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022-① 願い!
しおりを挟むウィルが拳を突き出してきたのを間一髪で避けた。頬に鋭い痛みが走る。
「カイ! やめろ! 無理だ、引け! 私が代わる!」
ジークの声にウィルが反応した。そうだ、ウィルは強い奴と遊びたいんだった。
俺が弱いって言いたいのか。弱い俺はつまらないと。
お前が言ったんだろう、俺がいいって!
「俺以外、見るな!!!」
ジークの方を向いたウィルに一瞬の隙ができた。
今だ!
俺は地面を蹴り上げ、ウィルに飛び掛かる。
ウィルが俺の頭を鷲掴みにするのとほぼ同時だった。
「……っ」
こいつは犬! 俺はウィルの口に俺の腕を噛ませた。
厚手の生地を貫いて、肉に食い込むその犬歯。
痛い。
でも、俺はもう逃げない。
俺はウィルの右手に頭を握り潰さんばかりに持ち上げられていたが、急にその手の力が弱まったので、落ちてウィルの頭に覆い被さった。
「こンの……っ」
全身でウィルにしがみつき、その視界を塞ぎ、真っ黒な頭を押さえ込む!
「……捕まえた!」
ガムみたいにへばりついた俺をウィルが引き剥がそうとしているのがわかった。
力では負けるが、根性なら負けないぞ。
ああ、でも。
聞いていたとおりだ。
ウィルの力が弱くなっていく。俺を引き剥がせないでいる。
その間もウィルは俺の腕を噛み続けている。噛む力だけは変わらない。更に食い込んでくる。骨まで喰われそうだ。
「……ウィル。目を覚ませ」
俺は腕の痛みよりも、ウィルに忘れられていることの方が哀しい。
伝えたい。俺は俺の言葉をお前に伝えに来たんだ。
「俺の血が欲しければ、いくらでもくれてやる」
腕を噛ませたまま、額をくっつける。熱い。ウィルはどうやら発熱しているようだ。
「俺はお前なんて怖くない。……俺だよ。ノゾムだよ。思い出して。……俺、お前に会いに来たんだよ。何で俺を助けに来てくれなかったんだって、一言、お前に文句言ってやろうと思って、エーファと一緒にここまで来たんだよ。大変だったんだぞ。目、真っ赤にしてこんなところで何してんだよ。勝手にバケモノになんか変身してんなよ。俺のこと忘れちゃったのか? 薄情な奴だな。あんなにたくさん俺のことが好きだって言ったのも全部忘れたのか。……俺を守ってくれるって言っただろ、俺を誰にも渡さないって言っただろ。そんなこと言う奴、どこの世界を探してもお前くらいなんだからな。役に立たない指輪だけつけさせて、お前一人で何してんだよ。お前は王子様なんだろ。最後までちゃんとカッコよく決めろよ、俺にここまでさせた責任取れよ……」
俺はウィルの頭を片腕で抱きしめる。今はウィルの頭の上に乗っかっているような状態だ。
自分の体の一部を目の前のケモノの餌にして。
もう右腕はダメかもしれないな。
思い出すのは、歴史の授業のブレイクタイム。
教科書を閉じて、グリズリー先生が話してくれた。
——王室に、黒い毛並みのサベラのアルファが立て続けに生まれた件について。
嫡男である王太子は体が弱かった。強大な王たる器を受け継いだのは、次にこの世に生を受けたウィルだった。
王の器。それは人を屈服させる力。
慣例どおりではないが、弟を次期国王としては——?
政争の種となって、畏怖され忌み嫌われるようになったウィルを、母親である現王妃は庇い続けた。
それで、異様なほどの過保護になった。
だから、ウィルは現王妃が嫌いで(どうやら他にも理由はあるようだが)、十二歳で成人してからのウィルはグランバーグを何かと理由をつけて留守にしがち。
ちなみに、現王妃はその後にいたっても、双子の黒い毛並みのアルファを産んだ。
え!? また産んだ! この一連の出来事によって、現王妃に逆らえるサベラは一人もいなくなった。
子どもたちの中でもウィルは特別だ。双子とも違い、有り余る力を受け継いでしまった。
王太子である兄と同じ黒い毛並みを持ち、似たような顔と体つきなら、グランバーグでは目立つ。自らは体を張った仕事で外に出るようになった。
体の弱い兄の代わりに。
兄思いで、やさしくて強いアルファ。というのが、不器用なウィルを生暖かい目で見る一部の大人たちの評価。
一方で、何にでも口を突っ込む王家の問題児に、毎日のように頭を抱える部署もある。
本人も問題児らしく振る舞う。
——俺は地位や名誉に興味がない。だが、国を傾けるわけにいかない。お前が俺の子供を産むまでは解放しないつもりだ。
悪ぶっていても、真面目……。
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