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第2話 邪王炎殺黒川さん
ロールケーキかもしれない
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僕は今日も空調の入っていない会議室で、息を詰まらせていた。
唯一、一緒に閉じ困られている細身の男は、僕を心配してか、ゴロゴロとした半透明な結晶がいくつも入った袋をガジャリと乱暴に差し出した。
「どうした北野ァ!まるで暑くて死にそーな顔だけどよぁ!氷なめろ、な!」
「室長、それ氷砂糖ですよね」
「氷川なりの凍えるジョークってやつだなぁ!」
豪快に笑いながらガリガリと氷砂糖に噛みつく僕の上司と、乾いた笑い声を振り絞る僕。
ああ、うるさい。うるさいったらありゃしない。
僕の上司である氷川さんは、パット見こそエリート気風漂う佇まいだし、名字に「氷」の一文字が入っていることからクールに見られがちだ。
だがその実、高校から今も続けているアメフトの影響で、40代になってなおゴリゴリの体育会系を続けている猛者である。
だから、大して室温を下げることに貢献していないばかりか、会議中ワイシャツを脱いだタンクトップ姿でついぞ忙しなく歩き回っていても、それは日常なのである。
僕と二人きりとはいえ、パソコンの前から居なくなっては現れてを繰り返すわけだが、オンラインの参加者からどう見えているのだろう。
...言うほどの興味はないけど。
十数分後。
大した意見も出せずにヘトヘトになりながら会議室を出る僕だが、氷川さんは午後には早退してアメフトの試合に臨むらしく、「全員ぶっ殺してやる」と冷たい殺意を滾らせていた。
その矛先が僕に向いていないことくらい理解できるが、それでも怖いものは怖い。
そそくさと離れた僕は、黒川さんに会釈してさっさと席に着こうとしたのだが...
「怪我でもしたの?」
その席には、ガムテープよろしく巻かれた茶色の細長い布があった。
赤黒いシミの残る同じ布の切れ端が、テーブルの上に無造作に積み上げられている。
僕にはそれが、包帯のように見えたのだ。
思わず聞いてしまったが、彼女は何気ない口調でこう返した。
「いえ?ただ、巻き方を忘れないようにしたくて」
僕がどう返したものか思案していると、彼女は恥ずかしそうに目をそらし、リュックにそれらを突っ込んだ。
そして、そのまま彼女はスンとした顔で仕事に戻ってしまう。
僕もそれ以上踏み込めず、悶々とした気持ちを抱えて仕事に戻るのだった。
唯一、一緒に閉じ困られている細身の男は、僕を心配してか、ゴロゴロとした半透明な結晶がいくつも入った袋をガジャリと乱暴に差し出した。
「どうした北野ァ!まるで暑くて死にそーな顔だけどよぁ!氷なめろ、な!」
「室長、それ氷砂糖ですよね」
「氷川なりの凍えるジョークってやつだなぁ!」
豪快に笑いながらガリガリと氷砂糖に噛みつく僕の上司と、乾いた笑い声を振り絞る僕。
ああ、うるさい。うるさいったらありゃしない。
僕の上司である氷川さんは、パット見こそエリート気風漂う佇まいだし、名字に「氷」の一文字が入っていることからクールに見られがちだ。
だがその実、高校から今も続けているアメフトの影響で、40代になってなおゴリゴリの体育会系を続けている猛者である。
だから、大して室温を下げることに貢献していないばかりか、会議中ワイシャツを脱いだタンクトップ姿でついぞ忙しなく歩き回っていても、それは日常なのである。
僕と二人きりとはいえ、パソコンの前から居なくなっては現れてを繰り返すわけだが、オンラインの参加者からどう見えているのだろう。
...言うほどの興味はないけど。
十数分後。
大した意見も出せずにヘトヘトになりながら会議室を出る僕だが、氷川さんは午後には早退してアメフトの試合に臨むらしく、「全員ぶっ殺してやる」と冷たい殺意を滾らせていた。
その矛先が僕に向いていないことくらい理解できるが、それでも怖いものは怖い。
そそくさと離れた僕は、黒川さんに会釈してさっさと席に着こうとしたのだが...
「怪我でもしたの?」
その席には、ガムテープよろしく巻かれた茶色の細長い布があった。
赤黒いシミの残る同じ布の切れ端が、テーブルの上に無造作に積み上げられている。
僕にはそれが、包帯のように見えたのだ。
思わず聞いてしまったが、彼女は何気ない口調でこう返した。
「いえ?ただ、巻き方を忘れないようにしたくて」
僕がどう返したものか思案していると、彼女は恥ずかしそうに目をそらし、リュックにそれらを突っ込んだ。
そして、そのまま彼女はスンとした顔で仕事に戻ってしまう。
僕もそれ以上踏み込めず、悶々とした気持ちを抱えて仕事に戻るのだった。
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