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くもりのち涙
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小さい頃、空にふわふわ漂う雲は煙からできているのかと思ってた。父と母が死んで火葬場で焼かれたとき、2人は雲になったんだと思った。空をふわふわ浮かんで僕を見守ってくれていると喜んだ。
だから僕は雲ひとつない快晴の日は寂しくなるんだ。
雨が降っている。僕は、傘をささずに空を見上げる。雲が見たいからだ。雲を見れば、両親のことを思い出せる。見守ってくれていると感じられる。
僕の目の前にいる人は訝しげな目で僕を見る。
雨なのに傘をささないなんて、おかしいんじゃないの。
雲が見たいから、と僕が言う。
わざわざ雨の日に見なくても、と言われる。
雨じゃなきゃだめなんだ。
雨じゃないと。
「木の葉は森に隠せっていうでしょ?」
彼女は病室のベットで横になっていた。
重い体を憂鬱そうに起こし、僕にそう話しかけた。顔色は良くない。
彼女は僕が雲を見る理由を知っている。
雲を見ると涙が出ることも知っている。
これからは、僕は強くならなくてはならない。雲を見て、泣くようなことがあってはならない。強く生きていかなければならない。そう彼女に言うと、そうねぇと言い、先ほどのセリフを言った。
「だから、雲を見るときは雨の日にしたら?そうすれば泣いてもわからないよ」
「それじゃ、だめだ。僕は強い男にならなきゃいけないんだ。バレなければいいとかじゃないんだ」
彼女は優しく微笑む。
「泣かないなんて、無理よ。私が死んだら、あなたは私が雲になると思っているんでしょう?きっと、雲を見たら私を思い出して泣くわ」
死ぬなんて、言わないでくれよ、と僕が泣きそうな顔で言う。
「そんなんじゃ、強くなるのは無理ね。明日の手術のときも、きっとあなたは泣いてるわね」
彼女は、咳をした。先ほど、吐き気があると言っていた。苦しそうな顔で僕の手を握った。
「雲ひとつない快晴ね」
彼女はいたずらっ子のような顔で言う。彼女の左手には僕の右手の指が絡められている。
「いい天気だね」
「あなたが嫌いな、ね」
「嫌いじゃないさ、寂しいだけで」
「寂しいって、私がいるじゃないの」と彼女が握る手の力が強くなる。
「そうだな」と僕は恥ずかし気に俯く。
すると、急に彼女が立ち止まった。
パッと手を離し、うずくまると嘔吐した。彼女の肩が震えていた。僕は今でもその震える肩を覚えている。今にも消えてしまいそうなあの肩を。
「手術中」のランプを僕は見つめていた。祈っているわけでもないのに指と指を組んでいた。
すぐに病院に向かった。彼女はしきりに大丈夫だよ、と言っていた。大丈夫という言葉は大丈夫じゃない人が言うんだ、と僕は言う。その時の僕は嫌な予感しかしてなかった。
「手術中」のランプはまだ消えない。
僕は空を見上げる。そこにあるのは天井だった。今日は雨だ。父と母は見てくれているだろうか。
「なにしてるの?」
放課後、いつものように河原で空を見ていると後ろから女性の声がした。
「雲を見てたんだよ」僕は言う。
彼女は制服を着ていた。僕と同じ高校の制服だ。クラスメートだった。
「なんで雲を見てるの?」
僕は父と母の死、そして雲のことを話た。
なぜ、そんなことを話したのか。きっと彼女にも両親がいなかったのをどこかで聞いて知っていたからだろう。
「だから泣いてたんだ?」
え、と僕の口から漏れる。泣いていたのか。気がつかなかった。
彼女は優しい笑みを浮かべていた。
「手術中」のランプは消えていない。
が、僕はすぐに手術が無事に終わったのを確信した。
「天涯孤独っていうやつよね、私たち」
自分以外に肉親いないものね。
彼女が嘔吐し、病院に駆け込んだあの日、彼女は言った。
「そうだね」僕は泣いていた。雲を見たからじゃない。
僕たちには祖父母もいない。
僕たちは天涯孤独だ。いや、天涯孤独、だった。彼女のお腹には子供がいる。
僕らの血の繋がった家族が、お腹にいた。しかも、2人も。
「双子だから、帝王切開になるかもしれないって言ってたわね」
「大丈夫かな」僕はなおも泣く。
「父親になるんだから、子供たちに涙なんか見せちゃだめだよ。お父さんかっこわるーいって言われちゃうよ」
泣き声が聞こえる。手術室の中から。僕らの家族の声が。中に入る。彼女の手を握りながら2人の赤ちゃんを見る。
僕は泣いていた。そして笑っていた。
彼女を見ると彼女の頬を涙が伝っていた。
彼女はこれは汗よ、と、言った。
君は涙を汗の中に隠すのか。と僕は笑った。
雨が降っている。僕は、傘をささずに空を見上げる。雲が見たいからだ。雲を見れば、両親のことを思い出せる。見守ってくれていると感じられる。だけど、もう僕は一人じゃない。彼女がいる。2人の子供もいる。家族ができたんだ。とても、幸せなんだ。泣きたいくらいに、幸せだ。
僕の目の前にいる人は訝し気な目で僕を見る。その後ろには小さい女の子と男の子が雨合羽に長靴を履き水溜りで遊んでいた。
雨なのに傘をささないなんておかしいんじゃないの。
雲が見たいんだ、と言う。
わざわざ雨の日に見なくても、と言われる。
雨じゃなきゃだめなんだ。
雨じゃなきゃ。
嬉し涙をこの子たちに見られてしまうから。
お父さん、かっこわるーいと2人の子供の声が聞こえた。気がした。
だから僕は雲ひとつない快晴の日は寂しくなるんだ。
雨が降っている。僕は、傘をささずに空を見上げる。雲が見たいからだ。雲を見れば、両親のことを思い出せる。見守ってくれていると感じられる。
僕の目の前にいる人は訝しげな目で僕を見る。
雨なのに傘をささないなんて、おかしいんじゃないの。
雲が見たいから、と僕が言う。
わざわざ雨の日に見なくても、と言われる。
雨じゃなきゃだめなんだ。
雨じゃないと。
「木の葉は森に隠せっていうでしょ?」
彼女は病室のベットで横になっていた。
重い体を憂鬱そうに起こし、僕にそう話しかけた。顔色は良くない。
彼女は僕が雲を見る理由を知っている。
雲を見ると涙が出ることも知っている。
これからは、僕は強くならなくてはならない。雲を見て、泣くようなことがあってはならない。強く生きていかなければならない。そう彼女に言うと、そうねぇと言い、先ほどのセリフを言った。
「だから、雲を見るときは雨の日にしたら?そうすれば泣いてもわからないよ」
「それじゃ、だめだ。僕は強い男にならなきゃいけないんだ。バレなければいいとかじゃないんだ」
彼女は優しく微笑む。
「泣かないなんて、無理よ。私が死んだら、あなたは私が雲になると思っているんでしょう?きっと、雲を見たら私を思い出して泣くわ」
死ぬなんて、言わないでくれよ、と僕が泣きそうな顔で言う。
「そんなんじゃ、強くなるのは無理ね。明日の手術のときも、きっとあなたは泣いてるわね」
彼女は、咳をした。先ほど、吐き気があると言っていた。苦しそうな顔で僕の手を握った。
「雲ひとつない快晴ね」
彼女はいたずらっ子のような顔で言う。彼女の左手には僕の右手の指が絡められている。
「いい天気だね」
「あなたが嫌いな、ね」
「嫌いじゃないさ、寂しいだけで」
「寂しいって、私がいるじゃないの」と彼女が握る手の力が強くなる。
「そうだな」と僕は恥ずかし気に俯く。
すると、急に彼女が立ち止まった。
パッと手を離し、うずくまると嘔吐した。彼女の肩が震えていた。僕は今でもその震える肩を覚えている。今にも消えてしまいそうなあの肩を。
「手術中」のランプを僕は見つめていた。祈っているわけでもないのに指と指を組んでいた。
すぐに病院に向かった。彼女はしきりに大丈夫だよ、と言っていた。大丈夫という言葉は大丈夫じゃない人が言うんだ、と僕は言う。その時の僕は嫌な予感しかしてなかった。
「手術中」のランプはまだ消えない。
僕は空を見上げる。そこにあるのは天井だった。今日は雨だ。父と母は見てくれているだろうか。
「なにしてるの?」
放課後、いつものように河原で空を見ていると後ろから女性の声がした。
「雲を見てたんだよ」僕は言う。
彼女は制服を着ていた。僕と同じ高校の制服だ。クラスメートだった。
「なんで雲を見てるの?」
僕は父と母の死、そして雲のことを話た。
なぜ、そんなことを話したのか。きっと彼女にも両親がいなかったのをどこかで聞いて知っていたからだろう。
「だから泣いてたんだ?」
え、と僕の口から漏れる。泣いていたのか。気がつかなかった。
彼女は優しい笑みを浮かべていた。
「手術中」のランプは消えていない。
が、僕はすぐに手術が無事に終わったのを確信した。
「天涯孤独っていうやつよね、私たち」
自分以外に肉親いないものね。
彼女が嘔吐し、病院に駆け込んだあの日、彼女は言った。
「そうだね」僕は泣いていた。雲を見たからじゃない。
僕たちには祖父母もいない。
僕たちは天涯孤独だ。いや、天涯孤独、だった。彼女のお腹には子供がいる。
僕らの血の繋がった家族が、お腹にいた。しかも、2人も。
「双子だから、帝王切開になるかもしれないって言ってたわね」
「大丈夫かな」僕はなおも泣く。
「父親になるんだから、子供たちに涙なんか見せちゃだめだよ。お父さんかっこわるーいって言われちゃうよ」
泣き声が聞こえる。手術室の中から。僕らの家族の声が。中に入る。彼女の手を握りながら2人の赤ちゃんを見る。
僕は泣いていた。そして笑っていた。
彼女を見ると彼女の頬を涙が伝っていた。
彼女はこれは汗よ、と、言った。
君は涙を汗の中に隠すのか。と僕は笑った。
雨が降っている。僕は、傘をささずに空を見上げる。雲が見たいからだ。雲を見れば、両親のことを思い出せる。見守ってくれていると感じられる。だけど、もう僕は一人じゃない。彼女がいる。2人の子供もいる。家族ができたんだ。とても、幸せなんだ。泣きたいくらいに、幸せだ。
僕の目の前にいる人は訝し気な目で僕を見る。その後ろには小さい女の子と男の子が雨合羽に長靴を履き水溜りで遊んでいた。
雨なのに傘をささないなんておかしいんじゃないの。
雲が見たいんだ、と言う。
わざわざ雨の日に見なくても、と言われる。
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