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021-① 真剣勝負!
しおりを挟む揺れる馬上で時計を見る。日はとうに変わっている。
エーファは迷いなく草原の間の砂道を駆け抜けていく。
何時間も連続して走ってきた。エーファの速度は全く衰えない。この馬の脚力は今がピークなのか、それとも……。
俺は騎馬に慣れ、以前ほど尻が痛くならない。痛いと言えば痛いし、集中力を保っていないといけない。
エーファの神がかった走りに鼓舞される。
またひとつ小高い丘を上がりきったところで、小さな街が見えた。
「……何だ、あれ」
おかしい。夜なのに街が異様に明るい。赤く染まって、まるで燃えているのかのようだ。
エーファは街に向かって、なだらかな斜面を下っていく。
「ここにウィルがいるのか?」
エーファは答えてくれない。
辿り着いた街は廃墟のようだった。
人為的な篝火がそぐわない……。
井桁型に組まれた焚き火台は何もかもを燃やしてしまいそうなほどに大きい。規則的に配置され、立ち上る炎と辺りを浮遊する火の粉が、何とも言えない不気味な雰囲気を醸し出していた。
立ち並ぶ煉瓦の家々はどこも全壊している。
「嫌な匂いがするな」
ひとりごちたが、反応するようにエーファが唸る。
この不穏な雰囲気に呑まれることなく、街の入り口から等間隔に並ぶ篝火の間を堂々と進むエーファが心強い。
破壊された痕跡のあとが苔むしている。ここはもう、人が住む場所じゃない。
そこかしこにある石板の文字を見て、ゾッとした。見たことのない文字だ。
俺たちは国境を越えた? それとも、これは過去の遺跡?
エーファが速度を落とした。
前方に巨大なドーム天井を持つ建物が見えた。シュロスドームに似ている。宗教施設か。
街に入ってからここまで来るのにだいぶ時間がかかった。この街の面積はかなり広いようだ。かつては相当栄えていたに違いない。
聖堂はこれまで俺が人生で見てきた中で最も大きい部類だ。ファサードの両開きの扉は上の方を仰ぎ見るほどの大きさ。
半壊しているが、建物の大きさゆえに外観が遺っている。
近づくと、中で音がした。誰かいる。
ここに見張りはいないのだろうか。隠れている? 俺からは見えない。
俺はエーファから降りた。降りるのも今は余裕。
「ここで待ってて。中の様子を見てくる」
エーファがいつもよりもか細い声で鳴いた。
俺がエーファから離れようとした、正にそのとき。
「待て」
ヴァルラの言葉で振り向くとそこにいたのは。
「え?」
グリズリー先生? いや、違う……。メガネをかけてないし、少し若い。立ち姿が斜に構えている。左目の傷とそのガラの悪さから確実に別人だとわかる。
「こんなところで何をしている」
物陰から続々と現れてきたのは、重量級のサベラ。クマにライオン……。
げっ!?
おじさんたち……、そのセリフ! そっくりそのまま返すから!
「ヴァンダラーだ。こんな辺鄙なところに現れたのか」
「面白い。オメガだ」
「オメガだぞ。しかも、匂いが違うぞ」
「これは王家の……」
十人ほどの重量級サベラたちの低い声でのヒソヒソ話が聞こえる。
「売るか」
「売れるな」
あれ? これってヤバくないか?
そういえば、俺って奴は無力のくせして、何にも武器を持ってない。武道の心得は子供のときに三年くらい合気道教室に通って満足して、それからは水泳教室に……。それからは、書道を少し——。
俺はもうパニック寸前だ。
どうせあの飛行機事故で死ぬつもりだった。少しだけ長く生きられたと思えば……。
ふっざけんな! ここまで来て! 諦めきれるか!
「エーファ、逃げろっ! 俺は……、絶対にウィルを連れ帰るから!」
馬は足だ。当然のように一番に狙われて殺される。
俺はエーファの胴を叩く。エーファは前足を上げ、元来た道に向かって反転した。
近づいてきた牛のサベラを足蹴にして、エーファは華麗なるスタートダッシュだ。
俺は逆方向に走る。円形のドームを回り込もうとして、追手が来てないことに気づいて振り返ると、奴らはエーファに向かって矢を放っていた。
何してんだ、あいつら!!
「やめろっ! 狙うなら俺にしろ!」
エーファはたぶん避け切るだろう。ウィルの馬だぞ。俺なんかより戦い慣れしてる。それでも腹が立つ。
「お前らが捕まえたいのは俺だろうが!」
そう叫ぶ俺もきっちり別部隊から狙われていた。あっという間にドームの石壁に追い詰められてしまう。
そりゃそうだ!
「ちっ……!」
手を後方に伸ばすとちょうど木の棒があった。それを掴んで振り回し、牽制する。
サベラの手が数本同時に伸びてきたとき!
サベラの背後で、建物の2階分くらいあるドームの扉の片側が内側から倒れた!
地響きとともに砂埃を撒き散らして木製扉が砕け散る。
サベラどももざわつく。
何だ!? ドームの中で一体何が起こってるんだ!?
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