呪われて猫になったせいで婚約破棄されましたが、元婚約者は大の猫好きでした

空木切

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4 人間に戻……ってない!

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 お腹がごろごろする。変な感触で目が覚めた。見ると、カイラス様が私のお腹に顔を埋めていた。どういうこと!? 悲鳴の代わりに鳴きながら藻掻いて脱出する。

「あっ……ああ……まあ、仕方ないか……」

 カイラス様は残念そうにしている。そんな目で見られても、お腹ですーはーされるのは嫌です。カイラス様はベッドに寝そべって、猫の私と視線を合わせた。

「可愛いなあ~……猫はどうすれば懐いてくれるのだろう……」

 私の体を引き寄せるとまた頬ずりをした。大変困ります。それに、この扱い方で普通の猫が懐くとは到底思えません……。私は普通の猫ではなく、カイラス様の気持ちも分かるので大人しくしていますが、とても困っています。


 ひたすらカイラス様に可愛がられ続けて日が沈み、夜になった。
 猫なので床で寝ようとすると、カイラス様に持ち上げられてしまう。

「一緒に寝よう。駄目かな?」

 まるで美しい絵画でも見ているかのよう。カイラス様は少し首を傾げて、眉を下げて、愛おしそうに優しく囁いてくる。心臓が破裂しそう。とても耐えられない。
 再び床に降りるもまた掴み上げられて、今度は布団の中に入れられてしまった。私、生娘なんです、男性と同じ布団はさすがに無理です!

「まだ眠くない?」

 カイラス様は私の頭を撫でながら、とろんとした顔で見つめてくる。こんな近くで、体温まで感じて、気がおかしくなりそう。

「君は可愛いね、本当に」

 抱き寄せられて思わず体を強張らせた。このままじゃキスしちゃう、キスしちゃう! カイラス様の鼻と私の鼻が、つんっと触れ合った。途端、体に戻ってくる重み。

「まずい、まずいですそれは……! あれっ」

 カイラス様が目を見開いて私を見ている。私は自分の手を見て驚いた。

「あれ、えと、あれ? 戻った!?」

 ちゃんと言葉も喋ってる! 慌ててベッドから降りてカイラス様と距離を取った。どうやら元に戻ったらしい。久々の自分の体だ。ちゃんと服も着ている。裸じゃなくてよかった。
 ぐるぐる回って自分の体を観察する。お尻に何かついている。これは、尻尾だ。猫の尻尾。

「尻尾!? 耳もついてる! 戻ってない!?」

 頭には猫耳がしっかりついている。人間の耳もある。しかし人間の耳からは何も聞こえない。猫耳で音を聞いているらしい。呆然とした。しかし呆然としているのは私だけではない。カイラス様のことを思い出した。

「か、カイラス様、あの……」
「猫に戻れ」

 え? 耳を疑った。猫耳がぴくっと動く。カイラス様は表情を歪めて、長く息を零してから言った。

「……お前は、確か、アリゼだったか」
「そ、そうです」

 声のトーンがさっきまでと全然違う。私が猫じゃないからだ。カイラス様は私をじっと見て言った。

「アリゼ、お前は猫だったのか?」
「違います。恐らく魔法か、呪いで猫にされてしまったんです。今初めて人に戻れて……いえ、戻っていませんね。耳と尻尾がそのままです。どうすれば……」

 せっかく人間に戻れたのに、中途半端な姿だ。がっかりと肩を落とす。
 カイラス様が真剣な顔で近付いてきて、私の耳(猫の方)に触れた。

「ひゃっ!?」
「感触はあるのか……」

 カイラス様は猫耳を指で執拗に撫でている。逃げたいのに、私は猫の時と同じように大人しくしていた。

「く、くすぐったいです、やめてください……うう……」

 少しずつ身を引いていると、カイラス様は手を離した。溜め息混じりに言う。

「何故人なんだ……」

 胸にぐさっと刺さる。やっぱり猫がいいんですね、そうですよね。カイラス様は私を問い詰めるように鋭い視線を向けた。

「いつ猫に戻る」
「あの、人に戻る手伝いをしてくれたりは……」

 一応問う。私は人に戻りたいのだ。カイラス様の答えは、

「……………………」

 無言。無表情で無言だ。私が見慣れた、よく見たカイラス様と全く同じ。私は苦笑いを浮かべた。

「そうですよね、私が人に戻ろうが戻るまいが、カイラス様には関係のない話です」

 新しい婚約者もいることだし、カイラス様は私に関心がなくて当然だ。分かっていたのに、やっぱり少し辛かった。

 カイラス様は無言のままだ。私も癖で黙ってしまった。いつも喋らないで欲しそうだったから。しばらくしてやっとカイラス様は言った。

「お前が猫と分かれば話は早い。今の婚約は解消する。元に戻そう」
「それって、私が猫だからですよね」
「そうだ」
「……ですが跡継ぎはどうなさるおつもりですか。猫と人では子は産めません」

 カイラス様ははっとした顔をした。実はちょっと天然な人? 彼は真面目な顔になって、考えるように顎に指を当てた。そして言う。

「つまり、俺とお前の子は猫になる可能性がある……と?」
「えっ」
「試してみよう」

 と私の肩を掴みベッドに押し倒した。躊躇ためらいもしないなんて、どこまで猫が好きなんですか! 私は顔を赤くして首を振る。

「だっ、駄目です! 試すものじゃありませんから! と、とにかく明日考えましょう!? 明日になればまた猫に戻るかもしれませんよ!?」
「……確かに」

 カイラス様はすんなり受け入れて私から離れた。はあ、びっくりした。まだ心臓がドキドキしている。

「仕方ない、寝るぞ」
「寝るぞって、私も隣で寝るんですか」

 カイラス様は布団を持ち上げて、自分の隣をぽんぽんと手で叩いている。どう見ても隣で寝ろのジェスチャーだ。

「明日には猫に戻るんだろう。ここで寝ればいい」

 う、嘘でしょう。カイラス様は本気で言っているらしい。私は観念してベッドに入った。とても眠れない……と思いきや、疲労もあってあっさり眠りに落ちた。
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