それなりに怖い話。

只野誠

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かぜ

かぜ

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 少女は風邪を引いた。
 鼻水もクシャミも止まらず、体の節々が痛い。
 熱もあるようだ。
 自室の布団の中に横たわりながら、寝るに寝れずに唸っている。

 頭がよく働かずに視界が回る。

 それが少し面白かったので、少女は目を開けて回る視界の天井を見ていた。
 目を閉じていたい欲求もあったが、少女はその視界を見続けた。

 そうすると、天井の角に大きな黒い染みがあることに少女は気が付く。
 そんな染みあったかな、と少女が思っていると、その染みが動き出す。

 それは染みではなく黒く大きな蜘蛛だった。

 少女は悲鳴を上げれなかった。
 少女が元気な時なら、間違いなく悲鳴を上げていたことだろう。
 だが、今、少女はとても弱っている。
 風邪で働かなくなった少女の頭は、その大きな黒い蜘蛛を認識はできるが、それだけしかできなかった。

 その蜘蛛は天井を這い、少女の真上までやってくる。
 嫌だな、と少女が思っていても、ひどい風邪のせいで、少女は動くことが出来ない。
 そうしていると、その大きな蜘蛛は天井に糸を張り、すっーと少女に向かい降りて来た。

 少女は逃げ出そうとするのだが、体にまるで力が入らない。
 風邪の症状とも少し違う、どういう訳か、少女はまるで動けない。
 少女がどうにか動こうとしていると、蜘蛛が少女が寝ている布団の上にポトリと降り立つ。
 蜘蛛にしてはかなりの重みがある。
 それほどまでに、その蜘蛛は大きい。

 そうして、その黒く、大きな蜘蛛は、無機質ないくつもの目を少女に向ける。
 そして、まるで少女を狙うかのように、口のあたりの牙のようなものをワシャワシャと動かす。

 次の瞬間だ。
 蜘蛛が少女の顔を目掛けて飛び掛かる。

 次の瞬間、ハッ、と少女は起き上がる。
 いつの間にかに少女は寝ていたのだ。

 酷く汗をかいてはいるが、体調は大分よくなっている。
 疲労感はあるが、風邪の時の節々の痛みなどは無くなっている。

 少女はなんとなくあの蜘蛛が風邪を獲ってくれたくれたのだと、そう思うことにした。
 それ以来、少女は部屋で蜘蛛を見かけても、優しくティッシュで包み、外に逃がしてやっている。

 ただそれだけの話だ。



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