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第一部
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レオ・アルフォード侯爵令息は、まるで絵画から抜け出てきたように美しい少年だった。
その場にいるだけで、周囲の目を惹きつけずにはいられないほどに。
透き通るような銀髪は冬の月光を溶かしたようで、長い睫毛がかかるアイスブルーの瞳は、まるで精巧な細工を施した宝石のよう。
細くしなやかな四肢は「触れたら折れてしまうのでは」と周囲に過度な緊張を強いる。
だが、その内面は、前世で馬車馬のように働かされた末に過労死した日本人男性であった。
(……あー。今日もいい天気だな……)
レオは今、侯爵家の庭園にある最高級の長椅子に身を預け、ぼんやりと心地の良い風を感じていた。
目を閉じれば、脳裏をよぎる前世の地獄。
鳴り止まない電話。
修正に次ぐ修正。
午前3時のオフィスで、震える手で流し込んだエナジードリンク。
頭にこだまする「代わりはいくらでもいるんだぞ」という上司の罵声と、意識が遠のく中で見た、最後に保存できなかったエクセルシート――。
転生した瞬間にレオが決意したことはただ一つ。
「今世は、絶対に頑張らない」である。
幸いにも侯爵家の次男。
家督を継ぐ必要もなく、実家の財力は底なし。
「レオ、またそんなところで日向ぼっこかい? 風邪を引くよ」
頭上から降ってきたのは、耳に心地よく響くバリトンボイス。
東屋で、溶けたスライムのように長椅子に張り付いていたレオの視界が、不意に遮られた。
現れたのは、ウィルソン公爵家長男で兄の親友、ノアだ。
彼はレオより五つ年上で、騎士団の期待の星でもある、文武両道の超ハイスペック男である。
ちなみに、彼は若くして爵位を継いでいるため既に公爵の地位にあり、地位名誉全てを兼ね備えている。
そして、幼い頃からレオを「第二の兄」として……いや、もはやそれ以上の熱量で世話を焼いているのだった。
「……ノア兄様。ご機嫌よう……。いま、光合成でエネルギーを生み出しているんです……」
「植物じゃないんだから。ほら、そろそろおやつの時間だよ。君の好きな、たっぷり蜂蜜を入れた特製パンケーキを焼かせたんだ」
「パンケーキ」という単語に、レオの胃袋がわずかに反応した。
ノアは慣れた手つきでレオの腰に腕を回し、まるでお気に入りのぬいぐるみを扱うように軽々と抱き上げる。
(……いつも思うけど、これ楽すぎる……)
厚い胸板から感じる体温と思わず眠ってしまいそうな適度な揺れ。
満員電車で揉みくちゃにされていた日々は思い出したくもない。
レオの足は地面に着くことなく、そのままノアの腕で屋敷内へと運ばれていく。
レオの体重は、あまりの食の細さ(というか咀嚼が面倒でたまに食事を抜くせい)で、同年代の男子とは思えないほど軽い。
ノアはその軽さに密かに眉をひそめつつ、腕の中の「宝物」が逃げ出さないよう、絶妙な力加減で抱きしめた。
その場にいるだけで、周囲の目を惹きつけずにはいられないほどに。
透き通るような銀髪は冬の月光を溶かしたようで、長い睫毛がかかるアイスブルーの瞳は、まるで精巧な細工を施した宝石のよう。
細くしなやかな四肢は「触れたら折れてしまうのでは」と周囲に過度な緊張を強いる。
だが、その内面は、前世で馬車馬のように働かされた末に過労死した日本人男性であった。
(……あー。今日もいい天気だな……)
レオは今、侯爵家の庭園にある最高級の長椅子に身を預け、ぼんやりと心地の良い風を感じていた。
目を閉じれば、脳裏をよぎる前世の地獄。
鳴り止まない電話。
修正に次ぐ修正。
午前3時のオフィスで、震える手で流し込んだエナジードリンク。
頭にこだまする「代わりはいくらでもいるんだぞ」という上司の罵声と、意識が遠のく中で見た、最後に保存できなかったエクセルシート――。
転生した瞬間にレオが決意したことはただ一つ。
「今世は、絶対に頑張らない」である。
幸いにも侯爵家の次男。
家督を継ぐ必要もなく、実家の財力は底なし。
「レオ、またそんなところで日向ぼっこかい? 風邪を引くよ」
頭上から降ってきたのは、耳に心地よく響くバリトンボイス。
東屋で、溶けたスライムのように長椅子に張り付いていたレオの視界が、不意に遮られた。
現れたのは、ウィルソン公爵家長男で兄の親友、ノアだ。
彼はレオより五つ年上で、騎士団の期待の星でもある、文武両道の超ハイスペック男である。
ちなみに、彼は若くして爵位を継いでいるため既に公爵の地位にあり、地位名誉全てを兼ね備えている。
そして、幼い頃からレオを「第二の兄」として……いや、もはやそれ以上の熱量で世話を焼いているのだった。
「……ノア兄様。ご機嫌よう……。いま、光合成でエネルギーを生み出しているんです……」
「植物じゃないんだから。ほら、そろそろおやつの時間だよ。君の好きな、たっぷり蜂蜜を入れた特製パンケーキを焼かせたんだ」
「パンケーキ」という単語に、レオの胃袋がわずかに反応した。
ノアは慣れた手つきでレオの腰に腕を回し、まるでお気に入りのぬいぐるみを扱うように軽々と抱き上げる。
(……いつも思うけど、これ楽すぎる……)
厚い胸板から感じる体温と思わず眠ってしまいそうな適度な揺れ。
満員電車で揉みくちゃにされていた日々は思い出したくもない。
レオの足は地面に着くことなく、そのままノアの腕で屋敷内へと運ばれていく。
レオの体重は、あまりの食の細さ(というか咀嚼が面倒でたまに食事を抜くせい)で、同年代の男子とは思えないほど軽い。
ノアはその軽さに密かに眉をひそめつつ、腕の中の「宝物」が逃げ出さないよう、絶妙な力加減で抱きしめた。
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