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016-① 標的!?
しおりを挟む馬車はかなり揺れるし、車輪の音は直接的に体に響く。
道中、俺たち四人の間に会話はなかった。
俺の前に座るウィルは腕を組み、終始難しい顔をしてカーテンの隙間から外を見つめていた。
声をかけにくい雰囲気のウィルに怯えた猫二人は背筋を伸ばしてやたら良い姿勢で座ってる。緊迫した車内だ。
ウィルは時々こういう顔をする……。これから結婚式だっていうのに、なんでそんなに厳しい顔してんの……?
「カイ」
ウィルは俺を見ずに言った。
「全て終わったら、話したいことがある」
「え? あ、うん。わかった」
全てって何だ? 大事な式の前にそういうこと言うとか、ビビらせてくるよな、こいつ。よくないぞ、そういうの!
念を飛ばしていたら、ウィルが俺の方に顔を向けた。
「その服、いいな」
「………」
俺は現地で婚礼衣装に着替えることになっている。今の服はジーンからの指示で着ているものだ。確かにいつもより上等。
ああ、もう。ウィルに服を褒められて嬉しくなってしまうとか、俺!
「……あとで着替えるけど」
「知ってる」
ウィルは俺の気持ちを見透かしてきたように、ニッと笑う。笑うな。もう。
馬車が街に入った。沿道から声援が聞こえた。
馬車のカーテンは見てのとおり閉まっているのだから、中に誰がいるかわからないはずだ。なのに、紋章入りのこの馬車に反応してだ。長々しい隊列のようだし、見ろと言わんばかりだしな。
「「結婚パレードは別の日なのに。盛り上がってますね」」
猫二人が声を揃えるように言った。
「ええ? パレードもあるんだ」
「「楽しみですね」」
「いやあ……」
パレードなんてしなくていいよ。
外の人はみんな、今日が何の日か知っている、ということだ。
異世界から来た人間の男と犬の王子様の結婚式なんてカオスだろ。
みんな、ちゃんとわかってんのかな?
王子様の相手、俺なんだけど。俺で大丈夫?
カーテンが開かれた。ウィルが顎で指示して猫が紐を引っ張って操作してる。
街を出た。
丘を駆け上がったあとは馬車の揺れが少なくなった。今は両側畑の直線の並木道をかなりの速度で走ってる。
前方がよく見えるようになった。人気のない農地が広がっている。空が広い。
灰色の雲が落ちてきそうなほどに重そうだ。嵐が来る?
車体の外の椅子にジークが御者と一緒に座ってる。
後ろを振り返ってみれば、グランバーグから出たときよりも隊列が伸びてるような気がした。
やけに物々しい。
王子様が俺の向かい、進行方向に背を向けて座っているのも……、おかしくないか?
結婚式に向かう馬車の背後を気にするような……。
何かあったんだろうか。
どうしてウィルはさっきから、俺じゃなくて外ばっかり見てるんだ。
猫も黙っている。ウィルが少しアルファの攻撃フェロモンを出してる。猫はおそらく自分自身に結界を張ってる。
車内の雰囲気は最悪だ。
今日って俺たちの結婚式じゃないのか?
どうなってんだ?
大きな石造りの門を二つ潜って、ようやく見えてきた。
芝生と植え込み、中央の大きな噴水。整然とデザインされた庭園の、奥。
目的地である宮殿に着いた。庭園を囲うように建てられている。外壁に使われている石材はグランバーグと同じ色をしている。
その壁面の彫刻はかなり細かい。堅牢に見えるだけのグランバーグより装飾は多いものの、宮殿というより、高さもあって物見櫓もあるから城に見える。これはもう郊外の要衝だ。
ここはプラドシュロスと呼ばれる。
前国王の住まいだったそうだ。
建物の正面入り口前に馬車が緩やかに止まる。
揃いの制服を着た衛兵がズラッと並んでいる。
「近衛隊」
見知った顔がある。森のお菓子の家でマルチーズ兄弟と戯れていた犬人間がいる。
馬車から地上に降りた俺の体はまだ揺れていた。そのまま近衛隊の先導で宮殿内へ。
「大丈夫か」
今日はウィルがやたらと心配してくる。元々過干渉なところはあったが。
「大丈夫だよ。何で?」
「そうか」
ウィルの思案げな顔を見て、こっちまで不安になる。俺がウィルに大丈夫かどうか聞きたいくらいだ。
「ジークから離れるなよ」
「え? ウィルは? 一緒に行くんじゃないのか? どこにいくんだ?」
「……また、式でな」
宮殿内の吹き抜けの下で立ち止まる。ウィルを見上げて、俺は何とも言えない気分になった。
今日のウィルは……、変だ。変じゃないのが変だ。俺にスリスリもペロペロもしてこない……。
して欲しいのか、俺。
ウィルが宮殿の内廊下へ吸い込まれていくのを見送った。近衛隊がその後に続いて行く。ウィルが見えなくなる。
行ってしまった。
トントンと俺の肩が叩かれる。猫だ。
「行きましょうか」
俺と猫とジークを先導してくれるのはニンゲンの衛兵二人だ。宮殿の吹き抜けを奥へと進む。
ニンゲンとは言え、アメフト選手のような体格で、ジークに引けを取らない。筋骨隆々というやつだ。ヒョロヒョロの俺なんか指一本で弾き飛ばされそう。
太い柱が支える吹き抜けは風が流れている。多くいるであろうサベラの匂いが気にならない。両開きの扉を開けると、その向こうには。
「おお、すごい」
現れたのはドーム屋根の巨大な建造物だ。
「カイはここに初めて来たのか」とジーク。
「はい」
グランバーグとは空間の使い方が違う。
「あのシュロスドームで式を上げます。聞いているとは思いますが、あれは国で最も重要な聖堂です。外観はちょっと変わってますが、内部は至って普通です。晩餐会は宮殿で行われます」とは猫の説明。
砂利が敷き詰られた広場の間を砂地の幅広の道が真っ直ぐ伸びていた。
てくてくと五人で歩いて入り口に到着。見上げるほどの大きな扉を開けて、聖堂の中に入る。
太い石柱に支えられた天井も石で組まれている。この地には地震がないからな。
大した見学もせずに控室に向かった。控室は聖堂の入口横の通路の奥にあった。延々と歩いた先の短い階段を登る。
中から扉が開けられた。
「あ」
見知った顔に安心した。
「おはようございます!」
いつもより化粧が濃いジーンがいた。
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