異世界転移して獣人王子様に見初められた俺がオメガになって世界を救う、かもしれない!?

わをん

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014-① 誓い!

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 まどろみの中、頬に触れる風を感じた。

 窓を開け放したまま、寝ていたらしい。こんなことは初めてだ。
 
 薄目を開けて、朝の眩しさに感じたあとにまた、眠気と気怠さに身を任せ、寝直すことにした。



 昨日は久しぶりに塔から出て、教会に行った。ジークに連れられて。

 朝から晩まで行われたのは、ベッカー枢機卿の部下である鳥人間、ローラ先生監修の下、結婚式のリハーサルのリハーサルである。

 鳥人間先生、鳥人間アシスタント、俺、そしてジーク、の四人でである。

 ウィルの代役はジークだった。ジークは相変わらず俺に近寄りたがらないから、大変やりにくかった。

 鳥人間アシスタントは一人で、王様、枢機卿、客、全ての役をこなしていた。なかなかの役者だった。

 座学では、儀礼の意味を短時間で頭に叩き込まれた。ジークと一緒に。ジークはウィルと違って先生へ的確な質問まで繰り出していた。ジークにつられて、俺もかなり集中できた。

 俺にようやく芽生える、当事者意識。

 ニンゲンでない相手との結婚、しかも相手は男、というか雄、というハードルの高さは容易に越えられるものではないが、もう逃げられない。

 休憩中。

 鳥人間先生が淹れてくれた紅茶を飲みながら、世間話をする。そこにはジークも当然のように加わっていたが、会話には入ってこなかった。一人で講義に使われていた分厚い本を読んでいた。ウィルと違ってなんて真面目な犬なんだ……。

 俺は鳥人間先生に尋ねる。

「先生は結婚してるんですか?」
「いいえ。私は聖職者、私は神のはしためでございますから」

「………(女だったのか)」




 あの日から十日経った。

 海沿いの店で別れてからのウィルの動向は俺には知らされなかった。

 認めざる得ない。ウィルがいないから俺の眠りはずっと浅い。だから、毎日寝入るのが早い。

 でも昨晩はぐっすり眠れた。

 気温が高い国ではない。朝の冷え込みで起きることもある。けれど、今朝はベッドの中が温くて気持ちいい。
 
 いい匂い。ずっとここにいたい……。

 風を感じて、パッと目が覚めた。

 窓なんか開いてない。風だと思っていたのは、生き物の呼吸を額に感じたからだ。

 剛毛に包まれた筋肉の適度な弾力に全身を預けて、俯せで寝ていたことに気づくまで数秒。

 触り心地が良いと感じていたものは、獣の……。

「うわぁぁっ!」
 
 俺は跳ね起きた。焦ってベッドから降りようとしたことから、ゴロンと床に落ちた。

 尻餅をついた状態でベッドを見上げれば、着物が乱れた犬人間が俺を見下ろしている。
 
「ウ、ウィル」
「大丈夫か?」

 ここにいないはずのヤツがいる……。

 ウィルが俺に手を伸ばして、俺をベッドに引き上げようとしてくる。腕を引かれたところで、俺は全く動けない。

「カイ?」

 俺の顔は真っ赤になっていたと思うんだ。

「話しにくいから上がってこい」

 ウィルに強引に体を引き起こされる。

「あ」

 ウィルの着物の前ははだけており、さっきまで俺がしがみついていた胸筋が見える。

 こいつ……。

 何事もなかったかのような涼しい顔をして、ずっと俺を放置していた悪い奴!

 番だとか何だとか言っておいて、くそ……。大体、犬のくせになんなんだ、その色気は! 今、ベッドに上がったら何が起こるか……。

 俺は腕を掴まれた状態で、ウィルから目を逸らす。
 
「ま、また勝手に入ってきたのか! あれだけダメだって言ったのにっ」
「お前の具合が良くないとジークから聞いたから様子を見に来たんだよ。戻ろうとしたが、お前が引っついてきて離れてくれなかった。元気そうじゃないか」

 ウィルが俺を強引に抱き上げてきた。

 抗えない。

 全身を包み込むように強く抱きしめられ、息を止める。

 ウィルの肩越しの大きな窓。
 
 青空だ。

 ずっと曇っていた空が、綺麗に晴れている。これほどまでの晴天は、グランバーグに来てから初めてだ。

 風車の塔を思い出した。あの日の朝、ウィルと見た光景。あのときの空の色に似ている。

 空が広い。

 鳥のサベラ。彼らが天使のように背負う翼は……、どんなときに開くのだろうか。

 空を飛べるのだろうか。

 俺はウィルをギュッと抱き返して、その首元に顔を埋めた。ウィルの背中は広過ぎて、俺の腕では覆えない。

「……帰ってくるのが遅いんだよ」

 もし今の立場を失ったら、俺はこの世界でどう生きていくのか。

 ずっと考えてる。

 俺の体質変化の弊害は、ウィル以外のサベラの匂いに過敏に反応するようになってしまったせいで、俺に関わるサベラがみんな、俺に気を遣ってくるようになったことだ。

 教授陣には消臭剤的な香水をつけて匂い消しをしてもらわないと、俺は大切な講義すら受けられない。

 生きにくい。

 最近は引きこもりが加速してきた。

 こうなることを、誰か事前に教えてくれれば良かったのに……。

 と思ったが、俺が過敏過ぎるということでもあるらしい。

 俺はウィルがいない間に、例の電話機を使って、ミシェル先生に連絡を取り、聞いたのだ。

 唯一の解決法を。

「交わる。体の芯まで交感する」

 ヤれ。それしかない。

「言い方……」

 俺は軽く絶望する。先生は相変わらずだった。

「そうすれば、君の中にサベラに対する耐性ができる」

 他に方法はないのか? ないわけないだろ? と俺は突っ込んだわけなんだけど。

 ……こうしてウィルに抱きしめられていると、何もかもがどうでもよくなってくる。

 温かくて安心する。

 俺って天邪鬼……。

 ついでの一言で、ミシェル先生は俺を軽くドン底に突き落としてきたのだけれど、そのことも忘れられる。

「会いたかった」

 ウィルが言う。俺を抱き留める力が強くなる。

 俺もだよ……。当たり前じゃないか。

「あっ、そうだ! オズは? オズはどうした!?」

 俺はパッとウィルから体を離すと、ウィルの両肩を掴んでその体を揺さぶる。

 ウィルの体幹を前にしたら、揺らしてる俺が揺れているように見えてるかもだけど。

 ウィルはいつもの、「ふ」という人を小馬鹿にしたような笑い方をして俺を見下ろす。俺はムッとする。いつもの俺たち。

 それから、ウィルは俺の頭を確かめるように撫でて、言う。

「どこにいるかは教えられないが、オズは無事だ。安心しろ。エギナは抗戦して敵軍を海上で排除した」
「………」

 今日までに何度もジークに確認したが、その都度、曖昧に返されていた。

 オズ……。良かった。無事だったんだ。

「良かった……。オズに会いたい。話したいことがたくさんあるんだ」
「……お前は本当にオズが好きだな」

 ウィルの声のトーンが変わった。

「会わせることはできない。お前でも。許せ」

 そこにあるのは、部外者の俺が触れられもしない境界線。


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