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美少女と野郎
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トゥーリエ国境に到着。高い壁がそびえている。一応門らしきものも見えるけど、番人もいないので入れてもらうのは難しそうだ。
ここまでしっかり護衛をしてくれた男たちに馬車を渡して別れ、私たちは壁を見上げていた。
「どうやって入りますか?」
「壊すか」
「騒ぎになりますよ」
ユリスの端的な意見をラウロが却下。
「空飛んで入る?」
「結界があった場合が厄介だな」
シルフィの自由な発想をユリスが却下。
そうして黙る一同。当然私にも意見は無い。門を叩いて声をかけてみる? くらいのものである。
「あのー。あたしなら開けられるけど、どうする?」
白々しいほど可愛く首を傾げる男一名。全員の視線が彼に集中する。ユリスとラウロに至っては睨んでいるだけだ。
「こわ~い。エコ、この人達怖くない?」
「貴方の方がよっぽど怖いんですけど」
私が睨むもミケはにこにこと笑って体を揺らしている。見た目だけなら可愛いんだよね、見た目だけなら。
「ちゃんと謝ったじゃん許してよー。でもさ、偉いでしょあたし。何もしなかったわけだしぃ。ちょっと触っただけじゃん」
「木偶、そいつを締め落とせ」
「ユリス様。面倒になったらハインツ様に丸投げするのはやめてください」
主従は疲れているようだ。昨日ほとんどろくに寝ていないわけだし、いい加減ゆっくり休んでもらいたい。
「あのねぇ、大体こんなところに護身も出来ない女の子連れてくる方が間違ってるよ? 女の子なんてここじゃ良い餌なんだからさ、何されても仕方ないっていうか?」
壁を相手に皆が考えている中、暢気なミケの声が通り過ぎていく。もう誰も反応すらしない。疲れていた。肉体というより精神的に。
「ね~あたしが開けてあげるってば」
「貴様はいつまでここにいる。仲間はとっくに去ったぞ」
「言ったじゃん昨日揉めたって。あたしもずっと同じ人と一緒にいるわけじゃないんだよね。ただ一時の協力関係っていうか、それだけの付き合いなの」
「普通に喋れ」
ユリスが苦言を呈す。私もこの声を聞くと心の古傷が痛む。ミケは不満そうに唇を尖らせた。
「えー。普通に喋ったら可愛くないじゃん……。ま、でもそれもそうか。疲れるし。そんでどうすんだよ。オレが開けてやってもいいけどー?」
ミケは声だけでなく喋り方までがらりと変わった。狐に化かされるとはこういうことを言うんだろうか。器用なものだ。
「見返りは何だ」
「おっ。ちゃんとしてるねぇ。あんたらの仲間にしてくれりゃいいよ。いい機会だし、オレも国に入りたいんだよな」
「仲間……?」
思わず声が出た。あれだけ人にセクハラをして騙しておいて仲間とは。彼にとってはあまり意味の無い言葉なのかもしれないけれど。
「一時の付き合いで良いよ別に。仕事のあっせんとか、大金くれりゃ尚いいけどな」
「分かりやすいですね」
「いいだろう。開けてみろ」
ユリスが了承し、ミケは気軽に「はいよー」と返事をして壁をコンコンと叩き始めた。やがて一点で立ち止まると足を振り上げ、壁の下の方を蹴る。するとケーキが崩れるように壁の一部がぼろぼろと崩れた。ミケは地面を這って、その小さな隙間を通り抜けると数分後には門を開いて私たちを中へと招き入れる。あまりに早くて手馴れた動きだった。
「こ、こんなにあっさり通れるの?」
「他の国もこういう感じで通る手段があるよ。言わねえけどな」
全員通ったところでミケは元通り門を閉めた。先ほど開けた壁の穴の前に立って手招きする。
「ここの穴、魔法で軽めに塞ぐんだけど、ちょっと工夫しとかないと困るんだ。誰か魔力分けてくんねえかな。オレ全然無いんだよ今」
「私の魔力使っていいよ」
「ああ助かる」
「待てエコ。お前が出るまでもない」
「え、何? 何かあんの?」
ユリスの制止にミケが訝しんだ。すぐにシルフィが名乗り出たのでそれも有耶無耶になる。シルフィはミケの手に自分の手を乗せて魔力を送っているようだ。私にもあれが出来れば楽なんだろうな。その隙にユリスがさりげなく言う。
「軽々しく魔力を使わせるな。他国でその体質が見つかるとまずい」
「あ、そうか。そうですね。分かりました」
ここはメセイルにとって敵国だ。変質者に攫われたりというトラブルが起きても、メセイルの王子に出来ることは限られる、というよりほぼ無い。王子であること自体を隠さなければいけないのだ。私の迂闊な行動が命取りになるかもしれない。私は深く頷いた。
そうして成り行きで一名増えた私たちはトゥーリエ国内へ侵入……もとい入国することに成功したのだった。
ここまでしっかり護衛をしてくれた男たちに馬車を渡して別れ、私たちは壁を見上げていた。
「どうやって入りますか?」
「壊すか」
「騒ぎになりますよ」
ユリスの端的な意見をラウロが却下。
「空飛んで入る?」
「結界があった場合が厄介だな」
シルフィの自由な発想をユリスが却下。
そうして黙る一同。当然私にも意見は無い。門を叩いて声をかけてみる? くらいのものである。
「あのー。あたしなら開けられるけど、どうする?」
白々しいほど可愛く首を傾げる男一名。全員の視線が彼に集中する。ユリスとラウロに至っては睨んでいるだけだ。
「こわ~い。エコ、この人達怖くない?」
「貴方の方がよっぽど怖いんですけど」
私が睨むもミケはにこにこと笑って体を揺らしている。見た目だけなら可愛いんだよね、見た目だけなら。
「ちゃんと謝ったじゃん許してよー。でもさ、偉いでしょあたし。何もしなかったわけだしぃ。ちょっと触っただけじゃん」
「木偶、そいつを締め落とせ」
「ユリス様。面倒になったらハインツ様に丸投げするのはやめてください」
主従は疲れているようだ。昨日ほとんどろくに寝ていないわけだし、いい加減ゆっくり休んでもらいたい。
「あのねぇ、大体こんなところに護身も出来ない女の子連れてくる方が間違ってるよ? 女の子なんてここじゃ良い餌なんだからさ、何されても仕方ないっていうか?」
壁を相手に皆が考えている中、暢気なミケの声が通り過ぎていく。もう誰も反応すらしない。疲れていた。肉体というより精神的に。
「ね~あたしが開けてあげるってば」
「貴様はいつまでここにいる。仲間はとっくに去ったぞ」
「言ったじゃん昨日揉めたって。あたしもずっと同じ人と一緒にいるわけじゃないんだよね。ただ一時の協力関係っていうか、それだけの付き合いなの」
「普通に喋れ」
ユリスが苦言を呈す。私もこの声を聞くと心の古傷が痛む。ミケは不満そうに唇を尖らせた。
「えー。普通に喋ったら可愛くないじゃん……。ま、でもそれもそうか。疲れるし。そんでどうすんだよ。オレが開けてやってもいいけどー?」
ミケは声だけでなく喋り方までがらりと変わった。狐に化かされるとはこういうことを言うんだろうか。器用なものだ。
「見返りは何だ」
「おっ。ちゃんとしてるねぇ。あんたらの仲間にしてくれりゃいいよ。いい機会だし、オレも国に入りたいんだよな」
「仲間……?」
思わず声が出た。あれだけ人にセクハラをして騙しておいて仲間とは。彼にとってはあまり意味の無い言葉なのかもしれないけれど。
「一時の付き合いで良いよ別に。仕事のあっせんとか、大金くれりゃ尚いいけどな」
「分かりやすいですね」
「いいだろう。開けてみろ」
ユリスが了承し、ミケは気軽に「はいよー」と返事をして壁をコンコンと叩き始めた。やがて一点で立ち止まると足を振り上げ、壁の下の方を蹴る。するとケーキが崩れるように壁の一部がぼろぼろと崩れた。ミケは地面を這って、その小さな隙間を通り抜けると数分後には門を開いて私たちを中へと招き入れる。あまりに早くて手馴れた動きだった。
「こ、こんなにあっさり通れるの?」
「他の国もこういう感じで通る手段があるよ。言わねえけどな」
全員通ったところでミケは元通り門を閉めた。先ほど開けた壁の穴の前に立って手招きする。
「ここの穴、魔法で軽めに塞ぐんだけど、ちょっと工夫しとかないと困るんだ。誰か魔力分けてくんねえかな。オレ全然無いんだよ今」
「私の魔力使っていいよ」
「ああ助かる」
「待てエコ。お前が出るまでもない」
「え、何? 何かあんの?」
ユリスの制止にミケが訝しんだ。すぐにシルフィが名乗り出たのでそれも有耶無耶になる。シルフィはミケの手に自分の手を乗せて魔力を送っているようだ。私にもあれが出来れば楽なんだろうな。その隙にユリスがさりげなく言う。
「軽々しく魔力を使わせるな。他国でその体質が見つかるとまずい」
「あ、そうか。そうですね。分かりました」
ここはメセイルにとって敵国だ。変質者に攫われたりというトラブルが起きても、メセイルの王子に出来ることは限られる、というよりほぼ無い。王子であること自体を隠さなければいけないのだ。私の迂闊な行動が命取りになるかもしれない。私は深く頷いた。
そうして成り行きで一名増えた私たちはトゥーリエ国内へ侵入……もとい入国することに成功したのだった。
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