忌み子な王子の守護精霊

ハイエルフスキー

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1 赤ちゃんな王子と「逃げる」守護精霊

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「おぎゃあ、ぎゃあ、おぎゃあ、ぎゃあ」

 どこからか、赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。わたしはふわふわと漂いながら、声のするほうに意識を向けた。

 ああ、やっぱり赤ちゃんだ。生まれたばかりの赤ちゃんがふたり、仲良くならんで泣いている。

 うーん……男の子だね。双子の男の子かー。かわいいねー。そっくりだねー。

 かわいらしい赤ちゃんたちに吸い寄せられるように、わたしはふわふわとベットに近づいた。そこで、ようやく、部屋の中に男がふたりいることに気がついた。

「ふーむ、落ちついたようだし、魔力測定を行うこととしようか」

 太っちょの偉そうなおじさんが、アゴに添えていた人差し指を、赤ちゃんに向けた。

「かしこまりました」

 青いローブを着たヒョロッとした若い男が、大人のこぶしぐらいある透明な球を、赤ちゃんのお腹に押し当てた。

 赤ちゃんの泣き声が「ひゅぎゃー」と部屋中に大きく響きわたる。同時に、透明だった球がまばゆく金色に光った。

「これは、すばらしいな。まさしく王の器だ。生まれたばかりだというのに、これほどの魔力を持っているとは。しかも、光属性とはな。陛下もお喜びになるだろう」

 なにやら、偉そうなおじさんが、ドヤ顔でアゴをしきりにこすっている。

 ふーん、よくわからないけど、すごそうだね。わたしは光る球とおじさんの顔に交互に視線を送った。

「では……そちらはどうであろうな?」

 さっきまでドヤ顔だったおじさんが、急に暗い顔をして、もうひとりの赤ちゃんに向けてアゴをしゃくった。

「かしこまりました」

 またしても、同じ返事をしたヒョロ男が、透明な球をもうひとりの赤ちゃんのお腹に押し当てた。

 さっきと同じ様に、赤ん坊の「ひゅぎゅー」という大声が響いたが、球は光を発しなかった。

 微動だにせずに、じっと球を見つめるおじさんとヒョロ男。

 おじさんは軽く頭を振った。ベットに近寄り、赤ちゃんに手を伸ばした。

「では、後のことは任せたぞ」

 光属性とやらの赤ちゃんを胸に押し抱いたおじさんは、振り返ることもなく部屋から出ていった。

「かしこまりました」

 ヒョロ男は深々と下げた頭を起こした。暗い光を目に宿して、閉じられた扉をじっと見つめる。

 おもむろに振り返り、残された赤ちゃんをうつろな目で見て、大きく溜め息をついた。

「……今からわたくしが為すことをお見逃しください。この罪はわたくしの命の灯が消えた後に、必ずつぐないますゆえに」

 ヒョロ男は消え入りそうな声でつぶやいた後、腕を大きく振り上げた。

 その手に一振りの短刀が握られているのが見えた瞬間、わたしのすべてが弾け飛んだ。

 気がつくと、ヒョロ男が壁際に吹き飛ばされて、頭から血を流していた。

 赤ちゃんの泣き声が、頭の中で反響する。ヒョロ男がピクッと動いた。大きく見開いた目が、何かを探すかのように、宙をさまよう。

「……しゅご、せい、れ、い? かぜ、の?」

 こいつは敵だ。赤ちゃんを、いや、わたしを殺そうとした。この子はわたしの命だ。逃げなくちゃ。

 わたしは大急ぎで赤ちゃんを風でくるんだ。傷付けないように、優しく、優しく、宙に浮かす。

 よしっ! 大丈夫だ。わたしは飛べる。飛べるはずだ。

「お、お待ちください! 精霊様! わたくしは決して――」

 ガッシャーン! という音とともに、窓ガラスが枠ごと吹き飛んだ。

 大丈夫。風がわたしと赤ちゃんを守ってくれる。窓を突き破って外に飛び出したわたしは、一気に加速した。

 ここは危険だ。どこに行ったらいい? まわりが暗くてよくわからない。月はどこ?

 わたしは空をぐるっと見渡した。満天の星空の中で、下弦の三日月が道しるべのように光っている。

 とりあえず、月に向かって飛ぼう。でも、急がなきゃ。この子は生まれたての赤ちゃんだ。ひとりでは生きていけない。

 小さな赤ちゃんがいる家に預けたほうがいい? でも、近くだと、さっきの連中に見つかるかもしれない。

 遠くのほうがいい? どうしよう? ここってどこなの? どこまで逃げたら安心できるの?

 泣いている赤ちゃんを抱えたまま、わたしは月がある方角に向かって、ひたすら飛び続けた。
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