それなりに怖い話。

只野誠

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うどん

うどん

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 男は腹が空いた。
 なので、うどんを食べる事とする。

 乾麺を茹で、つゆを作り、薬味を用意し、うどんを湯から揚げ、冷水でさらし、ざるへと移す。
 うどんを箸ですくい、薬味を入れたつゆにつけ、食べる。

 うまい。

 シンプルなうどんであるが、それだけにうどんの良さを存分に味わえる。
 ただ、男は病んでいた。
 俗にいうところの、ブラック企業、そんなところに勤めていたため、心を病んでいた。
 だからだろうか。
 美味しかったうどんが、うねうねと蠢いているように見え始めた。

 まるでうどんが虫のようだ。
 そう、一度見えてしまうと、とうしても食欲がなくなる。

 男はつゆの入ったお椀をおき、その上に箸を乗せる。
 そして、まだ半分以上残っているうどんを見る。
 気のせいだという事はわかっているのだが、男はもううどんを食べる気にはなれなかった。

 ただのうどんだ。
 動くわけはない。
 なのに、男にはうどんが蠢いているように見える。

 男は食欲もなくなったので、うどんをタッパに移し冷蔵庫にしまう。
 そして、洗い物もしないで、そのまま床に就く。

 翌朝、男は目を覚ます。
 腹がすくので、昨日のうどんを食べようと思いタッパを開ける。
 だが、タッパの中身は空だった。

 男はふと思った。
 あのうどんは蠢いていた。
 だから、タッパから逃げたのだと。

 何も入っていないタッパを男は眺め、そう思うことにした。
 男は病んでいるのだ。

 いや、男が食べた物は本当にうどんだったのか。

 それ以降、男はもううどんを食べることをやめた。
 うどんが逃げるからだ。


 
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