それなりに怖い話。

只野誠

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つり

つり

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 男の趣味は釣りだった。
 近くの防波堤に行って短い竿で糸を垂らす。
 釣れなくてもよいし、釣れてくれればなおよい。

 男は休日の度に、必ずでもないが、暇があれば釣りをしに来ていた。
 ただ、男にに何かしらの釣りの知識があるわけではない。
 ただ防波堤から海に釣り糸を垂らす、その光景が好きだっただけだ。

 その日も男は釣りをしていた。
 気が付くともう夕方で海が黄昏どころか闇に染まっていた。

 今日は随分と釣りをしてしまった。
 そうして釣果を見る。
 海水の入ったバケツには小さい魚が数匹いる。
 男には食べれる魚かどうかも判断がつかない。
 家に帰って、男の妻に見てもらわないとならない。
 男の妻はこの辺りの生まれで魚のことは男よりも詳しい。
 男は別の地域から仕事でやってきた者だからだ。

 ここは田舎で自然以外何もない。
 だから、男は暇なときは釣りをするしかないし、それを趣味としたのだ。
 今日もそうだ。
 土曜日だったがやることがない上に、妻の友人らが遊びに来ている。
 邪魔しては悪いと、ここへときたのだ。

 男が帰ろうと帰り支度を始めた時だ。
 釣れてますかな? と、老人に話しかけられる。
 あまり、身なりのよい老人ではない。
 だが、男は、見ての通りですよ、とバケツの中を嬉しそうに見せる。話しかけられて嬉しかったので男も笑顔だ。
 あまり良い釣果とは言えませんな、老人はそう言って笑う。
 海に糸を垂らしているのが好きなだけなので…… 良かったらこの魚いりますか? 食べれるのかどうかも私にはわかりませんが、男は老人にそう言ってバケツを差し出す。
 おやおや、これはすいませんな、どれも小さい魚ですが美味しいのでありがたいですよ、老人は差し出されたバケツを受け取る。
 男はにこやかに笑い、バケツはこの辺りに置いておいてくれれば良いですから、と伝え帰り支度を始める。

 細く短い釣り竿と練り餌の入っているケースだけを持って男は家に帰って行った。

 その事を男は妻に話す。
 男の妻はその話を聞いて、その老人はこの辺りの海の神様よ、何かいいことがあるかもね、と、そう言って笑った。

 次の日、男が防波堤に行くと、防波堤の一番端にバケツが置いてあるのが見えた。
 男は何の気なしにバケツを取りに行く。
 そうすると物凄い腐臭に男は鼻を抑える。
 そうして鼻を抑えながら何とかバケツのところまで行く。
 男がバケツを拾い上げたところで驚く、防波堤のすぐ下にあったのだ。

 それは人だったもので、今は人と思えないほど膨らんでいて、腐臭を放っている。
 かろうじてそれが人型だったため、男にもそれが水死体だと分かった。

 男はすぐに警察に電話を入れる。

 それからしばらくして、その水死体が数か月前に漁に出て帰ってこなかった妻の叔父さんだと分かった。
 妻は男に感謝し、男が神様に良くしてくれたから、神様が叔父さんを探して連れて帰って来てくれた、と、そう言った。
 ただ、男としてはかなりショッキングな体験だったため、防波堤での釣りはやめた。
 そうしても、あの光景が脳裏に浮かんできてしまう。

 この辺りは田舎で、海もあれば川もある。
 少し遠くはなったが、男は釣り場を川に変えた。

 ただ、そこでも…… おっと、これはまた別の話だ。




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