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拉致を企てた隣国のスパイと、その裏で動いていた腐敗貴族たちは、ノアによって文字通り「根絶やし」にされた。
それは、普段は冷静沈着な彼が、最愛の者を傷つけようとした者たちに下した、容赦のない断罪であった。
騎士団の同僚たちが震え上がるほどの冷徹な処断だったが、それはノアにとってレオとの平穏を邪魔する雑音を消したに過ぎない。
ちなみに、当のレオは、その報を「ふーん、ノア兄様はお仕事が早くて助かるな」と、他人事のように聞き流していた。
それからレオは、正式にノアの婚約者となった。
男性同士の結婚は稀な事例ではあったが、ノアは圧倒的な権力と「レオがいかに繊細で保護が必要か」という情熱的なプレゼンによって、周囲を納得(あるいは屈服)させてしまったのである。
相変わらず、レオの一日の大半は、最高級のシルクに包まれてだらりと寝て過ごすこと。
移動の際は、足が地面に着くことすら稀で、ほとんどがノアによる「抱っこ」だ。
社交界では「公爵閣下が、あまりに儚い婚約者を、片時も離さず慈しみ守っている」という、嘘か誠かわからない噂が囁かれていた。
「レオ、今日は王都で一番の職人を呼び寄せて苺のタルトを作らせたよ」
「あーん」
ノアの溺愛は加速し、レオの怠惰も加速する。
レオの白く細い指先を、ノアはまるで壊れ物を扱うように丁寧にマッサージし、指先まで温める。
前世で、キーボードを叩きすぎて腱鞘炎になりかけていたあの指。
誰にも労わられることなく、ただ摩耗していくだけだったレオの心と体は、今、ノアという存在によって一滴ずつ、極上の甘い蜜で満たされていくようだった。
共依存気味な二人の関係は、側から見れば少々歪んでいるかもしれない。
だが、前世で濁った瞳をして満員電車に揺られ、誰からも感謝されないまま消費され尽くした日々。
あの地獄のような社畜生活に比べれば、レオにとっては、この「重すぎる愛」など、むしろ心地よい重みでしかない。
むしろ、前世で「代わりはいくらでもいる」と言われ続けたレオにとって、ノアが向ける「君でなければならない」という重すぎる愛は、何よりも求めていた救いかもしれなかった。
そしてノアにとっても、自らの意思で全てをノアに委ね、身も心もノアに依存しているレオは、誰にも奪われることのない最高の宝物。
また、ノアが幼い頃から抱き続けてきた「この存在を誰にも触れさせたくない」という独占欲を、レオ自身が望む「怠惰」という形で成就させている。
二人にとって、これ以上のハッピーエンドは存在しない。
(あー、今世は本当に勝ち組だな……責任も、ノルマも、締め切りもない……。ただ、ノア兄様に可愛がられているだけで、世界はこんなにも優しい……)
レオは、とろけるような甘いタルトを咀嚼しながら、自分を縛る「愛の檻」の心地よさに深く沈んでいくのだった。
窓から差し込む午後の柔らかな光が、二人の姿を美しく照らしていた。
ここは、どんな理不尽からも守られた、世界で一番安全な場所。
「レオ、愛しているよ。世界で一番。一生、こうして私に甘えていておくれ」
「……僕も、ノア兄様。……もう、ノア兄様がいないと、何もできない体になっちゃいました」
そう言って、レオは誇らしげに、そして最高に幸せそうに笑った。
その笑顔は、かつての絶望を知っているからこそ、今この瞬間の平穏を全力で享受する、清々しいほどの「勝利宣言」であった。
ノアはレオを力いっぱい抱きしめる。
その腕の強さは、レオが今世で手に入れた「絶対に壊れない幸福」の証そのものだった。
それは、普段は冷静沈着な彼が、最愛の者を傷つけようとした者たちに下した、容赦のない断罪であった。
騎士団の同僚たちが震え上がるほどの冷徹な処断だったが、それはノアにとってレオとの平穏を邪魔する雑音を消したに過ぎない。
ちなみに、当のレオは、その報を「ふーん、ノア兄様はお仕事が早くて助かるな」と、他人事のように聞き流していた。
それからレオは、正式にノアの婚約者となった。
男性同士の結婚は稀な事例ではあったが、ノアは圧倒的な権力と「レオがいかに繊細で保護が必要か」という情熱的なプレゼンによって、周囲を納得(あるいは屈服)させてしまったのである。
相変わらず、レオの一日の大半は、最高級のシルクに包まれてだらりと寝て過ごすこと。
移動の際は、足が地面に着くことすら稀で、ほとんどがノアによる「抱っこ」だ。
社交界では「公爵閣下が、あまりに儚い婚約者を、片時も離さず慈しみ守っている」という、嘘か誠かわからない噂が囁かれていた。
「レオ、今日は王都で一番の職人を呼び寄せて苺のタルトを作らせたよ」
「あーん」
ノアの溺愛は加速し、レオの怠惰も加速する。
レオの白く細い指先を、ノアはまるで壊れ物を扱うように丁寧にマッサージし、指先まで温める。
前世で、キーボードを叩きすぎて腱鞘炎になりかけていたあの指。
誰にも労わられることなく、ただ摩耗していくだけだったレオの心と体は、今、ノアという存在によって一滴ずつ、極上の甘い蜜で満たされていくようだった。
共依存気味な二人の関係は、側から見れば少々歪んでいるかもしれない。
だが、前世で濁った瞳をして満員電車に揺られ、誰からも感謝されないまま消費され尽くした日々。
あの地獄のような社畜生活に比べれば、レオにとっては、この「重すぎる愛」など、むしろ心地よい重みでしかない。
むしろ、前世で「代わりはいくらでもいる」と言われ続けたレオにとって、ノアが向ける「君でなければならない」という重すぎる愛は、何よりも求めていた救いかもしれなかった。
そしてノアにとっても、自らの意思で全てをノアに委ね、身も心もノアに依存しているレオは、誰にも奪われることのない最高の宝物。
また、ノアが幼い頃から抱き続けてきた「この存在を誰にも触れさせたくない」という独占欲を、レオ自身が望む「怠惰」という形で成就させている。
二人にとって、これ以上のハッピーエンドは存在しない。
(あー、今世は本当に勝ち組だな……責任も、ノルマも、締め切りもない……。ただ、ノア兄様に可愛がられているだけで、世界はこんなにも優しい……)
レオは、とろけるような甘いタルトを咀嚼しながら、自分を縛る「愛の檻」の心地よさに深く沈んでいくのだった。
窓から差し込む午後の柔らかな光が、二人の姿を美しく照らしていた。
ここは、どんな理不尽からも守られた、世界で一番安全な場所。
「レオ、愛しているよ。世界で一番。一生、こうして私に甘えていておくれ」
「……僕も、ノア兄様。……もう、ノア兄様がいないと、何もできない体になっちゃいました」
そう言って、レオは誇らしげに、そして最高に幸せそうに笑った。
その笑顔は、かつての絶望を知っているからこそ、今この瞬間の平穏を全力で享受する、清々しいほどの「勝利宣言」であった。
ノアはレオを力いっぱい抱きしめる。
その腕の強さは、レオが今世で手に入れた「絶対に壊れない幸福」の証そのものだった。
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