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011-④ 敵襲!
しおりを挟む俺は記憶を引っ張り出している。
お菓子の家に引き篭もっている間に、この国の大まかな歴史について、また直近の問題についてはアンバーに聞いたり、本に目を通したりして、ある程度の概況は知識として頭に入れておいた。
「キフィソスって最近までこの国と戦争していたところ、ですよね」
「そうだ」
ジークがトレーをテーブルに置いて、俺に振り返って言う。
「今は停戦状態にある」
これまでのジークとの距離感を考えたら、目を合わせてくれるだけでも充分有難いと思わなければならない。
「どうしてオズばかりつけ狙うんですか?」
今度は別の国から。オズは気が抜けないな……。俺に何かできることはないだろうか。
「我が国とエギナを接近させたくないことが理由のひとつだ。新興国であったエギナは大国ミケネの援助の下、建国以来、我が国との関係が希薄だった。しかし、エギナ王の弟君の息子、つまり甥がオズの運命の番であるということが判明して以降は政治的・経済面で協力を強化している」
「あ……」
先生が言っていた……。他国との取引材料に使われる、オメガ。
オズ……。一体今、どんな想いでいるのだろう。
「あの、ジークさん」
「何だ」
「どうやってその二人が運命の番だってわかったんですか?」
変な間があった。
「………知らん」
目を逸らされる。
「絶対に知ってますよね? ジークさん自体、アルファですよね?」
「とにかく。今はオズが番の迎えを待っている状態であり、他国に彼女を奪われることなどあってはならない。両国間の関係悪化に繋がる。こちらとしてはネズミどもには訓練をしているつもりで冷静に対処している。君が心配するようなことは何もない。ネズミが一歩でも王都に入れば、こちらも大義名分ができる」
プロレスしてるって言いたいのか。
ジークが珍しく俺に話してくれたところによると。
相変わらずオズは狙われている。
それはやはり、オメガで美人だから。
教会の彫像もニンゲンの女性像だった。アイコンは美しい人間の女性。
ウィルは美人なニンゲンばかり周りにいるくせに、男オメガの物珍しさで俺なんかがいいと曰う。
王太子の番である男オメガに子供ができない? 男なんだから当たり前だろが。俺だって同じだ。
……感じの悪い、王のヨメ。ウィルの母親。本当に獣人を、サベラを産んだのか?
母と子って関係には見えなかったぞ。
ジークって、王家のどんな立場なんだ? もしかして、ウィルやアンバーとは違う目線でこの国について教えてもらえる?
「あの。もう少し話を聞きたいんですけど」
「後でまた来る。その間に食事を摂っておけ」
「あ、はい」
犬人間てのは根本的に偉そうで話ができない?
ジークは出ていってしまった。
ジークに逃げられたので、テーブルに着いて言われた通りに一人で食事を摂っていたところ、再び扉が叩かれた。
ウィルかと思って警戒しながら扉を開けた。しかし、そこにいたのは。
「元気?」
まさかのオズだった。俺はドギマギする。
「元気……。あ、どうぞ、入って」
俺は突然のオズの訪問に唖然としながら、オズを部屋の中に誘う。
オズはしかし、中に入ってこようとしなかった。
「来ると思わなかった」
「どうして。会いに来るに決まってるだろ。昨日はあれから夜まで拘束されてしまってね。今になってしまった」
「うん」
「カイとは話したいことがたくさんあるんだよ」
「俺も……、俺もずっと会いたかったよ」
昨日のドレスと違って、オズは出会ったときのような、ゆったりとした丈の長い服を身に纏っていた。いずれにしても、頭巾の下の顔の美しさは隠せないわけで。
これで、本当に元・男? 男だったらどんな顔をしていたんだろう。やっぱり美人だったんじゃないかと想像する。
「食事中?」
「終わった」
「そう」
攻撃の爆音を遠くに聞きながらのブランチなんて、なかなかあるものじゃないよと思いながらだ。食い止められなくて敵がここに来たらどうしようと、一人で不安だったから、オズが来てくれて正直、嬉しい。
オズは護衛を一人、従えていた。
軍服のような制服を着ているが、近衛兵とは違う雰囲気である。
狐だ……。
ウィルほど大きくはないが、背が高い。白と灰色の毛の表面が光っていた。見目の良い銀色の狐。
ちなみに同じ狐でもアンバーは赤毛だ。
護衛というにはスレンダーな狐の男。
俺を見はしない。
狐はベータであるはずなのに、強い圧を感じる。
「彼は番持ちだ。中に入れても?」
「勿論。どうぞ」
ギンギツネに見惚れていた俺はあたふたと急いで了承した。
ギンギツネからはアルファのような強い匂いがしないから、全く問題なく受け入れられる。
これがベータ。アルファとオメガ以外のその他大勢。
というには、インパクトがあるな……。つい、見てしまう。
ベータであっても強烈で不快な匂いを感じることはある。
この狐からは匂い消しの気遣いを感じる。
鏡の間の前の廊下で感じた凄まじい匂いはアルファの匂いだけではない。
集合したときに『感情』が入り混じって、フェロモンが変化するのかもしれない。フェロモンが変化すれば必然的に匂いも変わる。
わかりたくなかったけど、わかってしまったんだ。
グランバーグに来て、俺の体質が急激に変化させられた感がある。アルファらしいコンラートからだって、お菓子の家ではそこまで感じなかった。アンバーやマルチーズ親子からは勿論だ。
俺の神経は今、かなり過敏になっている。
オズからも感じるようになった。
ウィルは失礼な奴だ。俺が匂うと連呼する。
でもウィルが感じてる匂いがオズみたいな匂いだったらいいと思うんだ。
美味しそうな匂い……。
「ずっと気がかりだった。でも、誰にも君の居場所を教えてもらえなかった」
オズが俺に会いに来る義理なんてない。俺がこの世界にやって来た、あの日の一日しか一緒にいなかったんだから。
「俺の方はそれどころじゃなくて」
「この世界に慣れるだけで精一杯だっただろう。ウィルが心配していた通り、体調も崩れたんじゃないか?」
「……うん」
ウィルは男オメガとしての俺の体が必要なだけだと思うんだ……。
ウィルといると俺は『感情』が振り回されてしまう。
オズは優しい。一緒にいると安心する。
「………」
俺は今、優しいオズを裏切るようなことを考えてしまったかもしれない、
オズは護衛と離れられない。だから、護衛を置いて中に入ってこなかったんだ。
護衛は護衛で気を遣ってくる。オズの後ろから部屋の中に入って来たものの、その扉を閉めてからは扉の前に立ち、一歩も動こうとしなかった。
オズは部屋の構造を知っているようで、迷いなく窓辺のソファに座った。俺も向かいのソファに座ろうとして、やめた。
茶でも出そう。それで、俺はキッチンへ向かう。
そこは、お菓子の家のキッチンとほぼ同じ仕様。
こんなことをしている間も、壁の向こうは丘周辺は騒がしそうだ。
また、地鳴り。
茶なんか淹れてていいのか……。
「今日から早速始まるんだってね、君の教育が。聞いたよ。花嫁修行、頑張ってね」
ヤカンで湯を沸かし始める俺に向かってオズが言う。
「勉強はするけど、別に花嫁修行じゃないよ」
俺は振り向かないで返事する。
「同じことだよ。まあ、君は元々留学する予定だったんだもんな。モチベーションは保てそう? 戻ることは諦めた?」
「諦めてはない。帰れるものなら今直ぐに帰りたい」
「ウィルを置いて? カイがいなくなったらウィルはどうなるかな?」
「ウィルは俺じゃなくたっていいんだよ。男オメガなら何でも。俺の代わりなんて幾らでもいる。でも、元の世界では俺の代わりはいない。俺は……、母さんを一人にしてしまった……」
俺はこの世界で初めて母さんのことを口にした。
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