それなりに怖い話。

只野誠

文字の大きさ
344 / 709
いぬ

いぬ

しおりを挟む
 少年は恐れて速足で下校していた。
 少年の後ろを犬が付いてくるからだ。

 ハァハァハァという呼吸音、テッテッテッという獣の足音、首輪の鎖をジャラジャラと引きづる音、黒く大きなけむむじゃらの大きな姿。

 少年にとってはそのすべてが恐怖の対象だった。
 自分とおなじくらいか、もしくはそれ以上の黒く大きな犬だ。

 首輪が付いているので野良犬ではないのだろう。
 また、その犬が唸るような威嚇音を出すこともない。
 それでも、少年にとっては恐怖の対象でしかなかった。

 夕闇に佇むその黒い姿は、ある種の胡散臭さと不気味さを盛り合わせたからだ。

 少年が速足で自分の家へと向かう。
 その後を大きな犬が付いてくる。
 少年が振り返ると、犬は歩みを止めてその場に座り込む。
 ある一定以上の距離に犬は近寄りはしない。
 少年の方からも近寄りはしないので、犬との距離が縮まることはない。

 まだ幼い少年からすると、その犬は大きすぎるのだ。
 またペットなどを飼ったこともない少年はどう接すればよいかもわからない。

 少年の帰り道が四辻に差し掛かった時だ。
 四辻の、少年から見て右の方から、黒い人影がヌッと現れる。
 ちょうど影になり黒い、大きな人影に少年には見えた。

 背の高い、中年の男性。
 ただ本当に影になっていて、少年からはそのシルエットしか見えない。
 けれど、少年にはそう見えたのだ。

 そのシルエットのような人影に向かって、少年を着けて来ていた犬が急に走り出す。
 黒く大きな犬は黒い人影に向かって飛び掛かった。

 それを黒いシルエットの人影は受け止め、抱きかかえ、黒く大きな犬の頭を撫でる。
 ひとしきり犬を撫でた人影は、少年に気づき、頭を下げ、そして、黒い犬と共に少年の前を横切って行った。

 黒い大きな犬も嬉しそうにその人影に付いて行った。
 少年は茫然と見ていたが、一瞬だけ夕日が当たり、見えたその黒い人影の姿は、人間の物ではなかった。

 少年は四辻の前で少しの間呆然として立ち止まっていたが、やがて何事もなかったように帰路についたのだ。
 ただ、それだけの話だ。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

神送りの夜

千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。 父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。 町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

処理中です...