それなりに怖い話。

只野誠

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ねったいや

ねったいや

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 暑い、暑い夜だった。
 とても蒸し暑く、エアコンなしに寝られるような環境ではなかった。
 だが、女の部屋のエアコンは故障してしまっている。

 女は扇風機をつけ、それを頼りに寝付くしかない。

 しかも、女は一人暮らしであり、窓を開けっぱなしで寝れるほど度胸もなかった。
 なんでこんな暑い時期に故障なんて、と思うのだが、暑いからエアコンをつけようとしてエアコンが故障していたのを発見したのだ。
 その翌日には修理に来てもらったのだが、必要な部品がないとかで数日かかるという話だ。
 
 そのせいであと数日はこんな暮らしをしなければならなかった。
 女はベッドの上で転がりながら、朝起きたら干からびているんじゃないか、そんなことを考えていた。
 どうにか涼をとる方法を調べ、ペットボトルを凍らせて扇風機の前に置く、なんてこともしているが、ペットボトルを凍らしてもこの蒸し暑さではすぐに溶けてしまっている。

 明日は五百ミリリットルのボトルではなく、一・五リットルのボトルでも買ってきてそれを凍らせておこうか、などと考える。

 それほどまでに暑い。
 蒸し暑いのだ。
 凍らせた五百ミリリットルのボトルを皿にのせて置いておくだけで、そこにかなりの水溜まりができるほどだ。

 今も、もう溶けてしまってはいるだろうが、扇風機の前にペットボトルが置かれたままになっている。
 まだ凍っていた時は冷たい風を運んできてくれてはいたが、今は生暖かい風がくるだけだ。

 こんな環境では眠れない、女がそう思い、つい目を開いてしまった時だ。
 扇風機の前に誰かがいる。
 一人暮らしにも関わらず誰かがいる。
 女が静かに目を凝らすと、それが徐々に見えてくる。

 目が異様に大きく、ぼさぼさの髪の毛、細い棒きれのような手足。
 痩せた線の細い体なのに下っ腹だけは妙に大きい。
 そんな存在が扇風機の前に座り込んでいるのだ。

 正確にはペットボトルを乗せた皿の近くにいる。
 その存在は、凍らせておいたペットボトルが結露して集まって滴り落ちた水を、長い舌で舐めているのだ。

 女は息を飲む。
 あれは何? と考えるが理解できない。
 だが、間違いなく人間ではない、女にはそう思えた。

 女が固まっていると、その存在が女が起きたことに気づき、水をくれないか、としゃがれた声で言って来た。
 無言で女は頷き、飛び起きて、コップに氷を入れ水を注ぎ、その存在の近くに置いておいて、自分はトイレに逃げ込んだ。

 トイレの中であれは何だろう? と考えるが、思い浮かばない。
 女がトイレにこもること数分だ。
 トイレにも熱がこもり、トイレの中で女は汗だくになる。
 せめてトイレの換気扇をつけてから逃げ込むんだったと、女は後悔する。

 トイレの蒸し暑さに耐えきれなくなって、女がゆっくりとトイレから出ると、あの存在はもういなくなっていた。
 そして、丁寧に机の上に飲み終えたコップが置かれていた。

 女も思う。
 オバケもこの暑さでまいっていたんだろうと。
 そんなこともあってか、その日は一睡もできなかったそうだ。

 ただそれだけの話だ。



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