女子大生の魔女裁判 第四審 =肖像破壊事件=

八木山

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A.行方不明の画家の家にしては整頓されてないか?

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カイリはアトリエのどこにもいなかった。
連絡も既読にならないし、通話しても反応がない。
靴が玄関になかったことで、外に出たのだと気付く。

「どした、そんな焦って」

車の停めてある裏手では、ヒカリが木陰に腰掛けてせせらぎに向かって釣り竿を垂らしていた。
ちろちろと流れる水は綺麗に澄んでいるが、魚が泳いで影は見えないし、木の枝にたこ糸をくくりつけただけの竿は揺れる様子もない。

「カイリ見なかった?連絡取れなくて」
「うん、見た見た」

ヒカリがひょいと、釣り竿をあげる。
糸に括られたサキイカに、サワガニがしがみついていた。

「取ーれた、取れた。で、なんだっけ?」
「カイリ」
「あーね、川上の方にバシャバシャ歩いてったよ」

そう言われても、川沿いに道の様なものは見えない。
こちら側は藪だし、向こう側は切り立った斜面に木々が生い茂っている。

「え、どうやって?」
「だから、川に入ってったんだって。まさか追いかけるん?」

ヒカリが見るように促した先には、看板が立っていた。
「毒蛇注意」と書かれている。
そう言えばユカリのお母さんも、このあたりにいるっていう毒蛇に噛まれたんだっけ。

「ちな、蛇はマジでいるよ。毒があるかはわからないけど、水面から頭が出てたから」
「そんなとこでよく釣り出来るね~」
「水辺に近寄らなきゃ大丈夫でしょ」

そこも十分水辺だと思うけど。
そうなると、カイリのことが心配だ。
アタシが川上りする意思を曲げなかったので、ヒカリは「あーもう」と頭を掻いてから、履いていた長靴を貸し出した。

「水虫移したら殺すから」
「そっくりそのままお返しなんだが~?」

ザブ、ザブと川を上がっていくと、ソイツと目が合った。
せせらぎの水面から頭を出した大きな石の上で横になっている、黒い蛇だ。
長めの充電ケーブルくらいの体長。東京ではなかなか見ない、大物だ。
ヤツもこちらに気付いて、顔を大きく上にもたげた。
チロチロと赤い舌を出し入れしたかと思うと、そのまま川に飛び込んで、川上の方へと泳いで行ってしまった。

「ついてこい」、とでも言いたいの?言われなくても、用事があるから行くが?
は?人間様舐めんなよ?やっかこら!江戸の娘とは勝気強気あたりきしゃりきやで!

無茶苦茶に考えることで、アタシは嫌悪感を必死に押し込めて、歩みを進める。
両岸から川を遮るように伸びた枝を押しのけると、水面の上に仰向けに人が倒れていた。

「カイリ!」

アタシは叫んで、急いで駆け寄った。足元の水が、アタシの足を押し戻そうとする。
それを、さらに力強く蹴っ飛ばして、プカプカと浮かんで、石に引っかかっているカイリの顔を覗き込んだ。

「ああ、ミカリ。どうしたんです」

パチリと眼鏡の奥の目が開く。

「こんなとこで何やってんの!蛇いるんだよ、蛇!」
「何って、見ての通り水浴びですよ」
「着替えは?」
「それなら、あのアトリエにありますよ」

・・・え?ん?はぁっ!?

「な、何?どういうこと?そんなの持ってきてたっけ?」
「いいえ。だから、アトリエに着替えがあるんですってば」

アタシは絶句していた。絶句しながら、カイリに何を言おうとしていたのか忘れて、ただ考えていた。
そうか、肖像画を描かせるくらいだから、着替えぐらい用意するか。うんうん。
いや、するかぁ!?普通ッ!?

プカプカ浮かんだまま、カイリは続けた。

「あのうどん、にとっては本当に『懐かしい味』だったんですよ、ミカリ」
「それは・・・絵を描かせるためにここに来るとき、夕多さんに作ってもらったってこと~?」


ニヤリと笑ったカイリは、パシャリとあたしの顔に水を掛けた。

「あれね、母のレシピなんです」

カイリの顔は、どこか清々しかった。
アタシなら、自分の母親が不倫しているなんて、知りたくなかった。

カイリの母親は、きっとあそこに来ていたのだ。
それも、アナゴが賞味期限切れにならないような、つい最近に。

「昔話をしましょうか」

カイリは引っかかっていた石を掴んで体を起こす。
いつのまにか、ポニーテールを縛っていたヘアゴムはどこかに行ってしまったらしい。
長い黒髪が木漏れ日に反射して、服はぴったりと体に纏わりついていて。
本当にカイリか?と思うほど、大人びた・・・いや、妖艶とさえ思った。

「するのはいいけど帰りながらにしたいかな~」

それとこれとは話は別!
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