それなりに怖い話。

め

め

　少年が塾の帰り道で目に出会った。
　目だ。
　大きな目だ。
　目玉ではなく目だ。

　住宅街の何の変哲もない道路に、人の目が、目だけが、道の真ん中に浮かぶように忽然とあったのだ。

　少年はそれこそ自分の目を疑った。
　だが、その目はあるのだ。
　瞬きもしているし、辺りをギョロギョロと、何かを探すかのように黒目が動いている。
　しかも血走った目だ。その目は何かに怒っているかのように少年には思えた。
　その目が少年に気づく。
　少年を凝視する。

　あまりにも眼力に少年は動けなくなる。

　そうしているとその目は少年に近づいてくる。
　その目が近づいてきて、初めて分かった。
　それは渦に浮かんだ目だ。
　黒い渦がありそこに目だけが浮かんでいる。
　もう夜なので近寄られるまでその黒い渦に少年は気づけなかったのだ。

　少年は体を動かすこともできずに、ただその目に睨まれる。
　ものすごい勢いで睨まれる。
　少年は既に泣きたくなっていたが、それすらもできなかった。
　ガクガクと体は震えるだけで何一つ言うことを聞かず、泣くこともできなかった。

　そうこうしていると、その目は少年を睨む。
　なにかを見定めるかのように少年を睨み続ける。
　血走った目で。
　憎しみに満ちた目で。

　だが、しばらくその目は少年を睨んだ後、何事もなかったかのように黒い渦に飲まれるように消えていった。

　そうするとやっと少年の体は動くようになる。
　少年はまだ震える足を動かし何とか家まで逃げ帰った。

　後日、その辺りで一人の高校生男子が泡を吹いて倒れているのが発見される。
　その高校生は、うわ言の様に、目が目が、と言っていたという。

　以後、少年がその目に出会うことはなかった。
　その高校生こそが目が探していた相手なのだろう、と、少年は心の中で思っていた。