それなりに怖い話。

只野誠

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きみょうななきごえ

きみょうななきごえ

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 女は仕事帰り、ちょっとした郊外を通らなければならない。
 そこでとある廃屋の前を通る。
 もう森にのまれてしまったような、今では珍しい場所の前を。
 元々は何かの工場だった場所らしいのだが、今はただの廃屋だ。

 そこでいつも、ヒョーィ、ヒョーィと言う奇妙な鳴き声を耳にする。
 恐らくは鳥だろう。
 夜に鳴く鳥など珍しく思うが、そういったものもいないわけではない。

 女もその鳴き声の元を探そうとはしない。
 そもそも鳥なら見つかりもしないだろう。
 日が暮れた夜ならなおさらだ。
 ただ見れるものなら見てみたい、そう思っていた。

 その日は、妙に、ヒョーィ、ヒョーィという鳴き声が近い、女はそう感じていた。
 いや、鳴き声が近づいてくる。
 そう感じていた。
 鳴きながら鳥も飛ぶようなことはあるのか、女はそう考えたが、トンビなんかは飛びながら鳴く、なんてことを考えていた。

 だが、鳴き声と共に聞こえて来たのは森をかき分ける足音だった。

 女は鳥ではなく、イノシシなどの獣だったのか、と、恐怖する。
 ただこの辺りで鳥の様な鳴き声を上げる獣などがいるとは聞いたことがない。
 田舎ではあるが野良犬すらいないような地域だ。

 女がどうしようかと、戻ってタクシーでも呼ぶか考えていると、それが姿を現す。

 それは人だった。
 いや、女にも確信は持てなかったが、恐らくは人だった。

 木でできた手掘りの鳥の面をかぶり、体中に鳥の羽をつけた、いや、違う、直接肌に、皮膚に鳥の羽を突き刺した、そんな人影が薮をかき分け、女の前に姿を現したのだ。
 何の鳥の羽かはわからないが、無理やりに突き刺しているらしく、至る所に血が滲み、それが滴っている。

 女は悲鳴を上げる。
 そうすると、鳥の様な人は、ヒョーィ、ヒョーィと甲高い鳴き声を上げ、薮の中へと逃げていった。
 女はすぐに元来た道を引き返し、大通りまで帰ってタクシーを拾って帰宅した。

 あれが何だったのか、人間だったのか、そうじゃなかったのか、女には今もわからないままだ。
 ただあの廃墟のあたりでは鳴き声を聞かなくなったことだけは事実だ。




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