探偵内海は宝船を仕舞いこむ

八木山

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品川区会社員殺人事件

俺の目はごまかされへんよ?

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(くそっ、何が起きてる・・・?)


テーブル席についている客の一人は、いつになってもマスターが水を運んでこないことにやきもきしていた。
(もしかして、セルフサービスか?)
キョロキョロと辺りを見回すも、それを示す張り紙も、給水機の類も見当たらない。
「すいません」の一言が言えない自分の気の弱さにうんざりしながら、何故かそのマスターが成り行きを見守るカウンター席を見る。
時代錯誤な角刈りと、スーツの上からでも筋肉が見える背の高い男。
・・・ありゃ・・・まさかヤーさんか?
だから、俺みたいな一般客は相手にしてられないってことか?
だとしたら、黙っているのが吉か・・・

そんな第者がいるとも知らず、駒場はホットミルクで舌を湿らせてから続けた。


「女の正体ですが、意外な人物でした」
「へぇ、誰なん」
「17歳になる、容疑者の実の娘です。事件当日以降は友人宅を渡り歩いていたパパ活でしのいでいたようですが、既に任意同行には応じています」
「当日の足取りは?」
「彼女が言うには、トー横で被害者に見つかり家に連れていかれた、と。トー横周囲の証言もこれを認めています。が、あくまで自宅で父親から財布を預かっただけで、犯行には関与していないと言っています」

内海は甘ったるくなったキリマンジャロを飲み、予想以上に甘くなってしまったその味に眉を顰めた。

「せやったら娘と入れ替わりに奥さんが家に帰ってきて、玄関口で旦那を殴り殺したってことになるわけか。ほな、犯人はその奥さんやな」

マスターは水を運んでもいなければ注文を取ってもいない客が一人いることなど忘れて、じっと固唾を飲んで見守っていた。
内海が薄く笑っていたのだ、自分の発言が覆ることをわかっているかのように。

「ただ、娘は父親からトー横のことを母親に言わない代わりに、肉体関係を強要されたと供述しています」
「ほな犯人は奥さんとちゃうか」
「そうですか?」
「・・・玄関で身の危険を感じた娘さんが、父親の頭をぶん殴った。娘は警察より早く母親に泣きつき、母親は身代わりに自分が犯人だと自白した。娘が暫く自分だけで生活するための資金として、旦那の財布を渡した。娘と母親の関係はどうやったんやろうか」
「前の夫との死別以降は、二人で手を取り合って生きていたようです。特に母親は娘に苦労をさせまいと相当負担を抱えていたと。かなり絆は深いように見えたと近所の住人が証言しています」

想像するだけでも痛ましい事件だ。
なるほど、17歳の娘が20代前半の男から生まれるわけもない。
となれば、40代の妻の連れ子ということは容易に想像がつく。
それがトー横で自分よりも汚らしい男の手によって汚されていると知ったなら、どうだろか。
何かのタガの外れた義父が娘に手を出すことは、ありえなくはない。

「そうなれば、娘は過剰防衛が成立するってことやな」

駒場もしみじみした顔で、「そうだったのか・・・」と頷いている。
マッシブな男のわざとらしい顔に、内海は目を細める。

「・・・もうないよな」
「ええ、もう捜査情報はないです。内海さんの言う通り、過剰防衛の線で聴取を続けます」

またしても、一件落着や。
内海は満足した顔で、甘ったるくそして生ぬるくなったキリマンジャロを飲み干す。

「話変わるんですけど、死んだらハードディスクは破壊してくれっていう、死んだときあるあるがあるじゃないですか」
「まあ、あるなぁ」
「被害者のPCのハードディスクは捜査の証拠品に当たるので中を検めたんですが・・・」

よほど面白いものが入っていたらしい、クスクスと笑う駒場。
不謹慎もいいところだろ、と内海が注意しようとしたその時だった。

「大量の熟女もののAV一色だったんですよ」
「ほな被害者は純愛やないか!」
「えぇ!?」
「・・・やなくて、明確な殺意を持った殺人やないか!」
「えぇ!?」

内海という男はどれだけ手の平を返すのか。
マスターは彼らを注意しようと思えば注意できる立場にあるし、何ならほかの客もいる以上注意すべきなのだが、それでも彼らをあえて放置するのは、が見たいからでもある。
これは内海という人間のやむを得ない思考の癖なのだが、とにかく二転三転する。
それでも最後には何故か真実にたどり着くのだ・・・多分。

駒場は、わなわなと震える内海に恐る恐る伺いを立てる。

「その・・・何がどういう意味なのか・・・」

内海は今までになく、興奮した様子で語り始める。
「ハードディスクが熟女モノのAV一色の男が若い女に自ら手を出すわけないもんねぇ!俺の目はごまかされへんよ?」
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