけながら、オズは俺を静かな目で見て言った。
「帰りたいと思っているということは……、ウィルと離れられると思っているということか? カイはウィルとの結婚に合意したんだろ?」
「合意というか。強引なんだよ、あいつ。衣食住を世話してもらってる身分で拒否できない。狡いよ。あいつは俺じゃなくてもいいんだよ。代わりが現れたら俺はお役御免で」
「カイはウィルじゃなくてもいい?」
「俺は別に」
「君は気づいてるはずだ。君こそウィルでなければいけない。君はウィルから離れられない」
その綺麗な瞳でジッと見つめられて、恥ずかしくなって目を逸らした。
「……ここでは、そうかも、しれない、けど……」
ウィルになら好き放題なんでも言える。
元の世界で思ったことが言える相手なんて……、母さんだけだった。
わかっている。あいつが近くに居て苛つくのは、今となっては意味が変わってしまった。
「私は子供が産めないかもしれない」
唐突にオズが言った。元・男性とはいえ、女性の見た目でそう口から発せられると重みが全然違う。
「それをわかってくれる相手でないといけなかった。相手を探すのが大変だった」
「オメガってもしかして、子供ができにくい?」
「そんなことないよ」
「男オメガも女オメガも変わらない。王太子の番は来てからまだ日が浅いから……。まだ……。でもみんなで気を遣ってる。カイはそんなこと考えなくていいんだけど。例えば、王陛下の御兄弟はみんな男オメガと番われて、それぞれ三、四人子供がおられる。生まれにくいということはない」
「男……」
三、四人。そんなに? 多いな。
あれ? そのうちの一人がジークか?
「昨日の食事会でも君のフェロモンを警戒して何人かは姿を現さなかった。君は早くウィルと番った方がいい。直系アルファで結婚適齢期なのはウィルだけだが、王族には独身アルファが何人かいるんだ。彼らと接触したときに何が起こるかわからない」
「先生は他に王家に適齢期のアルファいないようなことを……」
「あの人は……、まあいい。当然、他国からも同じ反応を受ける。君は表には出せない。だが、だからこそ、危険だ。契約が済んでいないとなれば……、私ですら、こうして保護してもらわねばならない」
「どうして子供を産むことができないかも、なんてわかるんだ」
思わず声を荒げてしまった。
俺はオズとウィルの関係には踏み込めない。口に出して聞くのは憚られる。
いつの間にか外の爆音は止んでいた。
「これは私の問題だから」
オズが言った。
「ウィルは関係、ない?」
「ない。カイ、ごめん。私たちのことでカイに嫌な思いをさせて……」
認められてしまった……。
「オズは、それでいいのか……」
俺は何とか声を絞り出す。
「何が?」
「何がって」
二人の結びつきを解いてしまったのは、他でもない俺じゃないのか。
王様のことを思い出す。そして、その番である男のことを。
王妃様、美人だったな。王様と時折目を合わせたりなんかして、二人の世界へ入り込んでいた。
番ってこうあるべきなんだな、と思った。互いを唯一無二に思い合う特別な関係を見て、羨ましいと思わないわけがないんだ。
俺は茶を啜る。
喧嘩ばっかりの俺とウィルがいちゃついてるなんて想像できない。
俺にはできないと思うんだ。オズみたいにウィルと対等な関係を築くことが。
じゃあ、俺はどう立ち回るべき?
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