それなりに怖い話。

只野誠

文字の大きさ
243 / 709
ねぐるしい

ねぐるしい

しおりを挟む
 女は寝苦しい夜を過ごしていた。
 とにかく蒸し暑い。
 布団などかけてないのに蒸し暑くじめじめして寝苦しい。
 扇風機をつけてはいるが、生暖かい風が当たるだけで全然涼しくはない。

 夕方から夜にかけて二十五度以上なら熱帯夜。そう言う定義であるのであれば、今日は間違いなく熱帯夜だ。

 そんな夜に、かわいそうなことにエアコンが故障し、この蒸し暑い中、女は寝なくてはならないのだ。
 更に窓を開けているせいか、ブーンと蚊の羽ばたく音が聞こえる。
 定期的に扇風機の首振り機能で風で飛ばされていくのだが、それでもしつこく血を吸いに蚊が来る。

 それが蒸し暑さに加えて、女を更に寝苦しくしている。

 布団をかぶれば暑くて寝られず、布団をかぶらなくても暑いのに蚊までくる。
 女は叫びたくなるのを我慢して、顔だけを布団にかけた。
 これで蚊の羽音だけは聞こえなくなる。
 そう思ったからだ。

 だが、どういうわけか、蚊の羽音は布団をかぶっているにもかかわらず間地かでブーンと聞こえてくる。
 布団をかぶるときに蚊が紛れ込んだのかと、女は慌てて、布団を払いのける。

 薄い布団をバタバタと払い、改めて顔にだけ布団をかぶる。
 それでもしばらくすると、ブーンと蚊の羽音が聞こえてくる。
 女も布団が薄すぎて、羽音が聞こえてくるだけだと改めてわかる。
 なら布団をかぶる意味もない。
 ただでさえ暑苦しいし、寝苦しいのだから。

 女はごろごろと寝床の上を動き回る。

 そうしていると、脚の方にひんやりとした空気を感じる。
 扇風機の起こすなぜに乗って冷たい空気が流れてくる。

 女はなんだか知らないけど、少しだけ涼しいと喜んだ。
 また、扇風機の風に乗って冷たい空気が運ばれてくる。
 女はなんだろう、とそう思ったが、涼しいのなら何でもいい、とあまり深くは考えなかった。

 時がたつにつれ、冷たい風が運ばれてくる機会が増える。

 そして、足音が、ヒタ、ヒタ、ヒタ、と聞こえてくる。
 扇風機の羽が周る音に紛れて、確かに足音が聞こえる。
 女も流石に誰かいると気づき、慌てて電気をつける。
 だが、だれもいない。

 電気を消してしばらくすると、またヒタヒタヒタと、部屋を歩き回る音がする。
 女は薄目を開けて部屋を見る。
 誰かの足が、足だけが暗闇の中に見える。
 女は慌てて電気をつける。

 女が部屋を確認すると誰もいない。
 いたとしてもそれはそれで困る。
 女が見たのは足だけで、足から上は見えなかったのだから。
 もしかして、窓を開けていたせいで蚊だけでなく幽霊まで入り込まれた? と女はそう考えた。

 そして、女は誰もいない部屋に向かって言ったのだ。
 居てもいいから扇風機の前に立ってて、と。

 そう言って女は電気を消して再び寝床に横になった。
 扇風機から心地よい冷たい風が流れてくる。
 ほどなくして女は意識は眠りに落ちていく。

 そして、眠る直前に、エアコンが治るまで扇風機の前に居てくれないか、とそう思いながら眠りに落ちていった。
 次の日の夜、扇風機から運ばれてくる風は、生暖かい風でしかなかった。

 エアコンの修理までもうしばらく日数がかかる。
 女の寝苦しい夜は続く。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

奇談

hyui
ホラー
真相はわからないけれど、よく考えると怖い話…。 そんな話を、体験談も含めて気ままに投稿するホラー短編集。

処理中です...