それなりに怖い話。

只野誠

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おい

おい

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 女が夜遅くに家に帰る道を歩いていると街灯もない雑木林の前で、おい、と声をかけられる。
 声がした方に女は視線を向ける。

 だが、そこには何もない。
 ただ真っ暗な闇の中に雑木林があるだけだ。

 女は足を止めて首をかしげる。
 そして、再び歩き出そうとした時だ。
 また、おい、と声をかけられる。

 すぐにその声の方を女は見るが、やはり雑木林があるだけだ。
 その雑木林もそれほど生い茂っているわけではない。
 人が隠れるような場所はない。

 では、どこから声がするのか。

 女は少し怖くなり、急いでその場を去ろうとする。
 そうすると、今度は先ほどよりも大きい声で、おい、と呼び止められる。
 声が大きかったので、より正確な方向がわかる。
 少し上から声がかけられている。
 雑木林、その木の上からだ。

 女はゆっくりと目線を上げる。
 そこには顔があった。

 中年男性の顔だ。
 ただ、あるのは顔だけだ。
 しかも、その顔の左右から四対の節くれだった脚が生えている。
 言うならば、蜘蛛の胴体部分が中年男性の物に置き換わっている、そんな化け物が、雑木林の木の上から、やはり蜘蛛のように垂れ下がっていたのだ。

 女は息をのむ。
 悲鳴を上げて訳も分からず逃げれればどれだけ良かったことか。
 だが、女の足は恐怖で動かず、その場に釘づけにしてしまったのだ。

 女は、なにかよう? と、震える声でその化け物に声をかける。
 そうするとその蜘蛛の様な中年男性の顔は、しんでいるとおもうか? と聞いてきた。

 女は、誰が? と聞き返したかったが、それより先に、そんなナリしてるんだから死んでるに決まってるじゃない! と反射的に答えてしまう。
 そうすると、中年男性の顔は悲しそうな顔をする。
 そうか、と一言いい残して、蜘蛛のようにスルスルと上へ、何もない真っ暗な空へと消えていった。

 それから、女には何事も起きなかった。
 だが、半年くらいたったあとのことだ。
 その雑木林で身元不明の白骨死体が見つかったと、噂でだが聞いた。

 女は何となく、あの蜘蛛のような顔の人物なのだろう、そう思ったそうだ。
 それだけの話だ。




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