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「ねえテオ、フレイド様は本当に私を必要としてくれてたの」
「そう」
「ど、どうすればいいかな?」
シェナは箒を握りしめた。今はテオと共に庭掃除の最中だった。テオはいつになく言葉少なだ。
「何故僕に聞く?」
「えっ。だ、だっていつもテオが教えてくれるから」
「シェナはどうなんだ。トレヴァー家に行きたいのか、行きたくないのか」
「分からないの。行きたいけど、行きたくない……」
どうしてだろう。シェナはテオの瞳をじっと見つめた。そして閃く。
「あっ。分かった。私、テオと離れるのが嫌なんだ! テオは、リーゼロッテ様が結婚してもこの家に残るんだよね?」
「……そうだね。お嬢様が僕を連れて行かない限りは」
「テオも一緒にトレヴァー家に行こうよ! お願いしてみよう!」
きっとテオも喜んでくれるに違いない、と期待するも、彼は暗い顔をしていた。シェナは不安になる。
「あ、い、嫌かな。そうだよね、テオだってこの家が好きで仕えてるんだもんね。私の都合で振り回すわけには……」
「ううん。行けるなら、僕も一緒に行きたい」
「本当!? 嬉しい!」
シェナは無邪気に笑顔を浮かべた。テオも釣られて微笑む。
**
何も変わらないはず。例え二人でトレヴァー家に行っても、主が変わるだけで、シェナと一緒の生活は何一つ変わらないはずだ。
それなのに。この不安はなんだろう。胸がざわつく。
**
「ふう」
フレイドは自室で溜め息を吐いた。リーゼロッテとの結婚、はこの際どうでもよかった。考えているのはシェナのことだ。
まさか誘いを断られるとは思っていなかった。きっと次こそは良い返事をもらえるはずだ。期待と、恐怖とに心が揺れる。また断られたらと思うと、いっそ死んでしまいたいくらいだった。
窓から蒼い月明かりが差し込んでくる。冷ややかで、美しい光だ。フレイドは月を見上げた。雲一つない夜空に、大きな満月があった。
シェナも今頃同じ月を見ているだろうか。隣で、共に見られたらどんなに良いだろう。
彼女の笑顔を思い出しては、溜め息を吐いた。
「リーゼロッテ様のことをお考えですか?」
年老いたメイドがそっと声をかけてきた。彼女は寝床を整えてくれていたのだ。
フレイドは昔から体が弱く、成長した今は健康体に近付きつつあるものの、時々は一日中ベッドで過ごすこともあった。今日も、夕方までずっと横になっていた。
フレイドは彼女の問いに何と答えるべきか迷って、問いを返す。
「何故そう思ったんだ?」
「溜め息ばかりついていらっしゃるから。恋のお悩みでしょう?」
「恋……? これが?」
「ええ。常に愛しい人のことばかり考えてしまうのが恋ですからねえ。いえ、愛ですかね。ふふふ。羨ましいことです」
メイドは嬉しそうに言って、一歩下がった。
「それでは。フレイド様、あまり夜更かしをなさいませんように」
「あ、ああ。いつもありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい」
ぱたん、静かな音を立てて扉が閉まった。フレイドは一人、胸に手を当てて考える。
「そうか。これが、恋か」
いや、愛だったか。
「私は……」
シェナのことが。
暗闇に光が差すような、深夜から朝に変わる時のような。鮮やかに世界を彩る光。何も分からなかった場所に、道しるべを見つけた気分だった。
「そうだったのか! ははは。そうか、ああ、こんな単純なことだったのか」
むしろ何故今まで気付かなかったのか不思議だ。分かりやすい答えは常に心にあったというのに。
結婚に気が進まず、それでも頻繁にあの家を訪れていた理由。決して相手の顔を立てる為ではなかった。
全てはシェナの為だったのだ。
「そう」
「ど、どうすればいいかな?」
シェナは箒を握りしめた。今はテオと共に庭掃除の最中だった。テオはいつになく言葉少なだ。
「何故僕に聞く?」
「えっ。だ、だっていつもテオが教えてくれるから」
「シェナはどうなんだ。トレヴァー家に行きたいのか、行きたくないのか」
「分からないの。行きたいけど、行きたくない……」
どうしてだろう。シェナはテオの瞳をじっと見つめた。そして閃く。
「あっ。分かった。私、テオと離れるのが嫌なんだ! テオは、リーゼロッテ様が結婚してもこの家に残るんだよね?」
「……そうだね。お嬢様が僕を連れて行かない限りは」
「テオも一緒にトレヴァー家に行こうよ! お願いしてみよう!」
きっとテオも喜んでくれるに違いない、と期待するも、彼は暗い顔をしていた。シェナは不安になる。
「あ、い、嫌かな。そうだよね、テオだってこの家が好きで仕えてるんだもんね。私の都合で振り回すわけには……」
「ううん。行けるなら、僕も一緒に行きたい」
「本当!? 嬉しい!」
シェナは無邪気に笑顔を浮かべた。テオも釣られて微笑む。
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何も変わらないはず。例え二人でトレヴァー家に行っても、主が変わるだけで、シェナと一緒の生活は何一つ変わらないはずだ。
それなのに。この不安はなんだろう。胸がざわつく。
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「ふう」
フレイドは自室で溜め息を吐いた。リーゼロッテとの結婚、はこの際どうでもよかった。考えているのはシェナのことだ。
まさか誘いを断られるとは思っていなかった。きっと次こそは良い返事をもらえるはずだ。期待と、恐怖とに心が揺れる。また断られたらと思うと、いっそ死んでしまいたいくらいだった。
窓から蒼い月明かりが差し込んでくる。冷ややかで、美しい光だ。フレイドは月を見上げた。雲一つない夜空に、大きな満月があった。
シェナも今頃同じ月を見ているだろうか。隣で、共に見られたらどんなに良いだろう。
彼女の笑顔を思い出しては、溜め息を吐いた。
「リーゼロッテ様のことをお考えですか?」
年老いたメイドがそっと声をかけてきた。彼女は寝床を整えてくれていたのだ。
フレイドは昔から体が弱く、成長した今は健康体に近付きつつあるものの、時々は一日中ベッドで過ごすこともあった。今日も、夕方までずっと横になっていた。
フレイドは彼女の問いに何と答えるべきか迷って、問いを返す。
「何故そう思ったんだ?」
「溜め息ばかりついていらっしゃるから。恋のお悩みでしょう?」
「恋……? これが?」
「ええ。常に愛しい人のことばかり考えてしまうのが恋ですからねえ。いえ、愛ですかね。ふふふ。羨ましいことです」
メイドは嬉しそうに言って、一歩下がった。
「それでは。フレイド様、あまり夜更かしをなさいませんように」
「あ、ああ。いつもありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい」
ぱたん、静かな音を立てて扉が閉まった。フレイドは一人、胸に手を当てて考える。
「そうか。これが、恋か」
いや、愛だったか。
「私は……」
シェナのことが。
暗闇に光が差すような、深夜から朝に変わる時のような。鮮やかに世界を彩る光。何も分からなかった場所に、道しるべを見つけた気分だった。
「そうだったのか! ははは。そうか、ああ、こんな単純なことだったのか」
むしろ何故今まで気付かなかったのか不思議だ。分かりやすい答えは常に心にあったというのに。
結婚に気が進まず、それでも頻繁にあの家を訪れていた理由。決して相手の顔を立てる為ではなかった。
全てはシェナの為だったのだ。
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