それなりに怖い話。

只野誠

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あきべや

あきべや

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 とある新築のマンションに一部屋だけ空き部屋がある。
 なぜ空き部屋なのか、それを知っている者は少ない。

 その空き部屋の隣に住む男も自分の部屋の隣が空き部屋ということは知っている。
 ただ隣人がいないと言うことは、隣人トラブルもないし、静かで好都合だと思っていた。

 ある日、空き部屋のはずの隣から物音がするようになった。
 男はついに誰かが入居してきたか、と少し残念に思う。

 それから隣の部屋から度々物音がするようになる。

 それが時間を問わず、深夜だろうが、昼間だろうが、早朝だろうがだ。
 壁をバンバンと叩く様なもの音だ。
 男が五月蠅くしているならわかる話だが、男がなにか騒音を出しているようなこともない。
 その時は、あまりにも深夜にそんな音が聞こえてきたので、男は翌日に管理会社に電話する。
 隣が時間を問わず騒音を出してきて困ると。
 男が自分の部屋番号と物音が聞こえて来るほうの部屋番号を伝えたときだ。
 電話対応している人間の言葉が止まる。

 そして、男に伝えて来る。
 その部屋は空き部屋です、と。

 それを聞いた男はゾッとする。
 そして、管理会社の人間は後日確かめにいく、と、そう言い残した。

 翌日の事だ。
 確かに管理会社が着て隣の部屋の様子を確かめているようだ。
 男にも挨拶しに来た。
 そして、やはり誰もいないし、いた形跡もない、と、そう伝えてくる。

 じゃあ、あの音は何だったんだ? と男が聞くと、管理会社の担当者も困った顔をする。
 男もカッとなって玄関からでて、空気の入れ替えの為か、開けっ放しになっていた隣の部屋を覗く。

 そして、覗くんじゃなかったと後悔する。
 家具一つない部屋の真ん中に花瓶が床に置かれ、一輪の枯れかけの花が置いてあるだけだった。
 それ以外は確かに何もない。
 エアコンすらまだ設置されていない。
 男の目から見ても、誰かがいたとは思えない、そんな部屋だったのだ。
 それなのに部屋の真ん中に、花瓶があるのだ。

 男は管理会社の担当者に聞く。
 あの花瓶はなんなのだ、と。

 管理会社の担当者は困った表情を浮かべるだけで、男の問いには答えない。
 けど、見ての通り誰かがいるわけではないので、そう言って担当者は逃げるように去って行った。

 それからも、いないはずの隣の部屋から壁をバンバンと叩かれる様な音がする。
 男も不気味で仕方がない、そう思っていた。

 それから数カ月後の話だ。
 風の噂でどこかの建築会社の作業員が新築のマンションで引渡し前に首を吊った、という話を聞いた。
 男はすぐに、ああ、自分の隣の部屋だ、と確信したそうだ。

 それ以来、男は壁を叩く音が聞こえても、聞こえないふりをすることにした。
 恐らくは関わってはいけない事なのだと。






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