総務の黒川さんは袖をまくらない

八木山

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裏話

3.5話

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<<音声書き起こし>>

―――それで内藤さん、話とは。

ええ、取引がしたいんですよ。
こちらとしては派遣を打ち切られるわけにはいかない。
そちらは彼女の情報が欲しい。
そうでしょう?


―――情報と引き換えに何か


彼女の契約を向こう半年確保する稟議を出します。
それを今週中に承認するよう上に掛け合ってください。
・・・こちらの情報があなたの目的に関係があるかは保証しませんがね。


―――それは不公平では。

いやいや、イーブンでしょう。
少なくとも経営層とのパイプがあるのは確かなようだが、あんたの言うようにバックオフィスに緊縮財政を敷こうとしているという事実関係は明らかでないんですから。


―――・・・確約はできませんが、それでよければ。

いや、確約してほしい。
それが難しければ出版事業部の予算をシェアいただきたい。
特別取材費、でしたっけ。
あなたにはその程度の決算権はあるんでしょう?


―――・・・・・・わかりました、いいですよ。善処します。・・・3か月くらいなら。

歯切れが悪いですね。
まあ、いいでしょう。
彼女、あなたの昔の記事原稿、それもボツのを読んでますよ。


―――ボツの記事原稿を、総務の権限で?

ええ。出版事業部の記事原稿のアーカイブは4年経つとハードディスク化されてるのは流石にご存じですよね?
物理ハードディスクの管理は情シスではなく、総務の資料管理係なんです。
原稿データのファイルリストを管理台帳と照合したいと、問い合わせがあったということで黒川さんに作業許可を出しましたが、そのリスト、あなたの2020年のボツ原稿の領域でした。


―――2020年というと、アーカイブされたばかりですね。

ええ。基本出版事業部の現在進行形の掲載物情報は、社内でもクレデンシャルなサーバ領域に保存されていますから事業部外の我々は「絶対に」見ることができません。
しかしアーカイブされた物理ファイルとなれば話は別です。

そして作業依頼は申請者は氏名を記載すればだれでも出せます。
依頼者は、水樹さん。あなた本人と言うことになっていました。


―――私はそんな依頼出していない。ということは、黒川さんは私の名前で申請を出し、正式にあなたの許可をもらった上で原稿を見た、と。

おそらくはそういうことでしょう。
具体的にどのファイルを見たかまではわからないものの、あなたにとっては有益だったのでは?


―――内藤さんも悪い人ですね。そんな黒川さんを引き留めようとしているんだから。


いやいや。申請者ご自身に作業の結果はどうでしたか、とヒアリングしたまでですよ。
結果、申請者を騙ることができるとわかったわけで、これらは一切完全に我々の定常業務の一環ですよ。


<<書き起こし終了>>

備考

2020年の記事を見直すと、『武原流救世道場』のルポのボツが見つかった。
道場に出入りしている信者を取材し実態を明らかにしようとしたのだが、途中で取材に好意的だった面々がある夏の日を境に一気に沈黙し、取材が立ち行かなくなったことでボツとなったのだ。

黒川は納戸氏謹製のヘアゴムをつけており、それ武原に依頼されたデザインだった。
→依頼人の言う「私に声をかけた理由」は、武原武かもしれない


依然、内海探偵は黒川の尾行や素性調査に失敗している。
探偵さえ寄せ付けない能力を、どこかで得ていた?
→原稿データを盗みに来たスパイの可能性も捨てきれない?
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