総務の黒川さんは袖をまくらない

裏話

0.9話

―――すいません、お忙しいところ。

いや、別にいいですけど。
記者の人って社内の人間相手でも録音するんですね。
それとも、これも記事になるんですか？


―――そう身構えないでください。

いや、身構えますよ。
相手があの水樹ともなれば。
あんた、評判よくないですよ。


―――･･･まずは自己紹介から、お願いします。

はいはい、スルーですか。
総務部の部長をしてます、内藤です。

それで用とは？


―――総務部の業務委託の状況をヒアリングしにきました。

はぁ？
出版事業部のあんたが何の権限があって？


―――取締役から勅命ですよ。出版事業部も営業部も人手不足で喘いでいるのに、バックオフィスばかりが委託を入れてる状況をアンフェアと思ってる人間は多くないんです。

初耳ですが...
まあ、そう思われても仕方ないですね。


―――オフレコですが、上は活用状況によっては予算を手元に回そうとしてまして。それで、実態調査を。

上、ですか。
オフレコと言うわりにアンタは録音するんですね。


―――総務で雇っている黒川さん。彼女を採用した効果を教えてください。

仕事は破綻せずに回っている。
それ以上の評価はないですよ。

まだ若いのに仕事を覚えるのも早く、助かりました。


―――彼女を採用した経緯を教えてください。

新卒の田中がGW明けに経企に異動したので、その穴を埋めるためです。
期初にそんな予定はなかったので、言ってみれば補欠ですね。

元々別の部署が派遣を入れてるので、そこに派遣元は揃えました。


―――今、彼女の派遣を止めたらどうなります？

...それは、色々とまずいですね。
備品なり何なり、社内の物理的なインフラの質は下がります。

...まさか本当に止めようなんて考えてませんよね？


＜＜書き起こし終了＞＞


備考

派遣元は確かに昏寧堂からの発注実績が他部署である。
過去には、リソース不足の原因となった経営企画室も発注をしていた。
内藤の態度は、伝えたフェイクの背景を考えれば妥当なもので、不自然さはない。
･･･今の所は。