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021-③ 真剣勝負!
しおりを挟むアンバーが服の裾を捲り、足に巻いていたベルトに装着されていた短刀を俺に差し出してきた。
鞘に描かれているのは高級ブランドの紋章にも見えるが——、
「これ……」
丸に鳥。たぶん、カラスの図柄だ。
家紋、ていうんじゃないのか、これは。
洗練された美しさに畏敬を抱かせるような漆塗りの短刀。
俺は理解不能に陥る。これは日本の刀——。
「持ってって。御守りにして」
「いや。俺は」
「カイ、後ろ!」
アンバーに叫ばれて振り返ると、一人の男が俺たちに近寄ってきていた。
頭巾は外しているが、ネズミと言われていたものたちと同じ戦闘服を着ている。
頭巾を外したところを初めて見た。茶色のフワフワの髪、彫りが深くて青い目をした精悍な顔立ちをしたニンゲンだ。
ネズミと呼ばれていたものは、ニンゲン?
この世界で生を受けて、獣人とともに共存してきた、苦痛と苦難に満ちた表情。
何をか俺に語りかけて、腰を屈めて手を伸ばしてくる。
その苦しそうな微笑に、俺は何とも言えない気持ちになった。
応えられないでいたら。
その男の頭が。
一瞬で吹っ飛んだ。
「!?」
頭を失った胴体が、首の切り口から血を噴きながら俯せに倒れる!
「うわっ……」
ホラーだ!
その後ろから並々ならぬオーラを感じて、目を凝らして見れば——。
「ウィル……?」
石壁が何枚も並ぶ部屋の奥に影が見えた。遠い。でも、いる。気配でわかる。
俺はその場から立ち上がる。いつになく体が重い。アンバーから渡された刀を受け取って腰紐に差す。
「カイ、ごめん……」
「何でアンバーが謝るんだよ」
ネズミたちはもう起き上がれそうにない。アンバーも動けない。
「ちょっと行ってくる。すぐ戻るから」
ウィルが力を使っている。
「ウィルを止めてくるから。待ってて」
俺は足元に転がっているニンゲンの頭を見やる。
その目は見開かれ、首を切られた瞬間に口もぽっかりと開いた。今は横に伏せって俺の方を見ている。唇の端から血が垂れている……。
行くな、と言ってる。
ウィルの姿はまだ真っ黒い影だ。俺は駆け寄りたいのを堪えてゆっくりと足を踏み出した。
足元には数えきれないほどの鉄製の矢が落ちていた。
さっきの男もこれで射止められたのだろうか。
ニンゲンの頭って矢で吹き飛ばせるのか……?
石壁を幾度となく通り抜ける。
冷たい空間に戦闘の爪痕が残っている。
そのうちに、更に足元が悪くなってきた。破かれたタペストリーや紋章の描かれた旗、壊れて無惨に捨て置かれた椅子のせいで歩きにくくなってきた。
ゴミ捨て場?
石壁が穴だらけだ。石壁が分厚くなければ支えを失って、今頃このドームは崩れ落ちていることだろう……。
「………」
反対方向からウィルが少しずつ近づいてくる。逆光のままで。
壁に点灯した明かりはか細い。気まぐれに消えたり点いたりする。
ウィルはちゃんと俺の存在に気づいているのだろうか? いつものあいつなら尻尾を振って走り寄って来るはず……。
一際大きな部屋があるのを前方に認めたとき、その部屋の反対側からウィルが入ってきた。
そして、俺は部屋に入る一歩手前で動けなくなった。
「ウィル……」
あんなに会いたかった相手なのに、感動的な再会とはならなかった。
ウィルが手に持っていた何かを無造作に横へ放り投げた。
我らが王子様、ウィルの目は真っ赤だ。血走っているのではない。黒目も白目も赤い。だから、どこを見ているのか視線を追うことができない。
首を左右にゆっくり回してあたりを警戒しながら、前傾姿勢で両手を前にだらりと下げた状態で、一歩一歩ゆっくり前に出てくるさまは、もはや正気とは思えない。
これは……、マズイんじゃないか?
ケモノ化してるウィルから目を逸らす行為は危険だと感じつつ、ウィルがさっき何かを投げた方向を見て俺はギョッとした。
折り重なって倒れているネズミたち。これは全て屍体か? つまり、ニンゲンの……。
ウィルはネズミが俺を助けに来たと言っていた。
そうか。傍から見たら俺は、獣人の世界に閉じ込められて、嫁にされようとしている哀れな「人間」なんだ。
こうなってくるとまた色々と気になることが出てくるぞ。ウィルのプレッシャーにも負けなかった、俺の目の前で殺された男は一体、誰……。
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