異世界転移して獣人王子様に見初められた俺がオメガになって世界を救う、かもしれない!?

わをん

文字の大きさ
79 / 95

021-③ 真剣勝負!

しおりを挟む


 アンバーが服の裾を捲り、足に巻いていたベルトに装着されていた短刀を俺に差し出してきた。

 鞘に描かれているのは高級ブランドの紋章にも見えるが——、

「これ……」

 丸に鳥。たぶん、カラスの図柄だ。

 家紋、ていうんじゃないのか、これは。

 洗練された美しさに畏敬を抱かせるような漆塗りの短刀。

 俺は理解不能に陥る。これは日本の刀——。

「持ってって。御守りにして」
「いや。俺は」
「カイ、後ろ!」

 アンバーに叫ばれて振り返ると、一人の男が俺たちに近寄ってきていた。

 頭巾は外しているが、ネズミと言われていたものたちと同じ戦闘服を着ている。

 頭巾を外したところを初めて見た。茶色のフワフワの髪、彫りが深くて青い目をした精悍な顔立ちをしたニンゲンだ。

 ネズミと呼ばれていたものは、ニンゲン?

 この世界で生を受けて、獣人とともに共存してきた、苦痛と苦難に満ちた表情。

 何をか俺に語りかけて、腰を屈めて手を伸ばしてくる。
 
 その苦しそうな微笑に、俺は何とも言えない気持ちになった。
 
 応えられないでいたら。

 その男の頭が。

 一瞬で吹っ飛んだ。

「!?」

 頭を失った胴体が、首の切り口から血を噴きながら俯せに倒れる!

「うわっ……」

 ホラーだ!

 その後ろから並々ならぬオーラを感じて、目を凝らして見れば——。

「ウィル……?」

 石壁が何枚も並ぶ部屋の奥に影が見えた。遠い。でも、いる。気配でわかる。

 俺はその場から立ち上がる。いつになく体が重い。アンバーから渡された刀を受け取って腰紐に差す。

「カイ、ごめん……」
「何でアンバーが謝るんだよ」

 ネズミたちはもう起き上がれそうにない。アンバーも動けない。

「ちょっと行ってくる。すぐ戻るから」

 ウィルが力を使っている。

「ウィルを止めてくるから。待ってて」
 
 俺は足元に転がっているニンゲンの頭を見やる。

 その目は見開かれ、首を切られた瞬間に口もぽっかりと開いた。今は横に伏せって俺の方を見ている。唇の端から血が垂れている……。

 行くな、と言ってる。

 ウィルの姿はまだ真っ黒い影だ。俺は駆け寄りたいのを堪えてゆっくりと足を踏み出した。

 足元には数えきれないほどの鉄製の矢が落ちていた。

 さっきの男もこれで射止められたのだろうか。

 ニンゲンの頭って矢で吹き飛ばせるのか……?
 
 石壁を幾度となく通り抜ける。

 冷たい空間に戦闘の爪痕が残っている。

 そのうちに、更に足元が悪くなってきた。破かれたタペストリーや紋章の描かれた旗、壊れて無惨に捨て置かれた椅子のせいで歩きにくくなってきた。

 ゴミ捨て場?

 石壁が穴だらけだ。石壁が分厚くなければ支えを失って、今頃このドームは崩れ落ちていることだろう……。

「………」

 反対方向からウィルが少しずつ近づいてくる。逆光のままで。

 壁に点灯した明かりはか細い。気まぐれに消えたり点いたりする。

 ウィルはちゃんと俺の存在に気づいているのだろうか? いつものあいつなら尻尾を振って走り寄って来るはず……。

 一際大きな部屋があるのを前方に認めたとき、その部屋の反対側からウィルが入ってきた。

 そして、俺は部屋に入る一歩手前で動けなくなった。

「ウィル……」

 あんなに会いたかった相手なのに、感動的な再会とはならなかった。

 ウィルが手に持っていた何かを無造作に横へ放り投げた。

 我らが王子様、ウィルの目は真っ赤だ。血走っているのではない。黒目も白目も赤い。だから、どこを見ているのか視線を追うことができない。

 首を左右にゆっくり回してあたりを警戒しながら、前傾姿勢で両手を前にだらりと下げた状態で、一歩一歩ゆっくり前に出てくるさまは、もはや正気とは思えない。

 これは……、マズイんじゃないか?

 ケモノ化してるウィルから目を逸らす行為は危険だと感じつつ、ウィルがさっき何かを投げた方向を見て俺はギョッとした。

 折り重なって倒れているネズミたち。これは全て屍体か? つまり、ニンゲンの……。

 ウィルはネズミが俺を助けに来たと言っていた。

 そうか。傍から見たら俺は、獣人の世界に閉じ込められて、嫁にされようとしている哀れな「人間」なんだ。

 こうなってくるとまた色々と気になることが出てくるぞ。ウィルのプレッシャーにも負けなかった、俺の目の前で殺された男は一体、誰……。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

転生したら猫獣人になってました

おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。 でも…今は猫の赤ちゃんになってる。 この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。 それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。 それに、バース性なるものが存在するという。 第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。 

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

処理中です...