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第2章 救国のハムスターは新たな人生を歩む
17 いいがかりにもほどがあるかしら?
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セミってどの世界にもいるんだね。
シャワシャワとひたすら鳴き続けるセミの声を全身に浴びながら、私はふと日本の夏を思った。
田舎で育った私は、夏の遊びのひとつとして、大きな網を持ってセミを追い回した。
意味もなく小さなニイニイゼミを虫カゴいっぱいに捕まえて、夕方になると、また明日ねと言いながら、空に向かって放り投げた。
大人になって働き始めた大きな街には、アブラゼミとクマゼミが街路樹や公園の緑にあふれていた。
久しぶりに日本人だった頃のことを思い出した。
最近の私は元いた世界のことを忘れつつある。
自分の名前や親兄弟のことすら、今では思い出せなくなった。
忘れろということなのだろうか。
たまに、デジャヴのように昔のことが脳裏をよぎる。
そんな時、私は自分の硬質の無表情顔に感謝する。
郷愁のような、失ったものに手を伸ばしたくなるような、このよくわからない感情は、陶器のような真っ白な顔に表れることはないだろう。
手入れの行き届いた広大な伯爵家の庭園を、日傘を手にターニャとふたり歩いていた私は、ふっとそんなことを思った。
今になって思えば、そんな感傷めいたことに思いを巡らせていた私に隙があったのだろう。
すこし離れたテラスからこちらに向かって歩いてきたひとりのメイドが、私に向かって頭を下げた。
こちらにお越しいただいてよろしいですか、と。
なんだろう? と思いながらも、言われたとおりメイドの後に続いてテラスにたどり着いた私を、この世界で最も会いたくない計算高く意地の悪い子爵様が、したり顔で見ていた。
「ごめんね、ハーモニー。こちらはシーラ・モランデル子爵様よ。あなたと話をしたいっていうから呼んだの。いいかしら?」
暑さを感じさせない爽やかな微笑みを浮かべて私に話しかけたのは、オリーヴィア・レンホルム伯爵夫人。
ハムスター時代にはお義姉様と呼んでいたトールの奥さんだ。
性格はいたって温厚。
私にも優しく話しかけてくれる気さくな方だ。
問題は、向かいに座っている、元公爵家ご令嬢だ。
数々の功績により公爵家から分家し、女子爵として夫を尻に敷いている、ハムスター時代からの私の宿敵。
性悪精霊術師シーラだ。
正直言って、私はシーラにいい記憶がない。
私が王太子様の婚約者になってからも、ことあるごとに私を利用しようと近寄ってきた。
友だちに頼まれたとかで、何百枚もの色紙に手形を押させられたり、叙爵の時も男爵は嫌だから子爵にするように王様に頼んでくれとか、面倒くさい頼みごとばかりされた記憶がある。
嫌な顔をすると、私とあなたの仲じゃないのと言って怒り出す。
シーラと仲良くなった覚えなどないのだけど、救国のハムスター時代の私は、シーラの頭の中ではマブダチ認定されていた。
当時私の持っていた権力とマブダチという意味だろうけど。
その権力大好き性悪女シーラが、庶民の女の子になど用があるはずがない。
どうせろくなことじゃないと、顔をひきつらせながら、深々と頭を下げた私に、さっそくシーラの辛辣なセリフが飛んで来た。
「あんた、トールの遠縁の田舎者らしいじゃない。というか、その顔色なに? 何でそんなに白いの? 病気? それに、あんたの顔って人形みたいよね。バカみたいに整ってて、見てて恐くなるわ。本当に人なの?」
さすがはシーラだ。
高慢ちきとはまさにシーラのためにある言葉だ。
シーラのことをよく知っている私でなければ、その悪意に打ちのめされてこの場にうずくまっていただろう。
あわてて、オリーヴィア様がシーラをたしなめる。
おそらくはふたりでお茶会でもしていたのだろうが、よくシーラなんかとお茶が飲めるなと、私はオリーヴィア様の心の広さに感動を覚えた。
たしか、ふたりは幼馴染だと聞いた覚えがある。
まちがいなく、腐れ縁という関係をオブラートで包んだ表現だ。
誰が相手であろうとこんなセリフを普段から吐いているシーラに、友達などいるはずがない。
返事を求めているわけでもないのだろうと、その場に立ちつくしていた私に、不意に立ち上がったシーラが近づいてきた。
何を思ったのか、手を伸ばして私の顎を人差し指と親指でグイッと掴んだ。
まさか、生まれて初めての顎グイがシーラってどういうことよ、とファーストキスを奪われたような衝撃が私を襲ったが、幸いにも物理的衝撃はまったく伝わってこなかった。
さすがのシーラも手加減しているんだろうと思いながら、シーラの目を見返した私に、またしても辛辣なセリフが響いた。
「硬っ! あんた硬いわね! 何でできてんの? ガラス? 人の硬さじゃないわよね!」
さすがはシーラだ。
子供に向かってそんなことを言うとは、思慮分別のかけらもない。
たしかに、私は白磁器みたいな白さを持ってはいるけれど、硬さは人の皮膚の範疇に収まる。
表情が硬いという意味ならば、たしかにそれはそうだけど、物理的には弾力性が高いというレベルだ。
失礼にもほどがある。
まあ、ご貴族様だから何を言っても許されると思っているんだろう。
またしても、あわてて立ち上がったオリーヴィア様がシーラをたしなめる。
うんうん、その性悪女が泣き出すまで説教していただきたい、と思っていると、今度は私の頬っぺたにデコピンをくらわせてきた。
なんだ、こいつは。
初対面の子どもにデコピンとは。
庶民に対しては何をしてもいいと思っているのか、シーラめ。
さすがはご貴族様だなと、目を細めてシーラを見つめていると、さらにシーラの手が高く上がって、私の頬っぺたにバチンッという強烈な音を響かせて叩きつけられた。
それだけでもびっくりなのに、シーラは間髪入れず、目をみはって大声を出した。
「痛いわねー! 手の骨が折れたらどうすんのよー!」
さすがに、これにはシーラ通の私もびっくりした。
まさか、人の顔を平手で叩いておいて、自分の手のひらが痛いなどとぬかす奴がこの世にいようとは。
もはや、いいがかりの域を越えている。
デコピンにしろ平手打ちにしろ、なぜか痛みを感じなかったため、やり返そうとは思わなかったけど、これで痛かったら泣きながら食ってかかっているところだ。
シーラめ、覚えていろよ。
シーラは私を睨みつけた後、オリーヴィア様を訳知り顔で振り返り、分け前に預かろうとするような下卑た声を出した。
「ねえ、オリーヴィア。私に黙ってるなんて隅に置けないわね。こいつ加護持ちなんでしょう? それで、わざわざ田舎から引きずり出してきたのね。たしかに、防御系の加護持ちって希少価値があるからね。使い道がありそうね」
その場に居合わせたみんなが驚愕の表情で固まっているというのに、シーラだけが得意満面の表情でオリーヴィア様に問いかける。
「で、どのくらいの魔力量なの? 召喚系の能力も持ってるの? トールの遠戚っていうことは召喚獣系? 精霊契約は試した?」
目をパチパチと瞬きながら小首を傾げたオリーヴィア様だったけど、はっと我に返ったようで、大きく目をみはって厳しい表情を浮かべた。
「何を言ってるの、シーラ? 女の子を叩くなんて最低よ。そもそも、なぜ叩いたの? 理由如何によってはあなたとの仲もこれまでよ」
おー、さすがはオリーヴィア様。
もっと言ってやってください、と私は心の中で盛大な声援を送った。
「何言ってんのはこっちのセリフよ。今の見たでしょう? 私がおもいっきり引っ叩いたのに、こいつは一ミリたりとも動かなかったのよ。つまり、防御膜が発動したのよ。魔法陣なしでね。加護持ち確定じゃない。ひょっとして、オリーヴィアは知らなかったの? 知ってたから屋敷においてるんじゃないの?」
その言葉で、さっきまでシーラに向かっていたみんなの眼差しが、今度は私に集中する。
大きな疑問符が私の脳内に浮かび上がった次の瞬間、優しいほうの大天使の言葉がふとよぎった。
『生まれ変わった後の魔力量によるんだけど、絶対結界はぎりぎり発動するかもしれないわね。とはいえ、自分の体を守ることぐらいが精一杯でしょうけどね』
あっ……絶対結界か……。
シーラは防御膜って言ってるけど、絶対結界が発動したんだ。
それで、あれだけの音が響いたのに、まったく痛くなかったんだ。
うん?
でも、なんで今頃になって?
今まで……あー、そうか。
ハムスターの技として持っていた絶対結界は、自分の身を守る時は自動的に発動していた。
人に生まれ変わってからは、身に危険が及んだことがなかったから、発動しなかったということか。
でも、シーラの攻撃を受けたことによって、初めて絶対結界が発動したと。
うーんっと、ハムスター時代に王太子様と学んだ魔術学では、人の場合、魔法陣なしで発動する魔術は天使の加護と呼ばれて、希少価値があると聞いた覚えがある。
発動する魔術によっては大天使の加護とも呼ばれ、ティトラン王国では唯一、王太子様がその力を持っていた。
だからこそ、王太子様は勇者様御一行の治癒役としてメンバー入りしていたわけだけど、私の場合は絶対結界を魔法陣なしで使えるということか。
えーっと、まずいね。
たしか、防御系の天使の加護は下位の防御膜で、大天使の加護ですら上位の防御膜だ。
下位の結界すら上位の防御膜を越える力を持っているから、絶対結界となるとありえないレベルになる。
とはいえ、シーラの平手打ちを防いだのは、皮膚に当たるか当たらないかぐらいのところだった。
ハムスター時代のように、ドーム型で広範囲を守れないのだとしたら、人様の役には立たないってことだ。
うーん、いろいろと厄介事を引き起こしそうな能力だね。
実際、すでにシーラという疫病神に捕まっているわけだし。
困った様子で私を見つめるオリーヴィア様。
私が何かの役に立つかと思案顔のシーラ。
カチンコチンになったまま動きをとめたメイドたち。
そんな居た堪れない雰囲気の中、シーラが見るものに悪寒を覚えさせるほどのいやらしい笑みを浮かべた。
「いずれにせよ、どれほどの防御膜なのか調べてみないとね」
シーラはそうつぶやくやいなや、高らかに声を張った。
「生命の営みを司る清らかな水の乙女よ。ここに姿を現せ、ウンディーネ召喚!」
シャワシャワとひたすら鳴き続けるセミの声を全身に浴びながら、私はふと日本の夏を思った。
田舎で育った私は、夏の遊びのひとつとして、大きな網を持ってセミを追い回した。
意味もなく小さなニイニイゼミを虫カゴいっぱいに捕まえて、夕方になると、また明日ねと言いながら、空に向かって放り投げた。
大人になって働き始めた大きな街には、アブラゼミとクマゼミが街路樹や公園の緑にあふれていた。
久しぶりに日本人だった頃のことを思い出した。
最近の私は元いた世界のことを忘れつつある。
自分の名前や親兄弟のことすら、今では思い出せなくなった。
忘れろということなのだろうか。
たまに、デジャヴのように昔のことが脳裏をよぎる。
そんな時、私は自分の硬質の無表情顔に感謝する。
郷愁のような、失ったものに手を伸ばしたくなるような、このよくわからない感情は、陶器のような真っ白な顔に表れることはないだろう。
手入れの行き届いた広大な伯爵家の庭園を、日傘を手にターニャとふたり歩いていた私は、ふっとそんなことを思った。
今になって思えば、そんな感傷めいたことに思いを巡らせていた私に隙があったのだろう。
すこし離れたテラスからこちらに向かって歩いてきたひとりのメイドが、私に向かって頭を下げた。
こちらにお越しいただいてよろしいですか、と。
なんだろう? と思いながらも、言われたとおりメイドの後に続いてテラスにたどり着いた私を、この世界で最も会いたくない計算高く意地の悪い子爵様が、したり顔で見ていた。
「ごめんね、ハーモニー。こちらはシーラ・モランデル子爵様よ。あなたと話をしたいっていうから呼んだの。いいかしら?」
暑さを感じさせない爽やかな微笑みを浮かべて私に話しかけたのは、オリーヴィア・レンホルム伯爵夫人。
ハムスター時代にはお義姉様と呼んでいたトールの奥さんだ。
性格はいたって温厚。
私にも優しく話しかけてくれる気さくな方だ。
問題は、向かいに座っている、元公爵家ご令嬢だ。
数々の功績により公爵家から分家し、女子爵として夫を尻に敷いている、ハムスター時代からの私の宿敵。
性悪精霊術師シーラだ。
正直言って、私はシーラにいい記憶がない。
私が王太子様の婚約者になってからも、ことあるごとに私を利用しようと近寄ってきた。
友だちに頼まれたとかで、何百枚もの色紙に手形を押させられたり、叙爵の時も男爵は嫌だから子爵にするように王様に頼んでくれとか、面倒くさい頼みごとばかりされた記憶がある。
嫌な顔をすると、私とあなたの仲じゃないのと言って怒り出す。
シーラと仲良くなった覚えなどないのだけど、救国のハムスター時代の私は、シーラの頭の中ではマブダチ認定されていた。
当時私の持っていた権力とマブダチという意味だろうけど。
その権力大好き性悪女シーラが、庶民の女の子になど用があるはずがない。
どうせろくなことじゃないと、顔をひきつらせながら、深々と頭を下げた私に、さっそくシーラの辛辣なセリフが飛んで来た。
「あんた、トールの遠縁の田舎者らしいじゃない。というか、その顔色なに? 何でそんなに白いの? 病気? それに、あんたの顔って人形みたいよね。バカみたいに整ってて、見てて恐くなるわ。本当に人なの?」
さすがはシーラだ。
高慢ちきとはまさにシーラのためにある言葉だ。
シーラのことをよく知っている私でなければ、その悪意に打ちのめされてこの場にうずくまっていただろう。
あわてて、オリーヴィア様がシーラをたしなめる。
おそらくはふたりでお茶会でもしていたのだろうが、よくシーラなんかとお茶が飲めるなと、私はオリーヴィア様の心の広さに感動を覚えた。
たしか、ふたりは幼馴染だと聞いた覚えがある。
まちがいなく、腐れ縁という関係をオブラートで包んだ表現だ。
誰が相手であろうとこんなセリフを普段から吐いているシーラに、友達などいるはずがない。
返事を求めているわけでもないのだろうと、その場に立ちつくしていた私に、不意に立ち上がったシーラが近づいてきた。
何を思ったのか、手を伸ばして私の顎を人差し指と親指でグイッと掴んだ。
まさか、生まれて初めての顎グイがシーラってどういうことよ、とファーストキスを奪われたような衝撃が私を襲ったが、幸いにも物理的衝撃はまったく伝わってこなかった。
さすがのシーラも手加減しているんだろうと思いながら、シーラの目を見返した私に、またしても辛辣なセリフが響いた。
「硬っ! あんた硬いわね! 何でできてんの? ガラス? 人の硬さじゃないわよね!」
さすがはシーラだ。
子供に向かってそんなことを言うとは、思慮分別のかけらもない。
たしかに、私は白磁器みたいな白さを持ってはいるけれど、硬さは人の皮膚の範疇に収まる。
表情が硬いという意味ならば、たしかにそれはそうだけど、物理的には弾力性が高いというレベルだ。
失礼にもほどがある。
まあ、ご貴族様だから何を言っても許されると思っているんだろう。
またしても、あわてて立ち上がったオリーヴィア様がシーラをたしなめる。
うんうん、その性悪女が泣き出すまで説教していただきたい、と思っていると、今度は私の頬っぺたにデコピンをくらわせてきた。
なんだ、こいつは。
初対面の子どもにデコピンとは。
庶民に対しては何をしてもいいと思っているのか、シーラめ。
さすがはご貴族様だなと、目を細めてシーラを見つめていると、さらにシーラの手が高く上がって、私の頬っぺたにバチンッという強烈な音を響かせて叩きつけられた。
それだけでもびっくりなのに、シーラは間髪入れず、目をみはって大声を出した。
「痛いわねー! 手の骨が折れたらどうすんのよー!」
さすがに、これにはシーラ通の私もびっくりした。
まさか、人の顔を平手で叩いておいて、自分の手のひらが痛いなどとぬかす奴がこの世にいようとは。
もはや、いいがかりの域を越えている。
デコピンにしろ平手打ちにしろ、なぜか痛みを感じなかったため、やり返そうとは思わなかったけど、これで痛かったら泣きながら食ってかかっているところだ。
シーラめ、覚えていろよ。
シーラは私を睨みつけた後、オリーヴィア様を訳知り顔で振り返り、分け前に預かろうとするような下卑た声を出した。
「ねえ、オリーヴィア。私に黙ってるなんて隅に置けないわね。こいつ加護持ちなんでしょう? それで、わざわざ田舎から引きずり出してきたのね。たしかに、防御系の加護持ちって希少価値があるからね。使い道がありそうね」
その場に居合わせたみんなが驚愕の表情で固まっているというのに、シーラだけが得意満面の表情でオリーヴィア様に問いかける。
「で、どのくらいの魔力量なの? 召喚系の能力も持ってるの? トールの遠戚っていうことは召喚獣系? 精霊契約は試した?」
目をパチパチと瞬きながら小首を傾げたオリーヴィア様だったけど、はっと我に返ったようで、大きく目をみはって厳しい表情を浮かべた。
「何を言ってるの、シーラ? 女の子を叩くなんて最低よ。そもそも、なぜ叩いたの? 理由如何によってはあなたとの仲もこれまでよ」
おー、さすがはオリーヴィア様。
もっと言ってやってください、と私は心の中で盛大な声援を送った。
「何言ってんのはこっちのセリフよ。今の見たでしょう? 私がおもいっきり引っ叩いたのに、こいつは一ミリたりとも動かなかったのよ。つまり、防御膜が発動したのよ。魔法陣なしでね。加護持ち確定じゃない。ひょっとして、オリーヴィアは知らなかったの? 知ってたから屋敷においてるんじゃないの?」
その言葉で、さっきまでシーラに向かっていたみんなの眼差しが、今度は私に集中する。
大きな疑問符が私の脳内に浮かび上がった次の瞬間、優しいほうの大天使の言葉がふとよぎった。
『生まれ変わった後の魔力量によるんだけど、絶対結界はぎりぎり発動するかもしれないわね。とはいえ、自分の体を守ることぐらいが精一杯でしょうけどね』
あっ……絶対結界か……。
シーラは防御膜って言ってるけど、絶対結界が発動したんだ。
それで、あれだけの音が響いたのに、まったく痛くなかったんだ。
うん?
でも、なんで今頃になって?
今まで……あー、そうか。
ハムスターの技として持っていた絶対結界は、自分の身を守る時は自動的に発動していた。
人に生まれ変わってからは、身に危険が及んだことがなかったから、発動しなかったということか。
でも、シーラの攻撃を受けたことによって、初めて絶対結界が発動したと。
うーんっと、ハムスター時代に王太子様と学んだ魔術学では、人の場合、魔法陣なしで発動する魔術は天使の加護と呼ばれて、希少価値があると聞いた覚えがある。
発動する魔術によっては大天使の加護とも呼ばれ、ティトラン王国では唯一、王太子様がその力を持っていた。
だからこそ、王太子様は勇者様御一行の治癒役としてメンバー入りしていたわけだけど、私の場合は絶対結界を魔法陣なしで使えるということか。
えーっと、まずいね。
たしか、防御系の天使の加護は下位の防御膜で、大天使の加護ですら上位の防御膜だ。
下位の結界すら上位の防御膜を越える力を持っているから、絶対結界となるとありえないレベルになる。
とはいえ、シーラの平手打ちを防いだのは、皮膚に当たるか当たらないかぐらいのところだった。
ハムスター時代のように、ドーム型で広範囲を守れないのだとしたら、人様の役には立たないってことだ。
うーん、いろいろと厄介事を引き起こしそうな能力だね。
実際、すでにシーラという疫病神に捕まっているわけだし。
困った様子で私を見つめるオリーヴィア様。
私が何かの役に立つかと思案顔のシーラ。
カチンコチンになったまま動きをとめたメイドたち。
そんな居た堪れない雰囲気の中、シーラが見るものに悪寒を覚えさせるほどのいやらしい笑みを浮かべた。
「いずれにせよ、どれほどの防御膜なのか調べてみないとね」
シーラはそうつぶやくやいなや、高らかに声を張った。
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