押しかけ女房は叶わない恋の身代わりらしい

雪成

文字の大きさ
9 / 18

お、おいおい……。

しおりを挟む
 
 
 

「お世話になりました」


 アドルフと視線を合わせないままペコリと頭を下げて、私は外に出るために扉のノブに手を掛けた。
 ロランは男性とはいえ丸腰で街まで帰って行ったのだから、きっと今の時間帯や道によっては私が出歩いてもなんとかなるのだろう。それに急げばまだ彼に追いつけるかもしれないし。
 




「勝手に出るな」


 頭上から落とされる影と低く響く声。
 アドルフの大きくて無骨な手が後ろから伸びてきて、私の手の上から重ねられた。
 そのせいで扉を開こうと力を入れてもビクともしない。
 出て行けと言ったり、出るなと言ったり、なんなんだよ。邪魔するな!


「勝手にじゃないよ。ちゃんと出ていくって言ってるんだから。アドルフも出て行けって言ったじゃん」
「……行く宛があるのか」
「あると思う? でもとりあえず街にいく。そこで仕事を探して自立する。最初からそのつもりだっ、た……し……っ?!」


 ガシッと掴まれていた手を力づくでドアノブから引き剥がされたかと思えば、背後から大きな体が覆い被さってきた。
 そのまま拘束するように胸の前で腕をクロスしてぎゅっと抱きすくめてくるから、思わず呼吸を止める。
 


 え、なにこれ。アドルフ、なにしてんの。
 



「あ、あれ?」
「ダメだ。家からは出さない」
「アドルフ?」

 
 うわ、うわあああ……っ、な、なに、なにが起こってるの?! 
 自分以外の高い体温を背中に感じて心臓があり得ないほどドキドキする。
 しばらく忘れていたけれど、アドルフはイケオジだ。いやオジじゃなかった。イケメンだ。それも、ものすごく。
 本当は、私の好みど真ん中の。


「お前は、どうしていつまでもわからないんだ」
「……」
「いつも俺がどれだけウタを心配していると思う?」
「……」


 えっと、あの。これって、まさか。


「も、もしかして、だけど……」
「なんだ」
「アドルフって、私のこと、すきなの?」
「……」




 ……っっっ、なんか言って!!??
 ここで無言になっちゃダメでしょ! いつもみたいに『調子にのるなよ』って舌打ちするところだからね!?


「待って! 一体私のどこに好きになる要素があるの!?」
「自分で言うか?」
「だって女として認識されるようなこと全然してませんでしたけど!? アドルフの前で大あくびもしてたし、ろくに働かずぐうたら三昧だったんだけど! ダメ女が好きなの?! やばくない?!」
「……」


 やばい趣味の自覚があるのか、本人も不本意なのか知らないが、お返事がない。
 お、おいおい……。それなんなん。それどっちなん。


 アドルフは私に警戒心がないというけれど、何も考えていないようでこれでも気をつけていたのだ。
 無いとは思っていたけど、たとえば万が一の確率でそんな対象に見られたら、私はアドルフに遊ばれて捨てられるのが目に見えている。
 この歳で、しかも右も左もわからない異世界なんかで男に弄ばれるのはキツイって!!

 だから、私は絶対にアドルフを男性として意識しないようにしていた。

 アドルフは口は悪いけど世話好きで料理がうまくて文句言いながらもなんでもいうこと聞いてくれるイケメンなんだぞ。
 外出を制限されても元の世界に帰れなくても、この人がいるならまあいいかって思わせてくるほど包容力があって過保護で心配性なイケメンなんだぞ。

 
 呑気に『三食昼寝とイケメン付きだわー』なんて異世界生活に馴染んでいる場合ではない。
 あえて考えないようにしてたのに、どうしてくれる。
 このままじゃ、好きになってしまうでしょうが!!
 


「ウタ……」
「っ!」


 耳元で名前を呼ぶ声が妙に艶っぽくて背中がぞくりと粟だった。

 こ、これはだめだ! やっぱりこの男は危険だ! 
  
  
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

お役御免の『聖女』の生き様

satomi
恋愛
異世界転生をしたリカ。 異世界転生をした女性というものはその国の王子と婚約するというのがセオリーだな~。と、王子様といえば金髪碧眼の細マッチョな超イケメンで、ジェントルマン!という夢を見て王子と対面することに。 しかしそこにいたのは、かなりブヨブヨ。肌も荒れている王子様。 仕方あるまい。この王子様と結婚することになるのは間違いがないのだから、何としてでも王子に痩せていただこう(健康的に)! と、王子様改造計画を始めるのです。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

【完結】正しいモブのススメ。

谷絵 ちぐり
恋愛
全てのモブになりたいあなたへ贈る モブによるモブの為のモブの教科書。 明日、あなたが異世界モブに転生した時の為に役にたつことを願う。 ※この物語は完全にフィクションであり、現実とはなんの関係もありません。

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...