総務の黒川さんは袖をまくらない

与太話

8.5話

＜＜音声書き起こし＞＞


―――どうも、お見舞いにきました、内海さん。

いやー、大変やったで！
警官学校時代に習った受け身がなかったら死んでたわ。

ほんまやで？入院費出るんかなこれ。


―――多少はこちらからも出しますが、犯人からも貰えるのでは？何せ相手はカルトの教祖ですし、経済的には治療費の請求に応じられると思うんです。

...水樹さん、そない簡単に済むんやったら今の今まで野放しになっとるわけないやないか。


―――と言うと？

武原武は逮捕されてへん。
信徒が身代わりになったんや。
そらぁ、治療費そのものは出るけどもね？


―――それで、黒川が北野を誘ったのには、何か理由があったんですか？

最初はただ、ストーカーから身を守るためと思ってん。
事実、小学生と会社の同僚の二人が追っかけとったわけやしな。
ただな･･･腑に落ちんこともあってん。

もしかしたら、黒川の標的は北野君かも知らんで。


―――･･･何があったんです？

あの二人、太った男に品川駅の高輪口で襲われかけたんや。
たまたま別のストーカーの男が間に入ったことで事なきを得たんやけどね、他の誰でもない黒川がその太った男に目配せをして大人しくさせたんや。
「4CB」とロゴの入ったTシャツも着てたし、おそらく黒川の狂信者やと俺は睨んでんのよ。


―――止めに入ったストーカーの男と言うのは、一緒に武原にぶちのめされた人のことですか？

せや。なんでか、あの後また後を追っかけてきたんよ。
その上、俺のことをストーカー呼ばわりしてきたんやで？
どっちがやねんなぁ、ホンマ！

とにかく、黒川が北野君の近くに座っとるゆうのも、何か思惑があるんちゃうかな。
ただ、俺が二人を追い始めた港南口では、黒川にそんな素振もなかってんな。


そうや。忘れるとこやった。


―――他に何かわかったことでも？

おう、仲のいい刑事が調べてくれたんやけどね。
武原武は、娘である「武原さゆ」の捜索願を出してるわ。


―――捜索願、というと、行方不明になったと？

そう言うことやね。
2020年の9月に、8月末から連絡取れへんようになった言うて。
本当に何かの事件に巻き込まれたか。
あるいは、一方的に縁を切ったか。
少なくとも、まだ見つかってはないみたいや。

それで思ってんけどな、武原音玄が狙っとるのは父親の武原武なんちゃうか。


―――まあ、そうなりますよね。状況を考えればさゆさんが失踪した原因は道場の師範代として父親に虐待を受けていたから、と考えるのが自然ですし。

最悪の場合は、父親によって姉が殺された、と思っとるかもしれん。
どちらにせよ依頼人は武原武の可能性は大いにあると思うで。


＜＜書き起こし終了＞＞

備考

黒川は品川のオフィスから高輪方面へ、北野を連れ添って移動した。
この夜の尾行者は、3人いたことになる。
北野によれば、武原武は3人を全員殴り倒し、黒川の袖を捲り、黒川に殴られ、退散した。

氷川室長
→会社近くのカフェから黒川と北野を追いかけた。
→目的不明だが「太った男」から庇ったのであれば、黒川と北野に危害を和得る意図はない？

内海さん
→品川駅港南口から尾行を始めた。
→目的：黒川の身辺調査

「小学生」
尾行していた。
→目的：黒川をRock姉、北野をその恋人と勘違いし、襲うため


「太った男」を使って黒川が北野に何かをしようとしたとすれば、目的は？
→本物の黒川さゆの過去に北野が関連している？
→北野もまた、相談社で働いていたではないか

どこかで、もう一度馬大氏に話を聞く必要がある。